ガーデニングシーズンの春と秋をメインに、全国の観光ガーデンやガーデニングショーなどで催されるハンギングバスケットコンテスト。今春も4月下旬頃から、とよたガーデニングフェスタ2025や横浜フラワー&ガーデンフェスティバル2025、第20回世界バラ会議福山大会2025など、各地のイベントでコンテストが開催され、愛好家たちが渾身の作品で美しさを競い合います。首都圏でも著名なハンギングバスケットコンテストの一つ、「横浜イングリッシュガーデン ハンギングバスケットコンテスト」受賞者にフューチャーし、体験談とともに基本のハンギングバスケットの作り方や美しく仕上げるコツを教わります。
「横浜イングリッシュガーデン ハンギングバスケットコンテスト」とは
バラの街、横浜市にある横浜イングリッシュガーデンでは毎年11月にハンギングバスケットコンテストが開催され、色濃く咲く秋バラが楽しめるオータムガーデンとともに見応えあるハンギングバスケット作品が観賞できます。2024年には12回目となるコンテストが開かれ、数々の個性あふれるバスケットが訪れる人を魅了しました。コンテストの受賞者の一人、壁掛け部門で「横浜市長賞」を受賞された横浜市在住・戸田健太さんに体験談をうかがい、作品に込めたメッセージや、コンテストに興味を持つ方に向けてのアドバイスなどを伺いました。
横浜イングリッシュガーデン「第12回ハンギングバスケットコンテスト」受賞者にインタビュー
横浜在住で市内を主軸としたアイドル活動を行う戸田さんは、横浜イングリッシュガーデンはプライベートでも度々訪れる自身の憩いの場。ハンギングバスケット作りを始めて最初に参加したコンテストがこの横浜イングリッシュガーデンでもあり、コンテストにかける想いは特別なものがありました。
「作品名は『YOKOHAMA DAYS』。これは僕がアイドル活動を行うYOKOHAMA男子のオリジナル楽曲でもあり、その明るくエネルギーあふれる楽曲イメージと今後さらにスポットライトを浴びて飛躍したいという思いや、横浜の美しさや華やかさを表現しました」と話す戸田さん。コンテストの開催時期に合わせて、ちょうど見頃になる大きなハボタンを主役に全体を紫系でまとめつつ、葉が赤いオタフクナンテンを入れて、ポッと明かりを灯すように華やかさをプラスしました。
「また、花選びでは色の濃淡をつけて立体感を出したことで、まとまりがある中に迫力も感じる作品へと仕上げられました」と作品を振り返ります。
ハンギングバスケット作りは、どこから見ても円を描いたような美しいフォルムに仕上げることが重要であり、花選びやレイアウト、植え込みには技術が求められます。また、コンテストとなると、審査日にベストコンディションとなるよう制作日を調整したり、搬入までの手入れや管理にも丁寧に気を配る必要があります。
「作品のメインを飾るハボタンは特に花が大きく頭が重い分、下を向きがちになります。作品を仕上げた時だけでなく展示中も美しさをキープするため、やや上向きに植え込んで、きちんと根付かせることが苦労したポイントです。搬入日の約一週間前に制作し、養生期間を設けて毎日水やりを行い、審査日までに花を枯らさず理想の姿を維持できたことが何よりでした」。
コンテスト参加を目指す方へのアドバイス
「自分の好みや感性を自由に表現することが一番です。ただ、自分の好みの花や色だけで構成しても、必ずしも美しく印象的な作品になるかといったら、そうではないのがハンギングバスケットの難しいところでもあり、面白いところでもあります。多数の素敵な作品があるなかで賞を狙うならば、例えば印象的な差し色を入れたり、葉使いでユニークなフォルムの動きを出したり、背景を工夫したりと、自分らしさを表現しつつ、インパクトを演出して差別化を図る必要があります。だからこそコンテストへの参加は、より客観的に自分の作品を考える良い機会になるはずです」。
コンテストは賞を獲得するという目標に向け技術を磨くステージであり、また、他の作品を見て学び刺激を受けることで、新しい感性を磨くことができる場です。ハンギングバスケット作りを自宅で楽しむガーデナーさんも、スキルアップや腕試しにコンテスト参加を視野に入れてみては。
ハンギングバスケットの魅力とは?
