1. トップ
  2. 恋愛
  3. 生きづらい10代20代が薬物にはまったのは誰しもが通う日常の場所だった…移り変わる「薬物乱用」の実態

生きづらい10代20代が薬物にはまったのは誰しもが通う日常の場所だった…移り変わる「薬物乱用」の実態

  • 2025.3.13

なぜ、薬物依存になる若者が後を絶たないのか。現場に詳しい朝日新聞記者の川野由起さんは「風邪薬など市販薬を過剰摂取するケースが、若年層を中心に増加している。市販薬のなかには、依存性の高い物質が含まれているものが数多くある」という――。

※本稿は、川野由起『オーバードーズ くるしい日々を生きのびて』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

市販薬の乱用が増えている背景

国内の薬物乱用の状況をみると、近年は特に若年層における市販薬の乱用が増えている。法を破ることなく、処方箋や保険証がなくても購入できることも背景にある。急速な拡大や死亡事例の発生などを受け、国は販売個数の制限など規制をしてきたが、目立った効果はみられない。

国はさらに規制を強化していく方針だが、一方でオーバードーズの背景にあるとされる「生きづらさ」そのものへの対策ができないことには、限定的な効果だとの見方も強い。国の議論のなかでは、市販薬を販売するドラッグストアなどで、相談先を渡すなどの情報提供や声かけを行うことも重要とする指摘もある。

薬品は大きく分けて2つある。医師の処方箋が必要な医療用医薬品と、処方箋がなくても薬局やドラッグストアで購入できる一般用医薬品や要指導医薬品だ。

市販薬とはこの一般用医薬品などのことで、「カウンター越し」を意味する「Over The Counter(オーバーザカウンター)」の頭文字をとった「OTC医薬品」などとも呼ばれる。国は増大する医療費削減のため、2017年から「セルフメディケーション税制」をスタートした。一部の対象となる市販薬を購入した際には所得控除を受けることができる、市販薬の使用を促す政策だ。

手軽な市販薬のオーバードーズ

ドラッグストアにはコスメや美容関連グッズ、食料品も数多く並び、学生が訪れることも多い。多くの市販薬は数百円から数千円で買うことができる。

一方で市販薬のなかには、依存性の高い物質が含まれているものが多くある。用法や用量が決められて製品に記載されているが、これを守らずに大量、頻繁に使用するのが市販薬のオーバードーズだ。

オーバードーズが増えていることを示すさまざまなデータがある。

国立精神・神経医療研究センターの薬物依存研究部では、薬物乱用に関するさまざまな調査研究を行っている。有床精神科医療施設を対象にした調査(全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査)では、1987年からほぼ隔年で、薬物関連で通院や入院をした患者について調べている。

2022年の9〜10月に通院・入院した患者を対象にした直近の調査では、全国の有床精神科医療施設の1143施設が回答、2468症例を分析対象とした。長期間断薬しているものの通院している人なども含めると、主に使用している薬物は「覚醒剤」が49.7%で最多、ついで「睡眠薬・抗不安薬」が17.6%、「市販薬」が11.1%だった。

※写真はイメージです
薬物使用調査から見える市販薬の伸び率

一方、「1年以内に薬物を使った」という1036症例にしぼると、「覚醒剤」は28.2%で、「睡眠薬・抗不安薬」が28.7%、「市販薬」が20%と、市販薬の割合が高くなる。過去の調査と比較すると変化が明らかだ。

2014年の「1年以内に薬物を使った」症例をみると、脱法ハーブなどの「危険ドラッグ」が最多の34.7%、ついで「覚醒剤」が27.5%、「睡眠薬・抗不安薬」が16.9%だ。

