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正社員比率が低く40歳を過ぎても年収が低いまま…企業が初任給アップばかりで氷河期世代を冷遇し続けるワケ

  • 2025.3.12

就職氷河期世代には非正規雇用の人が多く、正規雇用されている人は勝ち組といえるかもしれない。第一生命経済研究所首席エコノミストの永濱利廣さんは「正規雇用の人も年収は思うように伸びず、転職も思うようにいかない。将来の介護や年金不安を解消するには、いますぐやるべきことがある」という――。

※本稿は、永濱利廣『就職氷河期世代の経済学』(日本能率協会マネジメントセンター)の一部を再編集したものです。

オフィスの窓から外の街を見つめている女性の後ろ姿
※写真はイメージです
年齢やスキル不足で就職氷河期世代の転職は難しい

就職氷河期世代は非正規雇用の人の苦しさはもちろんですが、正規雇用の人も40代になっても年収が思うように伸びないうえに、年齢的に早期退職の対象となるなど、企業の現場でも厳しい状況に置かれている人が少なくありません。

では、こうした状況を脱するために転職をして、より条件の良い会社に就職したらどうかということですが、就職氷河期世代の転職希望者の割合は少ないという特徴があります(図表1)。就職氷河期世代の転職希望者の割合が少ない理由は、いくつか考えられます。

【図表】転職希望者割合
資料=総務省「労働力調査」 出典=永濱利廣『就職氷河期世代の経済学』(日本能率協会マネジメントセンター)
1 年齢の問題

今の時代は特に若い世代は転職によって給与が上がるケースが多いのですが、就職氷河期世代は転職しても給与が上がりにくい傾向があります。企業というのは年功序列的な給与体系のところが依然として少なくなく、年齢が高いほど人件費は高くなると考えています。そのため採用や昇給に際しては今でも年齢を考慮することが多く、どうせ採用するなら年齢の高い人よりも若い人を優先するところがあります。

結果、就職氷河期世代は能力を買われてスカウトされるとかならともかく、通常の転職活動では不利な立場に立たされやすく、転職しても条件が必ずしも良くならないという面があります。

転職できても希望の給与は得られない
2 スキル不足

転職によって条件が良くなるのは、その人が応募した会社にないものを持っているからです。その会社の人にはないマネジメント能力や実績、あるいは時代が求める新しいスキルなのですが、たとえば就職氷河期世代でAIなどのスキルを持っている人がそれほどたくさんいるわけではありません。

マネジメント能力に関しても、既に触れたように大企業であってもプレイングマネジャー的な仕事が多く、本格的なマネジメントの経験はあまりないかもしれません。

これでは、転職市場で競争力を発揮することは難しく、やはり不利な立場に立たされますし、たとえ転職できたとしても前の職場より条件が一気に良くなるというのも難しいのではないでしょうか。

3 経歴の壁

転職市場で問われるのは「これまでに何をやってきたのか」であり、「新しい会社に就職した時に何をもたらしてくれるか」です。この点に期待が持てれば、むしろスカウトの対象になるでしょうし、この点で十分なキャリアを積めていない場合、転職市場ではやはり不利になります。

4 企業規模や業種の壁

最近、大企業で目につくのは早期退職やリストラを実施する一方で、好条件で人材の採用も進めていることです。結局、今の会社に「人数」はいても、今後に必要なスキルやキャリアを持つ「人材」は不足しているため、いくらでも欲しいということなのでしょう。

同様に、急成長中の企業も積極的な人材採用を行っていますが、こうした企業は当然のことながら競争が激しく、それなりの経験やスキルがあったとしても簡単には決まらないですし、希望どおりの給与で転職するのは決して簡単ではありません。

給与明細の、厚生年金の金額のところにボールペン
※写真はイメージです
会社に「ありがたみ」を感じているため転職を考える人は少ない
5 心理的な壁

このように若い世代と違って就職氷河期世代がより高い条件で転職するのは簡単ではないところに、この世代が転職をためらう理由の1つがあるわけですが、もう1つは心理的なものも影響しているのではと考えています。

