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具材たっぷり豪華な祖母の焼きそば。あの幸福感はずっと忘れない

  • 2025.3.12

濃いソースが絡まった少し柔らかめの麺に、色とりどりの野菜、具沢山の海鮮が混ざり合った出来たてあつあつの焼きそば。
祖母の家の扉を開けると、ソースが焦げる食欲をそそる香ばしい香りが鼻腔に拡がり、その匂いを嗅ぐだけで自分のお腹がぐぅと鳴り、心から幸福な気持ちになりました。

私は、祖母が作る焼きそばが大好きでした。彼女は料理上手であったため、勿論他にも忘れられない好きなメニューは数え切れないほどありますが、その中でも焼きそばは群を抜いて好きでたまらなかった思い出の味といえるでしょう。

◎ ◎

祖母の家は自宅から車で一時間半くらいの場所にあり、私は春休み、夏休み、冬休みといった長期休暇がある度に母と共に祖母宅を訪れていました。
宿泊期間は大体二、三日が常であったのですが、到着するのは大体お昼頃であり、私たちが家を訪ねる初日のお昼ご飯には大抵前述した焼きそばを作ってくれました。

面白かったのは、麺は普通の袋麺ではなく、スーパーで売っているもう既に味付けのされているソース焼きそばを使用していた事です。
母は焼きそばを作る際、袋麺をフライパンで炒めてから付属のソースにからめ、その後野菜等の具材を入れていましたが、祖母は麺だけは既に完成された物を使用していたのです。
本人曰く、その方が作る手間が省けるからという事でしたが、途中でその事実を知った時には少し驚いてしまいました。

◎ ◎

また、祖母の作る焼きそばは具材がとにかく豊富であり、こんなにたっぷりと野菜や海鮮類が入った焼きそばだったら、お店だと一体いくらくらいになるのだろうと少し考えてしまう程でした。
しかし、材料を惜しまず様々な食材がふんだんに使われた焼きそばは絶品というより他はなく、行くといつもたっぷりと量も作ってくれていたため、私は大体二回くらいはおかわりをしていました。

「おばあちゃんの焼きそばは本当に美味しいね」
私が食べている時に何回もそう褒めるものだから、同席していた母が
「お母さんの焼きそばは美味しくないって事?」
と少しへそを曲げた事もあります(笑)。

こう言うと母には申し訳ないですが、一度豪華な祖母の焼きそばを食べてしまうと、後日母の焼きそばが食卓に出てきた際、心なしか質素に見えて仕方がなく、よく分からない罪悪感を抱いてしまったのです。
それ程までに、私にとって祖母の作るあの料理は魅力的に見えたのでした。

◎ ◎

また、祖母の家に行くと初日のお昼は焼きそば、そして夜は近所のお寿司屋さんから出前した寿司だと大方決まっており、それも私にとっての楽しみの一つでした。
昼にあれだけ食べてしまったのだから夜はあまり食べられなさそう……と毎回一瞬思うのですが、それは全くの杞憂であり、一人前を余裕でペロリと平らげてしまうのです。

黒くて丸い立派な寿司桶に入れられた握りはマグロ、イカ、真鯛、いくら、ホタテ……といった豪華なラインナップであり、中身は自分の好みに応じてカスタマイズする事もできました。
上質なお寿司って、ネタは勿論ですがシャリも良い感じに小ぶりで食べやすいんですよね。普段スーパーで買うようなパック寿司とは似て全く非なるものであり、初めて食べた時は大変感動した事を今でもよく覚えています。
しかし、そのお寿司屋さんもその数年後に私事で店を畳んでしまい、今となってはもうあの味を再び食す事はできません。

◎ ◎

祖母も私が小学生だった頃は行く度にせっせと焼きそばを作ってくれたり、その他自慢の手料理を振舞ってくれましたが、歳を重ねるにつれてやはり自分で沢山の量を作り続けるのは困難であるのか、次第にあの焼きそばが振舞われる事は減っていきました。
勿論、叶う事ならばずっと作り続けて欲しいし、大好きなあの味を長く食べ続けていたい。しかし、お寿司と同様、人が作るものは有限であり、惜しくともいつかは消えていってしまうものなのです。

しかし、だからこそ「思い出の味」として自分の中に深く刻まれるのではないかな、と思います。
たとえ今はもう食べる事が叶わないとしても、味、そして食した時に感じた幸福感を私は一生忘れる事はないでしょう。
いつか、私も人が食べて幸せを感じ、思い出の味となるような素敵な心のこもった料理を作る事ができるようになれたらいいな、と思います。

■たんこのプロフィール
自分の感じた事、日常を淡々と記します。ホラー好き

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