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【ネタバレ】映画『ウィキッド ふたりの魔女』西の悪い魔女は本当に“悪”なのか?未曾有の超大作へと化した本作の魅力を徹底解説

  • 2025.3.14

大ヒットブロードウェイミュージカルを映画化した『ウィキッド ふたりの魔女』が、2025年3月7日(金)より全国で劇場公開中だ。第97回アカデミー賞(R)では作品賞、主演女優賞、助演女優賞など10部門のノミネートされ、うち衣装デザイン賞、美術賞の2部門で受賞。西の悪い魔女ことエルファバをシンシア・エリヴォ、北の良い魔女ことグリンダをアリアナ・グランデが演じていることでも話題だ。

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という訳で今回は、必見のミュージカル映画『ウィキッド ふたりの魔女』についてネタバレ解説していきましょう。

映画『ウィキッド ふたりの魔女』(2024)あらすじ

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魔法と幻想の国オズにある<シズ大学>で出会ったふたり。誰よりも優しく聡明でありながら家族や周囲から疎まれ孤独なエルファバと、誰よりも愛され特別であることを望むみんなの人気者グリンダは、大学の寮で偶然ルームメイトに。見た目も性格も、そして魔法の才能もまるで異なるふたりは反発し合うが、互いの本当の姿を知っていくにつれかけがえのない友情を築いていく。ある日、誰もが憧れる偉大なオズの魔法使いに特別な力を見出されたエルファバは、グリンダとともに彼が司るエメラルドシティへ旅立ち、そこでオズに隠され続けていた“ある秘密”を知る。それは、世界を、そしてふたりの運命を永遠に変えてしまうものだった……。

※以下、映画『ウィキッド ふたりの魔女』のネタバレを含みます。

「オズの魔法使い」から生まれた 困難を極めたベストセラー小説の映画化

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全ては、ライマン・フランク・ボームが1900年に発表した小説「オズの魔法使い」から始まった。カンザスの農場で暮らす少女ドロシーが竜巻でオズ王国に飛ばされ、カカシ、ブリキ、ライオンと仲間になり、西の悪い魔女を倒して、再び故郷に戻るまでの物語。

「オズの魔法使い」は児童文学の金字塔として人気を博し、現在までにコミック、ミュージカル、舞台、テレビドラマ、映画、ゲーム、アニメが数多く作られている。特に、『風と共に去りぬ』(1939年)で知られるヴィクター・フレミングが監督を務め、人気子役のジュディ・ガーランドがドロシー役を演じた『オズの魔法使』(1939年)は、映画史に残る傑作として知られている。

この小説にインスパイアされた作品も数知れない。「シンデレラ」を原作とした「Confessions of an Ugly Stepsister(醜い義姉の告白)」、「白雪姫」を原作とした「Mirror, Mirror(鏡よ鏡)」、「不思議の国のアリス」を原作とした「After Alice(アフター・アリス)」など、古典童話を元にした小説を手掛けているグレゴリー・マグワイアは、1995年に小説「ウィキッド − 誰も知らない、もう一つのオズの物語」を発表。

これは、気弱な少女エルファバがいかにして“西の悪い魔女”に変貌を遂げたかを描く、トリッキーな視点で作られた物語だった。『スター・ウォーズ』の悪役ダース・ベイダーが、なぜシスに闇堕ちしたのかを新3部作(プリクエル・トリロジー)で描くのと同様のアプローチといえるかもしれない。

「ウィキッド − 誰も知らない、もう一つのオズの物語」は、現在までに全米500万部を突破するベストセラーとして愛され続けている。グレゴリー・マグワイアはさらに3冊の続編を執筆し、現在では『ウィキッド・イヤーズ』として知られるシリーズとなっている。もちろん、このような大ヒット作品をハリウッドが放っておくはずがない。90年代には映画化権をめぐって入札争いが起こり、ウーピー・ゴールドバーグもその権利を狙っていたという。グレゴリー・マグワイアはこう語る。

「最初の半年で興味を示したのは、ウーピー・ゴールドバーグやクレア・デインズなどだった。サルマ・ハエックも興味を示していたし、ローリー・メトカーフもいたね」
(出典:Vanity Fairによるグレゴリー・マグワイアへのインタビューを抜粋)

だが最終的に映画権を獲得したのは、『ゴースト/ニューヨークの幻』(1990年)や『ア・フュー・グッドメン』(1992年) で人気絶頂だったデミ・ムーアの映画会社、ムービング・ピクチャーズ。彼女はエルファバを演じることに意欲を抱き、グリンダ役にはミシェル・ファイファー、エマ・トンプソン、ニコール・キッドマンが候補として挙がっていた。ひょっとしたら、デミ・ムーア主演の『ウィキッド ふたりの魔女』という世界線もあり得たのだ。

余談だが、今年のアカデミー賞で『ウィキッド ふたりの魔女』は10部門にノミネートされ、デミ・ムーアが主演したホラー映画『サブスタンス』(2024年)も主演女優賞を含む5部門でノミネートされた。この会場にデミ・ムーアがいたことに、何やら運命的なものを感じてしまう。

ムービング・ピクチャーズはさっそく映画化に向けてプロジェクトを立ち上げるが、そのプロセスは困難を極めた。脚本がまとまらなかったのだ。原作が『オズの魔法使い』の二次創作的作品だけに、観客にもそれなりのリテラシーが求められたのである。

「私はかなりオタクな読者に向けて書いていた。これが2万5千部売れればラッキーだと思っていたくらいだ。しかし、この本が驚くほどの成功を収めたからといって、スタジオが同じように濃密な映画のリスクを冒すことを望んだわけではない。大スクリーンの『ウィキッド』は、フットワークが軽く、無駄のないものでなければならなかった」
(出典:Vanity Fairによるグレゴリー・マグワイアへのインタビューを抜粋)

