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イッセイ ミヤケの“どちらでもない”という自由──日常の視点転換から生まれる新しい服【2025-26年秋冬 パリコレ】

  • 2025.3.12
Photo_ Getty Images
Issey Miyake: Runway - Paris Fashion Week - Womenswear Fall/Winter 2025-2026Photo: Getty Images

ショー前にはパフォーマーたちが舞いながら登場し、台に立ってトラウザーを頭からかぶり、シャツの袖に足を通したり、セーターをかがんだ姿勢で着たりしながらポーズをとった。これは、オーストリア出身のアーティスト・エルヴィン・ヴルム(Erwin Wurm)による作品「One Minute Sculptures(1分間の彫刻)」のコンセプトを基にした演出で、日常的に見慣れた物を用い、一般の人々がアーティストの指示に従って一時的な彫刻を作る参加型の作品だ。

今季はこの作品にインスピレーションを得て、「見慣れたものを意外で独創的な方法で見せれば、見え方が変わり、見方が新しくなる」というアイデアを軸にデザインを広げていったと、デザイナーの近藤は話す。抽象と具象、身体と物質、自然と人工、衣服と彫刻といった異なる概念が融合し、“どちらかである、どちらでもない”という流動性を描き出している。

立体と平面の交錯

ファーストルックは、ブランドを代表するニットのプリーツドレスの写真を最新の転写技術で鮮明にプリントした白いドレス。写真のドレスを弛ませたことにより、ドレスという具象が、抽象的な柄となり、立体的なドレスが平面のプリントになるという"どちらでもない"ギミックが表れている。ドレスの下にはプリーツのボトムスを合わせ、プリントなのかリアルなのか、視覚的な錯覚を引き起こすユニークなスタイリングも面白い。

続いて、先ほどプリントとして登場した朱赤のプリーツドレスそのものを着用したモデルがランウェイを歩く。意図的に編み地でねじれを効かせることで、身体のプロポーションを変え、有機的で彫刻的なシルエットを作り出している。

視点を変える日常着

今季のコレクションの中核にあるのが、日常着にひねりを加えたシリーズ。見慣れたブレザーやパーカーはショルダーを強調したシルエットで、ファスナーとストレッチ糸を用いて着る人にとってフォルムが変わる仕掛けになっていたり、スリット入りのセーターは袖を通す位置を変えることで一味異なるレイヤードが楽しめたりと、スタイリングの幅が広がるアイテムがそろう。

ペーパーバッグが衣服に変身

今季のテーマである"どちらかである、どちらでもない"が最もわかりやすく表現されているのが、バッグが服へと変化したルックだ。昨シーズンにも登場した和紙を使ったペーパーバッグが、身体を通せるトップスとして再登場。「Abstract, Concrete, and In-Between (抽象と具象とその間)」という架空の展覧会ポスターをイメージしたグラフィックがのせられている。手には、トップスと同じデザインのバッグを合わせていた。

パリッとした新ニット “パニーニ”

ラストは、オーバーサイズでシースルーの造形的なセーターやドレス、コートなどがインパクトを残した。これらは、従来は柔らかく厚みのあるニットを、プレス加工することで薄く、軽やかな質感になる新素材。ウールとアルパカ、ポリエステルをブレンドしてイタリアで制作され、温めることでパリッと仕上がるその特徴から「パニーニ」と名付けられたという。

カンペールとの初協業

足もとには、カンペールとの初の協業によるシューズ「Peu Form」がお目見え。一枚の革で足を包み込む、柔らかなフォルムが魅力だ。“Peu”とはカンペールが拠点にするスペイン・マヨルカの言葉で「足」を意味し、“Form”は、イッセイ ミヤケの根幹にある“身体”と“一枚の布”というコンセプトを反映させているという。

好奇心が紡ぐクリエイションの継承

ショー後、今は亡き創業者から学んだ大切なことについて尋ねられた近藤は、「常に好奇心を持ち、さまざまなリサーチを重ね、ものづくりを諦めずに続けること」と語った。このコレクションからは、先代が大切にしてきたアートファッションの接点や、素材や形への新しい表現を模索する姿勢、そしてその好奇心が強く表れていた。

常に変化し続ける時代において、着る人に自由を与える流動的でウェアラブルな服は求められているもの。ブランドならではの素材の革新性や着心地の良さを融合しながらも、“どちらでもいい”という解放感と遊び心に満ちた衣服のあり方に、心地よさが感じられた。

※イッセイ ミヤケ 2025-26年秋冬コレクションを全て見る。

Photos: Gorunway.com Text: Mami Osugi

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