ハンギングバスケットの魅力は、地植えのスペースに限らず、バルコニーやテラス、玄関、アプローチなど、たとえ土のない場所でも花で彩り豊かな空間を演出できること。また、空中に浮かせて設置するハンギングバスケットは、目線の高さで花が楽しめるうえに、風通しがよいので蒸れにくく、病害虫の発生が少なくなるのも嬉しいメリットです。
「冬から春にかけてガーデナーたちから絶大な人気を誇るパンジー・ビオラは草丈が低く、地植えでは目立ちにくくなりがちですが、ハンギングバスケットならその繊細でアーティスティックな花を間近で楽しむことができます。近年、新品種が次々と登場しているパンジー・ビオラは花形や花色が多種多様で、同じ品種でも一つ一つ表情が異なり、選ぶ楽しみもありますよね。そんなお気に入りの苗をじっくりと近くで眺められるのはハンギングバスケットの魅力の一つです」。
そう話す戸田さんと一緒に、基本のハンギングバスケット作りを学びましょう!
基本のハンギングバスケットの作り方
ハンギングバスケットにはいくつかの種類があり、全面から花を楽しめる吊り下げタイプ、半円型のバスケットを使用する壁掛けタイプや、ワイヤーバスケットに苔やココヤシファイバーを敷いて植えるタイプなどがあります。今回は、壁掛けタイプのバスケットを使用した仕立て方をご紹介します。
STEP1:テーマ・イメージ決め
まずは、ハンギングバスケットのテーマやイメージを決めます。例えば、「ピンク色のラナンキュラスをメイン」というように使いたい花材を決めたり、「黄色系でパキッとした元気なイメージ」のようにイメージカラーや雰囲気を考えるなど。また、「お正月、バレンタイン、イースター、ハロウィン、クリスマス」などのシーズンイベントをテーマにして作るのもよいでしょう。季節感が感じられ、玄関先など外から目に入るスペースに飾ると、ご近所さんやお客さんにも楽しんでもらえますよ。
STEP2:花材選び&配置決め
テーマやイメージが決まったら花材を選びます。使う花材の量はハンギングバスケットの大きさにもよりますが、花材の種類はだいたい8種類以内に収めるとまとまりやすくなります。また、ハンギングバスケットを長く楽しむためには同じ環境を好む植物を集めると管理が楽になります。
花材は以下の3つの役割を持つ植物を組み合わせてセレクトしましょう。
①存在感がありバスケットの主軸となる【主役】
②主役を引き立て、彩りや華やかさを補う【準主役】
③小花や葉物など、主役や準主役の間に入って動きや立体感を演出する【脇役】
この時、仕切りのあるポット用トレーなどに仮置きしながら花材と配置を考えると実際の仕上がりがイメージでき、より完成度の高いハンギングバスケットを作ることができます。花や葉の形や質感の異なるものが隣り合うようにし、花と花の間には葉物をクッションのように入れたり、同じ花材が縦横同じ列にこないようにするとバランスのよいレイアウトになります。
戸田さんが選んだ上の写真にある花材は幅30cmのスリット入り壁掛けバスケット用で、苗の数は22個ほど。主役・準主役・脇役を基本通り抑えて一見バランスのよい組み合わせに見えますが、じつはより主役を引き立たせて美しく仕上げるための改善点があります。それは、「色の濃淡をつけること」。
右の写真の花材セレクトは以下の通りです。
【主役】踊りハボタン、切れ葉ハボタン
【準主役】ビオラ、スミレ、キンギョソウ
【脇役】(花)ノースポール、ブラキカム、(葉)サルビア・カナリエンシス、セントーレア、ヘリクリサム、ハツユキカズラ、黒葉キンギョソウ
STEP3:植え込み
①スリット部分に土留めの専用スポンジを貼り付け、露出した粘着面に土を擦り付けておきます。こうすることで粘着面に花や葉が張り付くのを防ぎ、美しく植え込むことができます。
②底面に土を入れます。ハンギングバスケットは風通しがよい反面、乾燥しやすく水切れを起こしやすいので、保水性や保肥性のある軽量な土が好まれます。市販のハンギング用の培養土を使用すると手軽でおすすめです。
③事前に考えたレイアウトの通り、1段目、2段目、と下から順番に植え込んでいきます。苗は根鉢をくずし、余分な下葉は落としてバスケットの風通しをよくしましょう。全体を丸いフォルムに仕上げるため、下段はやや下向きに、中段は正面向きに、上段は上向きになるよう植え込むのがコツ。正面、上、横、どこから見ても丸い形に仕上がるよう角度や向きを調整しながら植え込みます。
植え込みながら土も足し、さらに1段植え込むごとに水苔を挟むと、植物同士のクッションとなったり、水留めとなり保水性がよくなります。