就職氷河期世代は年齢的にも転職の難しい時期に差し掛かっていますが、学校を卒業して社会に出る時の就職活動で大変な苦労をしています。それこそ希望する企業の採用数がいきなりゼロになったり、大幅に削減されたりすることで、まず説明会や面接に進むことさえ苦労をしています。

そんな苦労を経て入社した会社だとすれば、それは「大変な時期に自分を採用してくれた」ありがたい会社であり、そのことに対して「ありがたみ」を感じている人も多く、そのことが転職希望者の少なさにつながっているのかもしれません。

就職氷河期世代が企業に足元を見られている理由とは

このことは、企業側に有利に働きます。新卒社員の3割以上が3年以内に会社を辞めるというのは早くから言われてきたことですが、若い世代にとって転職は身近なものであり、また転職によって給与などの条件がアップすることも多いだけに、転職に対する抵抗はとても低いものがあります。

そのため、企業側も初任給を大幅に引き上げるなど、若くて優秀な人材の採用には熱心に取り組んでいるのに対し、就職氷河期世代はむしろ会社に恩義を感じ、かつ転職したからといって条件が良くなるとは限らないだけに、転職希望者の割合はそれほど高くありません。

これだと、企業は就職氷河期世代の引き留めにそれほど神経をつかう必要はありません。言わば、転職希望者は足元を見られているわけですから、これでは転職して条件が良くならないばかりか、今の会社にいても条件が良くなることはあまり期待できません。

このように、就職氷河期世代はいくつもの条件が重なることで、転職しても賃金は上がりにくく、そのことが転職希望者の割合が低いことにもつながっています。

就職氷河期世代にできること、やるべきこと

ここまで就職氷河期世代の雇用事情を見てきましたが、特徴的なのは他の世代と比較して「①正社員比率が低い」「②40代を過ぎても年収が低い」がゆえに、正社員であっても早期退職の対象となり始めるなど、変わらず厳しい状況に置かれていることです。

雇用の不安定さや収入の低さは生活の不安につながりますし、将来的には介護や年金の不安につながります。

こうした就職氷河期世代の抱える課題に対し、政府も2019年からの「5年間で正規雇用30万人の純増を目指す」という活動に取り組み、一定の成果を上げているわけですが、就職氷河期世代の人たちも自らの努力によって少しでも状況を改善していくことが求められています。

例えば、転職エージェントなどの専門家に相談しながら、自分のキャリアプランを明確にしたうえで転職活動を強化することも必要でしょうし、資産を増やすためには新NISAや確定拠出年金などを活用して、10年、15年単位で資産を少しずつでも形成することが必要なのではないでしょうか。

永濱利廣『就職氷河期世代の経済学』(日本能率協会マネジメントセンター)
永濱利廣『就職氷河期世代の経済学』(日本能率協会マネジメントセンター)

企業が求める人材やスキルは、時代とともに変化します。大切なのは今、企業はどんなスキルを求め、どんな人材を採用しようとしているのかを正確に理解することです。それをしないでただガムシャラに頑張ったとしても、闇雲に転職活動を行ったとしても、望ましい結果が出ることはありません。

時代のニーズに合わせたスキルの習得に努め、企業の求めるキャリアや人物像をしっかりと理解したうえで、自分の年齢や経歴を活かせる転職先を探してこそ成果が出るのです。また、国や自治体による支援策にもさまざまなものがありますので、それらについて研究し、活用することも大切なのではないでしょうか。

そして、国や社会にとっても就職氷河期世代を今のままの状態にしておくことは大きな損失となり、将来に新たな問題を引き起こすことになるだけに、特に40代から50代前半という働き盛りの時期だからこそしっかりと支援していくことが重要なのです。

永濱 利廣(ながはま・としひろ)
第一生命経済研究所経済調査部 首席エコノミスト
1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社。98年日本経済研究センター出向。2000年4月第一生命経済研究所経済調査部。16年4月より現職。内閣府経済財政諮問会議政策コメンテーター、総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事、跡見学園女子大学非常勤講師、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使、NPO法人ふるさとテレビ顧問。

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