何かと篭りがちな時間が続くと、だんだんホームシックのような気分に。不慣れな環境に立たされるという意味では、これは新生活と言えるかも。わくわくする反面、心細い日々のはじまりもある。映画を処方箋として日々の暮らしを楽しみませんか。それは、映画を通じて自分の“ホームタウン”を新たに作ること。インテリアとして学ぶべきは、カラー? アイテム?観賞の視点が変わると一度見たことのある映画でも、また新しい魅力に気づくことができるはず。「こんな家に住みたい、暮らしをしたい」映画から自分らしい部屋づくりのヒントを学ぼう。
整然と整えられた部屋。 必要最低限のものだけを揃えたシンプルな部屋。 そんな完璧な場所に憧れる一方で、好きなものを好きなように置いているだけ、みたいな部屋にも惹かれてしまう。
『パターソン』で主人公夫婦が住む家はまさにそれ。ゴルシフテ・ファラハニ演じる妻ローラは、インテリアからファッション、料理にいたるまで、自分の欲求やその日の気分にどこまでも忠実だ。リビングのカーテンを白黒のドット柄にペイントし、浴室のドアと壁を白と黒に塗り替える。 波型と格子柄を組み合わせたソファも、ちょっと不思議な模様のランプシェードも、きっとローラのその日の気分でコーディネートされたもの。 夫婦の部屋は、思わず目がちかちかしそうなくらい、多種多様な柄で溢れかえっている。引き算の美学なんて一切なし。 好きなものを自由に重ねるだけ。ただし、柄は多様でも、色は白と黒でしっかり統一される。どんなに雑然としていてもうるさくは感じないのは、そのためだ。
MOVIE:『パターソン』
ニュージャージー州の町でバスの運転手をしているパターソン。 詩を書き、バスを運転し、妻と食事をし、バーで会話をする彼の1週間を通して、日常の中の美を見事に描きだす。
アメリカ/ 2016年
監督:ジム・ジャームッシュ
出演:アダム・ドライヴァー、ゴルシフテ・ファラハニ
onKuL vol.15(2021年4月売号)より。
illustration : Nobuko Uemura
text : Rie Tsukinaga
edit&text : Naoki Kuroda
re-edit : Saki Katayama