また、ハンギングバスケットは苗が密集するため葉が混み合いがちになります。蒸れやすくなるうえ、一つひとつの葉や花が隠れて見えにくくなり見栄えも窮屈な印象に…。そんな時は混み合った部分の葉をカットしましょう。上の写真ではハボタンの下葉を1枚とることで、黒葉のキンギョソウがよく見えるようになりました。こうしたほんの少しの作業でも、空間に余裕が生まれて葉がふんわり広がり、生き生きとした姿を見せる効果があります。
④苗を全て植え込んだら割り箸などで土を隙間なく詰め、その上に水苔を敷きます。
⑤仕上がったら、飾る前に水やりを。底から水が流れ出すまでたっぷりと与えましょう。たくさんの苗を植え込むハンギングバスケットは、根鉢を多くくずすなどで根が傷んでいる場合があります。冬以外は、作ってから3日程度は養生期間として風通しのよい日陰で管理し、その後日当たりと風通しのよい環境で育てるとよいでしょう(植物の特性によって適した置き場所を選んでください)。
完成です! 主役のハボタンは形や色の異なる品種を組み合わせてダイナミックさを取り入れつつ、紫系で上品さも演出。美しい丸いフォルム、ハボタンを引き立てるように準主役・脇役の草花が彩りとリズム感を生み出し、メリハリのあるハンギングバスケットに仕上がりました。
この通り、基本の作り方を抑えれば誰でもハンギングバスケット作りにチャレンジできます。広い庭や地植えのスペースがなくても楽しめるハンギングバスケットは、一つ飾るだけでも豊かな彩りと癒やしをもたらしてくれます。ガーデニングビギナーの方もぜひ楽しんでみてください。
初心者でも安心! 戸田さんと作る春のハンギングバスケット講座
今回、ハンギングバスケット作りを教えてくれた戸田健太さんが、自身初のハンギングバスケット講座を開催します。ガーデニング初心者さんや、ハンギングバスケット作りに初挑戦する方も安心して参加できるレッスンです。戸田さんと一緒に、楽しくハンギングバスケット作りを学びませんか?
開催日:2025年4月4日(金)
場 所:河野自然園農園ハウス(神奈川県横浜市港北区新羽町4254)
時 間:13:00~16:00
費 用:8000円 (講習料、器材、花材台含む)
定 員:6名
持ち物:エプロン、薄い手袋、先の細い園芸バサミ、電車やバス利用の方は作品を持ち帰るためのカート
講 師:戸田健太
「趣味の園芸」講師が教えるハンギングバスケット教室が評判の「河野自然園」
戸田さんもハンギングバスケットのレッスンを受けるのが、神奈川県横浜市港北区にある園芸店「河野自然園」。オーナーの井上まゆ美さんは、公共・個人のガーデン施工やメンテナンス、イベント講師や趣味の園芸(NHKテキスト)で寄せ植えの特集も担当するガーデニングのプロフェッショナル。そんな井上さんが営む河野自然園では、自らが生産した多肉植物や球根のほか、ハンギングバスケットや寄せ植えに精通する井上さんならではの目線で厳選した苗が並びます。
多肉植物は種類豊富で、そこここに寄せ植えのディスプレイがなされ、植物選びの参考になる売場作りがされています。花苗はあえてラインナップを絞り、寄せ植えやハンギングバスケット作りの花選びがしやすいように特化しているのが特徴。そんな河野自然園では、井上さんが講師を務めるガーデニング講座やハンギングバスケット教室が開かれ、評判を聞きつけた生徒さんが全国から集います。
受講者の習熟度に合わせたコース別のレッスンが用意され、「マスター養成講座(初級)」ではハンギングバスケットマスター認定試験合格を目指し、植物の知識学習、ハンギングバスケットの実技を基礎から応用まで学びます。卒業生からは数多のハンギングバスケットマスターが誕生し、各地のハンギングバスケットコンテストで輝かしい成績を残しています。園芸店としての来店はもちろん、ハンギングバスケットのスキルアップや、マスターを目指す方はぜひ、レッスンを受講してはいかがでしょうか。
Information
記事協力
Credit
話 / 戸田 健太 - ローズガーデンチーフデザイナー -
とだ・たつひろ/グリーンアドバイザー、ハンギングバスケットマイスター。通称たっつん。横浜国立大学卒業後、 フラワーデザイン&アレンジメントスクール「ローズガーデン」主宰清水さゆりの元でフラワーデザインを学びディプロマを取得。ローズガーデンチーフデザイナーを務める。大手百貨店で作品の展示や販売、レッスンなどで人気を集める。神奈川ご当地アイドルグループ「YOKOHAMA男子」(通称はまだん)のリーダーも務める。