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これがないと東大合格後も東大入試を受け続ける子になる…日曜劇場「御上先生」が難関高校生に伝えたこと

  • 2025.3.9

日曜劇場「御上先生」(TBS系)で松坂桃李さん扮する教師の発言や行動のアイデアを出しているのが、“東大逆転合格”で知られる西岡壱誠さん(東大経済学部4年)。西岡さんは「御上先生は文科省から派遣された官僚教師だから、できることがある。このドラマはむしろ受験に失敗した人に見てほしい」という――。

官僚教師は「学習指導要領」の理解度が違う!?

このドラマで僕は教育監修という立場で、主人公の御上先生(松坂桃李)が、生徒に出す問題や教え方、一部のセリフなどを脚本家・詩森ろばさんのオーダーに沿ってつくっています。

例えば、第1話で、御上先生が黒板に数式を書いて授業するというシーンがありました。その問題も、「どんな問題なら御上先生らしく、かつ凄すごみが出るか」ということを、詩森さんとディスカッションを重ねて、つくり上げていきました。

文部科学省「平成29・30・31年改訂学習指導要領(高等学校)」

僕が意識しているのは、御上先生が文部科学省から出向した官僚教師ということ。東大卒の官僚というだけでなく、文科省が作成した「学習指導要領」をしっかり読み込んでいるという設定になっています。

脚本監修にあたり、実際に文科省から教育現場に出向されている官僚の方に、取材させていただきましたが、やはり学習指導要領に対する理解度が非常に深い。

そもそも、学校の先生が全員、学習指導要領を読み込んでいるかというと、もちろん読んでいらっしゃる先生もいらっしゃるでしょうが、実際そこまで手が回っていない先生が多いというのも実情です。教科書が学習指導要領に則っているから、わざわざ学習指導要領自体を読まずとも、それらしく指導することは可能です。ただ、やはり学習指導要領というのは受験とは別軸の理念が示されているものなので、学習指導要領を読み込んだ官僚教師の方が、一定の視座の高さや視野の広さがあるのではないかと考えています。

とはいえ現実の学校は、進学実績がメインです。学校によっては、私立大学よりも国公立大学にどれだけ入れたかが評価される。なぜなら親御さんたちが、それを望んでいるから。だから学校の先生は、親御さんの意図や目の前の一人ひとりの生徒というミクロな視点に縛られますが、官僚教師にはそれはありません。御上先生もまた、そういった高い視座を持っているといえます。

だから生徒と話しても、その子がどうだという個別の話ではなく、今、この日本にいる「高校生N=1(エヌワン)」が何を考えているのか、という視座で物事を見ている。セリフを提案するときは、そういう背景を考え、言い回しを「もっと強くしたほうがいいですよ」なんて、こちらから言うこともありますね。

学園ドラマでは初めて? 「教えない」先生

御上先生は、ただ官僚というだけでなく、「教えない」先生。これが今までの学園ドラマとは、全く違う人物設定です。「3年B組金八先生」は子どもたちに自分の価値観を熱く伝えていたし、「ドラゴン桜」の桜木先生は東大合格のためのスキルを教えていた。でも御上先生は、生徒に聞かれても答えを教えず、「考えて」と生徒に促します。生徒が出してきた答えを論評するというスタンスです。

ある種、無責任にも見えるし、ある種、生徒の主体性を信じているともいえる。この微妙なラインは、時代が「ティーチング」から「コーチング」に変化していることを示しているのではないでしょうか。ティーチングとは教えること、コーチングとは、勉強している人を支援していくこと。

今の時代、学校の教師だけでなく、オンライン学習サービスやYouTubeの勉強動画など、先生になりうるものはたくさんあるし、学びも多様です。ですから先生の授業を聞く子に育てるのではなく、学習教材をどう自分が使うのか、自分でどう学ぶのか、学び方を学ぶ子に育てなきゃいけないんです。第2話では、御上先生が学び方を教える「アクティブ・リコール」を提案しましたが、これこそまさにコーチングをしている先生のあり方です。

©TBS 日曜劇場「御上先生」(TBS系)で御上を演じる松坂桃李
「逆転東大合格」は恩師のコーチングのおかげ?