危険ドラッグは所持や使用が法律で禁止されていなかったため、急速に乱用が拡大し、使用者が車の運転で死亡事故を引き起こすなど社会問題となった。医薬品医療機器法が改正され、14年から所持や使用などが禁止された。その後に行われた16年の調査では、「危険ドラッグ」の割合は2.5%と激減した。そしてこの年、14年には3.8%だった「市販薬」の割合は8.2%と倍以上に増えた。その後も市販薬の割合は増え続けている。

出典=『オーバードーズ くるしい日々を生きのびて』(朝日新書)
オーバードーズで頻用されている成分

年代別に比較すると、若年層での使用が顕著だ。22年の1036例のうち、30代以上の年代では、いずれも「覚醒剤」か「睡眠薬・抗不安薬」が最多の割合なのに対し、20代では「市販薬」が35.3%と最多、10代では68.4%が「市販薬」で、「覚醒剤」や「大麻」はいずれも10%に満たなかった。

出典=『オーバードーズ くるしい日々を生きのびて』(朝日新書)
川野由起『オーバードーズ くるしい日々を生きのびて』(朝日新書)

では、どのような成分が乱用に使われているのか。

2022年の調査によれば、市販薬を主に使う薬物とする症例の薬の内訳(複数選択)のうち、「コデイン含有群」が男性76.5%、女性71.6%となり男女ともに最も高かった。コデインは脳の延髄にある咳中枢に作用する成分で、せき止め薬や総合感冒薬などに使われている。

たとえば市販薬のオーバードーズで以前から頻用されているせき止め薬には、有効成分として「ジヒドロコデイン」が含まれている。せき止め薬や風邪薬には他にも「メチルエフェドリン」という成分が入っている。「ジヒドロコデイン」「メチルエフェドリン」はそれぞれ、麻薬及び向精神薬取締法、覚醒剤取締法の規制対象となっている成分だが、低濃度ならば市販薬に含有されても問題はない。

乱用防止策の現状

市販薬のなかでこうした成分を含有する製品が乱用されてきたのは、以前から続く傾向だ。国はこうした現状を受け、「濫用等のおそれのある医薬品」として、2014年から6成分を指定。含有する製品については販売規制を始めた。

具体的には、エフェドリン、コデイン(鎮咳去痰ちんがいきょたん薬に限る)、ジヒドロコデイン(鎮咳去痰薬に限る)、ブロモバレリル尿素、プソイドエフェドリン、メチルエフェドリン(鎮咳去痰薬のうち、内用液剤に限る)だ。

該当する医薬品については、原則1人1個までの販売とし、複数の購入希望があった場合には理由・使用状況などを確認すること、中学生や高校生などの若年者が購入する場合は名前や年齢、使用状況を確認することなどが求められてきた。

※写真はイメージです
規制対象だけで1500製品

国の調査では、こうした医薬品を複数個購入しようとしている購入者がいたときに適正に販売できている薬局は、規制が始まった14年には53%にとどまった。同年から市販薬の販売が解禁されたインターネットでは、54%だった。23年には薬局で78%、インターネットで82%まで上がった。

しかし、同成分を含むものの、販売規制の対象外となっている製品の乱用が広がるなどし、国はさらに規制を強めた。

23年からは「鎮咳去痰薬に限る」などと製品を限定していたのを全て撤廃し、6成分「エフェドリン、コデイン、ジヒドロコデイン、ブロモバレリル尿素、プソイドエフェドリン、メチルエフェドリン」とした。ドラッグストアなどで「1人1個まで」などと注意が表示されているのはこうした製品だ。

OTC医薬品を製造販売する製薬会社でつくる日本OTC医薬品協会によると、こうした6成分が含まれている製品は1500製品ほどがあるという。

川野 由起(かわの・ゆき)
朝日新聞記者
1993年生まれ。朝日新聞記者。仙台総局、さいたま総局を経て東京本社。子どもの虐待、社会的養育、ヤングケアラー、生活保護の扶養照会などを取材。NPO法人ASK認定依存症予防教育アドバイザー。

元記事で読む
の記事をもっとみる