しなやかな感性で“人が中心の街”をつくる女性たち

【ジーン・ギャング】地域コミュニティとつながり、自然とつながる

イリノイ大学やハーバード大学で建築学を学び、オランダ・ロッテルダムの大手設計事務所OMAなどでキャリアを積んだジーン・ギャングにとって、独立後の最初の転機となったプロジェクトがシカゴの「アクア・タワー」だ。波打つような独特の形状のファサードを持つ82階建てのビルは、女性建築家が設計した世界一の超高層ビルとして注目された。ただ、彼女が最も大切にしているのは、建物の高さやユニークなデザインではなく、実際に利用する人々と周囲のコミュニティ、さらには自然環境とどのような関係を構築できるかだ。

2023年5月にオープンしたアメリカ自然史博物館の最新施設「リチャード・ギルダー科学教育イノベーションセンター」では、米国南西部の渓谷などからインスピレーションを得た流れるような形状のアトリウムで来場者の好奇心を掻き立てる一方で、鳥の衝突を防ぐフリットガラスを採用するなど、自然との共存も忘れていない。

アクア・タワー（Aqua Tower）

225 N Columbus Drive, Chicago, IL 60601, United States

https://studiogang.com/projects/aqua-tower/

リチャード・ギルダー科学教育イノベーションセンター（Richard Gilder Center for Science, Education, and Innovation）

415 Columbus Avenue, New York, NY 10024, United States

https://www.amnh.org/exhibitions/permanent/gilder-center

【アマンダ・レヴェテ】美術館を人々が行き交う、街に開かれた場所に

2017年に名誉大英勲章CBEを授与されるなど、英国を代表する女性建築家のひとり、アマンダ・レヴェテの原動力は、「壁のない美術館」というコンセプトだ。2009年に設立した建築事務所「AL_A」が初めてコンペに勝ったのは、ロンドンの「ヴィクトリア＆アルバート博物館」の改修プロジェクト。博物館を周囲から隔てていた歴史的建造物の石壁にスリットを入れて、市民が出入りできるようにするという画期的なアイデアは、数々の賞を受賞した。

リスボンの「MAAT美術館」のリノベーションにあたって、彼女の頭を悩ませたのは、風光明媚な川岸にありながら、高速道路と鉄道によって旧市街から切り離されていること。彼女は高速道路をまたいで美術館に行ける橋の新設を市長に直談判した。そうしてできた橋は市民の行き交う広場の役割も果たし、孤立していた美術館が街とつながった。

ヴィクトリア＆アルバート博物館（Victoria and Albert Museum）

Cromwell Road, London SW7 2RL, U.K.

https://www.vam.ac.uk/

MAAT美術館（Museum of Art, Architecture and Technology）

Avenida Brasília, Belém, Lisboa 1300-598, Portugal

https://www.maat.pt/

【フランシーヌ・ホウベン】目指すは一人ひとりのコンディションに合わせた建築

オランダの建築家集団メカノーを率いるフランシーヌ・ホウベンは、オランダの名門大学、デルフト工科大学の建築学部に入学した時から、40年以上にわたって建築に変わらぬ情熱を注ぐ。未来のデザインは、一人ひとりの人間のコンディションを、その中心に置くべきだと説く彼女の代表作は、「台湾・高雄の衛武営国立芸術文化センター」。元軍事訓練基地を文化施設に変えて、平和な未来を築こうとするプロジェクトだ。

「バーミンガム図書館」では、ジュエリービジネスが盛んだったエリアに建てるにあたって、レンガ造りでもガラス張りでもなく、建物の側面を金銀のリングの透かし模様で覆い、優しい自然光を取り込むデザインを考案。読書のための図書館だけではなく、シアター、ミュージックルーム、児童図書館から、シェークスピア・メモリアル・ルームまで、市民コミュニティのための様々な機能を詰め込んだ、複雑で多層的な構造を持った新世代の図書館を設計した。

衛武営国家芸術文化センター（衛武営国家芸術文化中心）

No.1, Sanduo 1st Road, Fengshan District, Kaohsiung 830043, Taiwan

https://www.npac-weiwuying.org/

バーミンガム図書館（Library of Birmingham）

Centenary Square, Birmingham B1 2ND, U.K.

https://www.birmingham.gov.uk/libraryofbirmingham

【永山祐子】脈々と続く人々の思いを未来につなげる

2023年4月開業の東急歌舞伎町タワー、2028年開業に向けて開発が進む「TOKYO TORCH Torch Tower」など、大型プロジェクトが相次ぐ永山祐子。大阪・関西万博では、2020年のドバイ国際博覧会の際に設計した日本館のファザードが「ウーマンズ パビリオン」として再利用され、サステナビリティの新たな試みとしても注目されている。その「ウーマンズ パビリオン」や「カヤバ珈琲」など、彼女の代表作に共通するのは、内外の境界のあいまいさだ。室内に緑を取り入れたり、窓を大きく取ったり、自然の換気を利用したりと、常に人が落ち着いて過ごせる居心地のいい場所を追求している。

「東急歌舞伎町タワー」では、ガラスの角度の変化や表面のプリントによって波や水しぶきを表現し、ビル全体で噴水を形づくった。かつて沼地だった歌舞伎町を開拓、発展させてきた人々の思いを地面から湧き上がる噴水で表現し、この土地を象徴する新たなシンボルとすることによって、その思いを未来につなげようとしている。

2025年大阪・関西万博 ウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartier

大阪府大阪市此花区夢洲

https://womenspavilion.cartier.com/ja/

東急歌舞伎町タワー

東京都新宿区歌舞伎町1-29-1

https://www.tokyu-kabukicho-tower.jp/

Text: Yuka Kumano

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