結局映画化は頓挫。再び『ウィキッド ふたりの魔女』が制作開始されるまでに、20年以上もの時間を要することになる。

未曾有の超大作へ

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映画よりも前に『ウィキッド』の評価を高めたのは、ミュージカルだった。2003年10月にブロードウェイの ガーシュウィン・シアターで初演され、トニー賞で3部門、ドラマ・デスク賞で7部門を受賞。2016年には興行成績が10億ドルを突破し、『オペラ座の怪人』や『ライオンキング』と肩を並べる人気ミュージカルとなったのである。映画化のチャンスは再び到来した。2012年、ミュージカル版のプロデューサーを務めていたマーク・プラットが映画の製作を発表。この時点で、ベストセラー小説の映画化ではなく、大ヒットミュージカルの映画化という意味合いが強くなった。

2016年劇場公開の予定が2019年に延期、その予定が2021年に延期、コロナの影響でさらにその予定が2024年に延期。何度もペンディングを繰り返しながら、それでもマーク・プラットは映画化の夢を決して諦めなかった。そしてついに2024年11月22日、アメリカで劇場公開を迎えたのである…上映時間2時間40分、しかも二部作の前編として。続編となる『ウィキッド フォー・グッド』(原題)は、2025年11月21日に米公開予定。(※日本公開時期は未定)オリジナルのミュージカル版は上演時間が2時間45分だから、前後編を合わせるとおそらくその倍のボリュームになるはずだ。

今作の監督を務めたジョン・M・チュウは、こう語っている。

「私が大好きなショーではなくなるようなことは避けたいと考えていた。(中略)全部の曲を入れるためには、ダンスをカットすることになる。でも、どの曲を?私たちは選択を迫られた。(中略)感情的に満たされる映画にしなければならない。私たちは皆、映画を分割することに同意した。

というのも、例えば『Defying Gravity』というナンバーで終わらせるのであれば、エルファバの人生の中で最も重要な瞬間でなければならない。そうなると、エルファバを、もしかしたらショーで描かれるよりももっと設定する必要がある。彼女の子供時代がどんなものだったかを知る必要がある。……どうやってグリンダと友情を築いたのか。(中略)その関係を信じるための時間と空間が必要だった」
(出典:The Hollywood Reporterによるジョン・M・チュウへのインタビューを抜粋)
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未曾有の超大作となった『ウィキッド ふたりの魔女』。その主演を務めることになったのは、 シンシア・エリヴォとアリアナ・グランデだ。シンシア・エリヴォは、ミュージカル『カラーパープル』でトニー賞主演女優を受賞したキャリアの持ち主。アリアナ・グランデにいたってはもはや説明不要だろう…2度のグラミー賞に輝く、今をときめくポップスター。2018年には、ウィキッド15周年を記念するテレビの特別番組『A Very Wicked Halloween』で、『The Wizard and I』のナンバーを歌唱した縁もあった。この映画は、間違いなく二人の才能によって一段と大きな魅力を纏っている。

西の悪い魔女は、本当に“悪”なのか

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西の悪い魔女は、どのようにして生まれたのか。そもそも彼女は、本当に“悪”なのか。この作品は、その生い立ちから最期までを丹念に描くことで、“悪”というものの正体を解剖していく。

エルファバは、母親と浮気相手とのあいだに生まれた子供で、生まれつき全身緑色だったために父親から忌み嫌われていた。強大な魔力をシズ大学魔法学部長マダム・モリブル(ミシェル・ヨー)に認められ、妹のネッサローズ(マリッサ・ボーディ)と共に入学。最初はウマの合わなかったルームメイトのグリンダと次第に友情を深めながら、魔法の力をコントロールする術を学んでいく。

やがて彼女は、アニマル教授(人間の言葉を話すヤギ)のディラモンド教授(ピーター・ディンクレイジ)が差別にあい、大学から追われることを知る。他の動物たちも市民権を失い、話す能力を失っていた。エルファバは、偉大なオズの魔法使い(ジェフ・ゴールドブラム)が状況を打開してくれると信じていたが、実は彼こそが動物実験の首謀者。しかも魔力など何も持たない詐欺師だった。

絶望に打ちひしがれたエルファバは、オズの魔法使いと和解すべきだというグリンダの手を振り払い、ホウキに乗って西の空へ飛ぶ。体制側としてのグリンダ、反体制側としてのエルファバ。“善い”、“悪い”とは、体制側にとって適切かそうではないかの差でしかない。そもそもエルファバという名前は、『オズの魔法使い』の原作者L・フランク・ボームのイニシャルL・F・Bの音読みから採られている。彼女を根っからの“悪”として描く訳がない。

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さらに、貧富、人種差別、障害という問題が重なっていく。『ウィキッド ふたりの魔女』は、社会的なテーマが非常に強いミュージカル映画。そして監督のジョン・M・チュウは、『イン・ザ・ハイツ』(2021年)という作品でも同様のテーマを扱っていた。ヒスパニック系の移民をミュージカルとして描いたこの映画では、ニーナというキャラクターが大学で人種差別の被害に遭ったり、ソニーというキャラクターが非正規雇用に悩む場面があった。これらは原作となる舞台には存在しない、映画オリジナルの設定。ジョン・M・チュウは、ミュージカルという華々しい舞台で過酷な現実を織り込んでいく。その手法が、『ウィキッド ふたりの魔女』にも活かされている。

本作は、“悪”とは何か?を突き詰める、極めて現代的なミュージカル映画なのだ。

※2025年3月6日時点での情報です。

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