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エイの正解率は足し算94%、引き算89%…大学の研究で判明した魚の驚くべき「学習能力・記憶力・思考能力」

  • 2025.3.11

最先端の研究によって動物たちの不思議な生態が明らかにされている。例えば、魚類の認知行動に関する研究。公立鳥取環境大学学長の小林朋道さんは「魚が足し算・引き算をできることを示す研究結果が得られている。魚の脳の神経回路の一部が人間の脳内回路の一部と類似しているのかもしれない」という――。

※本稿は、小林朋道『ウソみたいな動物の話を大学の先生に解説してもらいました。』(協力・ナゾロジー、秀和システム)の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです
訓練すれば魚は足し算や引き算ができるようになる

魚など水に棲む生物は体を環境に最適化させています。最近の魚類の認知行動に関する研究は、彼ら(魚類)の「思考能力」が優れていることを、次々に明らかにしています。

直近の例で言えば、ドイツのボン大学の研究チームによって行われた実験で、訓練すれば魚は足し算や引き算ができるようになることが明らかにされています。

研究の対象にされたシクリッド(アフリカと南米の湖に生息する魚類)の一種とエイの一種で、彼らに次のような思考が可能かどうかが調べられたのです。

ある装置を作り、装置の扉にマークを何個かつけて5秒以上見せます。次にマークのついた扉を開けて奥に進ませ、そこで、横に並べた2枚のパネルの一方には、扉のマークの数にもう一つマークを加えてつけ、他方のパネルには、もう二つのマークを加えてつけます。

つまり、一方にはマークを1プラスして、もう片方にはマークを2プラスしたわけです。そうしておいて、もし魚が1プラスのパネルのほうへ行けば正解として餌が与えられました。この学習ではマークの色はすべて青にしたそうです。

そして、この実験と並行して今度はマークの色を黄色にして次のような実験を行いました。奥の2枚のパネルの一方は、扉のマークの数より一つ少なくし、もう一方のパネルでは、マークを一つ加えてつけました。

つまり、扉のマークから1マイナスと1プラスにしたわけです。そうしておいて、もし魚が1マイナスのほうへ行けば正解として餌が与えられました。

以上のルールで何回も何回も訓練し、本番の実験を行いました。

その結果、シクリッドでは足し算(青のマークでの実験)で77%、引き算(黄のマークでの実験)で69%正解したそうです。

エイでは、足し算は94%、引き算は89%が正解だったそうです。

約0.4秒で区別…魚が同種の他個体の顔を認知する

魚の「知能」については世界的にも注目される研究を次々に発表してきた大阪市立大学(現 大阪公立大学)の幸田正典氏たちの研究グループは、アフリカの湖に生息するプルチャーという魚が、同種の他個体の顔を認知することを明らかにしました。

プルチャーは湖の浅い場所で縄張りをつくって生活しており、観察していてもいつもの隣の縄張りの個体の場合には比較的寛容に接するのだが、そうではない侵入者のような個体に対しては攻撃を加えることがわかっていました。

研究チームは、「プルチャーの顔には、黄色、茶色、水色の3種の模様があり、それぞれの色の広さや形、配置などが微妙に異なっている」点に目をつけ、複数個体のプルチャーの全身像の写真を撮りコンピューターに取り込み、それぞれの個体の顔の部分だけを切り出して顔とそれ以外の全身とを、実際とは異なる組み合わせで、うまくくっつけてそれを水槽のガラス越しに、プルチャーに見せました。

その結果、縄張りが隣接していて顔を頻繁に見ているだろうと思われる顔の「合成写真プルチャー」に対しては、長く見つめることはなかったそうですが、初めて見ると思われる顔のプルチャーに対しては、「顔見知りプルチャー」の約3倍も長く警戒したときの姿勢や行動を伴いながら見つめ続けたといいます。

小林朋道『ウソみたいな動物の話を大学の先生に解説してもらいました。』(協力・ナゾロジー、秀和システム)

実験結果から推察して、プルチャーは相手の顔を約0.4秒で区別していると考えられ、これはホモサピエンスが相手を見分けるのに必要な時間と同じだといいます。

メダカが同種の仲間の顔を見分けることも東京大学の王牧芸氏と岡山大学の竹内秀明氏の共同研究で明らかになっています。さらに、このメダカの場合ではホモサピエンスが顔を上下逆さまにして見せると識別が顕著に難しくなるという「倒立顔効果」がメダカでも確認され、ホモサピエンスで推察されている顔認知専用に構築される脳内神経回路がメダカにも存在する可能性が高く、顔認知の進化的な側面の解明につながる期待がもたれています。

その他にも、魚に「曲芸」を教える際の魚の学習の優れた特性や、一度覚えたことを記憶している時間の記録等、魚の「思考能力」の高さを垣間見ることができます。

突撃を知らせるマカジキの発光する体

さて、そんな中で「マカジキが体を光らせ、自分の突撃を仲間に知らせる」研究についてです。

マカジキは時速100km以上のスピードで泳ぐことができる世界最速の魚類です。彼らは群れで行動し、イワシ等の獲物の大群を発見するとロケットのように突進し狩りを行います。

ただし、ロケットダッシュで群れから獲物に向かって突進するのは一匹ずつ。

※写真はイメージです

もし複数の個体が突進したら、突進したマカジキ同士で長くて鋭い口吻による相打ちが起こってしまう可能性があるからです。互いにコミュニケーションをとりながら、突撃個体を伝え合っているのでしょう。

しかし、どうやってそれを伝え合っているのでしょうか? そのコミュニケーション法については、これまで不明でした。

2024年、ドイツ・フンボルト大学ベルリンの研究チームは、ドローンを使った研究(①)によって、次のような事実を明らかにしました。それは「マカジキは狩りで、次の瞬間突進する個体のみが体を明るく輝かせ、それ以外の待機組は暗い体色のままで待機している」、「狩りで突進した個体は捕食が終わると暗い体色に戻る」というものです。

出所=『ウソみたいな動物の話を大学の先生に解説してもらいました。』

より正確な情報を得るため、研究チームは、マカジキが、イワシの群れを攻撃する様子を収めた12本の高解像度ビデオクリップを分析し、現象を確認しました。その結果、体の輝化は、群れの他個体にさまざまな情報を伝えている可能性があり、突進による捕食の機会は群れのすべての個体に公平に与えられていることも含め、狩りのルール等の調整に重要な役割を果たしていると推察しています。(一部改稿)

① Rapid color change in a group-hunting pelagic predator attacking schooling prey

小林 朋道(こばやし・ともみち)
公立鳥取環境大学学長
1958(昭和33)年岡山県生まれ。公立鳥取環境大学学長。岡山大学卒、理学博士(京都大学)。ヒトを含むさまざまな動物について、動物行動学の視点で研究してきた。『ヒトの脳にはクセがある 動物行動学的人間論』(新潮社)など著書多数。

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