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日々菜弁 その2料理家・室田 HAAS 万央里 #2

  • 2025.3.14
本日の日々菜弁

今年の冬は毎日、地中にぎっしりと埋まり、今か今かと春を待つ蕗の薹(ふきのとう)のことを考えていた。この街の冬の地面は、下に土があるなんて想像できないほどどこまでも白い。

でも確かに、この雪の下で命は春に向けて育っている。そうでも思わんとやっておれん。スキーもスノボもやらない壊滅的にインドアな私にとって、冬とは春の山菜をひたすらに待ち焦がれる日々だ。

やけっぱちにスコップを雪に突き立てながら、

「この下に!」(ザクッ)
「フキノトウ!」(セイヤッ)

おかげでリズム良く雪かきがはかどる。

蕗の薹は春に出てくる山菜の中でもトップバッターだ。

2023年に長野の田舎に移住し、初めての冬を迎え寒さにおののいた後、温かい陽差しとともにやって来た春。雪が所々溶けて覗く地表に、ぽん、ぽん、と出て来た蕗の薹を見つけたときはありがたさとその可愛らしさに、涙が出そうになった。

今年も、もうすぐあの子たちに会える。そっと土から拾い上げるように採り上げて、匂いを嗅ぐとかわいらしい姿からは想像できない鮮烈な苦味と春の香りがする。天ぷらや蕗味噌にしても美味しいけれど、オリーブオイルやニンニクと合わせたり、ハーブやスパイスと合わせても面白い。今年はどうやって食べよう。

冬に引っ越して雪しか知らないこの家は、裏に川や山があるので、山菜の宝庫に違いない。清らかな水に育てられた蕗の薹はさぞかし美味しいだろう。姿も見ないうちからもうすでに愛おしい。

先週くらいから冬の厳しさに春の日差しを感じるようになった。野鳥の声をよく聞くようになり、晴れた日の雪かきは汗ばみ、雪は重い。

あんなに雪に埋まっていた家の裏にある池にはこんこんと山からの水が入ってくるようになった。春がきた! 春がついにきたのだ!

夫のアトリエにも春の日差しがさす様になった (が、相変わらず寒い)
裏の小さな池にも緑がのぞく

浮かれた私はあろうことか、ある日仕事でやって来た長野駅のスーパーで、買ってしまったのだ。パックに入った蕗の薹を。

店を出た途端ふと我に返り、呆然とした。

うちの子じゃない蕗の薹 (ごめん)
下茹でしてペストに

我が家の裏山にぎちぎちに埋まっている全“蕗の薹”から、

「うらぎりものー!」

の声が聞こえた気がした。

朝、後ろめたいままお弁当のために少し萎びていたパックの蕗の薹を水を張ったボウルに放す。相変わらず吐く息の白い台所で、そこだけが春になった。

今回は裏山の蕗の薹に怒られつつ、ペストを作り、蒸した里芋に合わせてクミン風味の春巻きを作りました。

蕗の薹のペストと潰した里芋は、ざっくりと混ぜる
春巻きも、おかず作りもお弁当にはこの小さなスキレットひとつで事足りる

ペストと春巻きの作り方は最後に。

本日の日々菜弁日記から

それ以外のおかずについて。蒸篭で里芋を蒸している横で一口大に切った南瓜も放り込み、柔らかくなったら薄切りの新玉葱、セロリ、レーズンと混ぜて、ソイマヨ、ビネガー、塩で味つけます。ソイマヨが無ければ、それ以外の調味料とオリーブオイルだけでも。

蕪は小さなフライパンにオリーブオイルで焼いて皿にとって醤油を絡め、人参は少量の胡麻油でさっと炒め、酒と塩でさっぱり。ピーマンは炒めたら味醂と味噌で味つけます。我が家ではお弁当の調理はもっぱら小さなスキレットを使います。

ご飯は蕪の葉をさっきの蒸篭でさっと蒸し、刻んだら塩と一緒に炊けたご飯に混ぜて菜飯に。寒さが残るのでおかず全て火を通したものですが、さっぱりしたければ蕪は焼かずに塩揉みでも。

さて、メインの蕗の薹のペストと春巻きのレシピです。

今日の日々菜弁蕗の薹のペスト / 蕗の薹と里芋のクミン風味春巻き

本日の弁当

〈作り方〉

1)里芋は皮を剥き一口大に切り柔らかくなるまで蒸す(蒸し器がなかったら、皮ごと丸のまま竹串を指したらスッと通るまで茹でてもいい)。

2)皮を剥き、フォークなどで潰し、蕗の薹のペストを味のムラがあるほうが楽しいのでざっくりと混ぜる。一本にひとつまみのクミンシードをパラパラと。シードがなければパウダーを軽く一振り。黒胡椒をお好みでたっぷりと。挽き立てが美味しい。

3)2を2等分にして春巻きの皮に春巻きのように包む。

4)170度ほどの油で、4分ほど面をかえしながら揚げる。お弁当には、春巻きを詰めたら上にお醤油を少し垂らし、柑橘を添える。熱々で食べるときは、ぱらりと美味しい塩を振ってもいい。

*春巻きはレシピの分量を増やして多めに作って冷凍しておくのがおすすめ。蕗の薹のペストは軽く焼いたパンに塗ったり、蒸した根菜につけて食べたり、炙った油揚げに乗せて食べたり要するに酒のアテにも最高です。パスタや、サンドイッチの隠し味にも。

edit : Sayuri Otobe

料理家 室田 HAAS 万央里

出典 andpremium.jp

東京生まれ。17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て2003年に渡仏。モード界で働いた後、ケータリング業に転身、料理教室や出張料理をパリで行う。2023年からは日本に移り住み、長野県にある『バラック食堂』での週2回の地元のオーガニック野菜を使ったプラントベースの食事づくり、料理教室などを行いながら新たな料理本の執筆中。唐揚げ好きな6歳の娘、時たまベジタリアンな夫と暮らしながら「みんなが喜ぶヴィーガン料理」をInstargram(@maorimurota)で発信している。2019年から2021年、朝日新聞デジタル&W で『パリの外国ごはんそのあとで。』を連載。著書に『パリの菜食生活』(青幻舎)や、『Tokyo Les recettes culte』、『Cuisine Japonaise maison』(ともにフランス、Marabout社)がある。

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