僕自身の経験からも、そういう先生の存在は大事だと考えています。

高校時代、僕に「東大に行け」と言ったのも、英語や国語の先生ではなく、音楽の先生だったんです。だから、その先生から勉強を教わったことは一切ありません。ただ、その先生がいたから、僕は2浪の末に東大に受かった。その先生は、自己肯定感が低くて、何もできないと思っている僕に、いろいろな本を読ませてくれたり、勉強法や受験への向き合い方を教えてくれたりした。そういう精神的な面で、コーチングをしてもらったなと思っています。

僕にとってその先生は、まさに御上先生です。結局、学校の先生だけが教える存在であるというのは、もう今の時代に合っていない。今は教師にも、一緒に考える、あるいは考えさせるという接し方が求められているのではないかなと思います。

現代の「少子高齢化」が意味するのは、単に子どもが減っているという事実だけではないと思っています。昔に比べ、子どもの数に対し、大人の数が相対的に多くなっているのです。50年前は15歳以下の子ども1人に対して大人が3、4人だったけれど、今や8、9人いるという時代。だから、学校においても生徒の数に対して先生が多く、それは学習環境が充実してきているという側面もありますが、子どもが自ら考える機会を減らしているのではないかと思うのです。

「ただの上級国民予備軍になりたいか」という問いかけ

このドラマの生徒は、勉強のできる子たち。中学受験を乗り越え、高偏差値の中高一貫校に入学し、東大を目指す。読解力もあるから、御上先生の言うこともすぐに理解できるし、反応できるけれど、おそらく受験の時期になると受験ばかりに意識が向いてしまうでしょう。

僕自身、東大に入って感じたことは、「何も考えず、迷うことなく東大に受かるやつって多いんだな」ということです。御三家をはじめ、東大に進学するのが当たり前だという学校が存在します。その事実を受けとめたうえで、僕は彼らに「何のために勉強しているんだ?」「東大に受かった上で何をしたいんだ?」「それを考えていなかったらダメだぞ」というメッセージを送りたい。それが、第1話の御上先生の「君らはただの上級国民予備軍だ」というセリフにつながっているんです。

東京大学の赤門 ※写真はイメージです

東大に入って、うつ病になったという人も少なくありません。理科三類(理三)に受かって医学の世界に入ったけれど全然楽しくなくて、いちばん楽しいのは休日に東大の数学の問題を解くこと、というツイートが以前バズッていましたし、僕の友人も、5浪して、理三に受かったけれど、10回連続、合格後も東大入試を受けています。もちろん、それが悪いこととは思いませんが、でも僕は、そういう子たちはもっと「生きる実感」が必要なんじゃないかと思うんです。

「弱者に寄り添う人こそ真のエリート」というセリフ

この先ドラマは、どんな展開になっていくか。

第1話で御上先生が「真のエリートが寄り添うべき他者とは、弱者のことである」と言いましたが、この「弱者をどう救うか」というのが、今後の展開につながっていきます。

先に挙げた「生きる実感」というのは、他者に貢献することから湧いてくる。ただ自分のためだけに、他人より多く給料をもらえるようになるために受験勉強するのは虚しくないか。「そんな虚しい人生で、君たちはいいの?」と、このドラマは問い続けていきます。

僕はむしろ、「受験がうまくいかなかった人」にこそ、このドラマを見てもらいたいですね。今の世の中、大学受験や高校受験よりもっと大切なことはあるのに、やはり、受験で不合格になると絶望的な気分になってしまう。そういう人が、このドラマを見ると、視野がちょっと広くなるんじゃないかなと思うのです。

構成・文=池田純子

西岡 壱誠(にしおか・いっせい)
現役東大生 カルペ・ディエム代表
1996年生まれ。偏差値35から東大を目指すものの、2年連続で不合格に。二浪中に開発した独自の勉強術を駆使して東大合格を果たす。2020年に株式会社カルペ・ディエムを設立。全国の高校で高校生に思考法・勉強法を教え、教師に指導法のコンサルティングを行っている。日曜劇場「ドラゴン桜」の監修や漫画「ドラゴン桜2」の編集も担当。著書はシリーズ45万部となる『東大読書』『東大作文』『東大思考』『東大算数』(いずれも東洋経済新報社)ほか多数。

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