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愛の気分は音楽から。サントラ・ブラザースが選ぶ、シーン別・サントラベスト3

  • 2025.3.13
BRUTUS

純愛

愛を貫く映画のテーマはロマンティックだけど、なぜか、どれもほろ苦い

1位:『トゥルー・ロマンス』'93/米 暴力の薫り漂う愛の逃避行。そのオープニングとエンディングを飾る「You're So Cool」は、トニー・スコット監督と脚本のクエンティン・タランティーノが、作曲家のハンス・ジマーへ『地獄の逃避行』('73)のメインテーマを模すように注文したロマンティックな名曲。(渡辺)
2位:『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』'86/仏 この映画が好きだと言うと「イタイやつ」と言われてしまうほど、激しい純愛映画の名作。音楽はフランス映画音楽界の巨匠、ガブリエル・ヤレド。コブシの効いた哀愁のサックスからなるテーマ曲、ベティが適当に弾くピアノのフレーズがアンニュイな「C'est Le Vent, Betty」など、胸キュンな名曲揃い。(山崎)
3位:『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』'71/米 日々自殺の真似をしている19歳の内気な少年・ハロルドが、辛い過去を持つ79歳の老女・モードの自由な精神に触れ、徐々に恋心を抱いていく。今なおカルト的に支持される本作の音楽は、シンガーソングライターのキャット・スティーヴンス。モードからハロルドへの贈り物のような歌詞に感動。(鶴谷)

青春

つたない恋の映画を観れば、大人になった今でも、甘酸っぱい気持ちに

1位:『リコリス・ピザ』'21/米 1973年、ロサンゼルス郊外のサン・フェルナンド・バレー。15歳の少年が、25歳の女性に恋をする。青春映画らしく、全編にわたって当時のロックやジャズが使われて楽しい。オープニングで流れるニーナ・シモンのバラードが、いろいろあるけど甘酸っぱくて懐かしいこの映画のムードを予感させる。(鶴谷)
2位:『君の名前で僕を呼んで』'17/伊=仏=ブラジル=米 映像美と甘酸っぱさには本当に圧倒されるが、サントラにも監督の音楽偏愛が溢れていて、素晴らしい。坂本龍一やスフィアン・スティーヴンスなどの楽曲が、避暑地というロケーションや考古学という設定に完全にリンク。音とともに80年代をここまでスタイリッシュに描いた映画はなかったかもしれない。(山崎)
3位:『プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角』'86/米 サイケデリック・ファーズの表題曲に、主人公のアンディ(モリー・リングウォールド)が、戸惑いながらプロムの準備をするシーンではニュー・オーダー「Thieves Like Us」(サントラは「Shellshock」のみ収録)。そして、愛すべきダッキーがたそがれながら聴くザ・スミスまで。きらびやかな80sを追体験。(渡辺)

失恋

辛い時は無理をせずに。切ない物語と劇伴に、心ゆくまで浸りたい

1位:『エターナル・サンシャイン』'04/米 喧嘩別れしてしまった失恋の痛みを忘れるため、記憶除去手術を受けたカップル。結末を思い出すと、それだけで胸が締めつけられる。ジョン・ブライオンによるピアノのメインテーマ、そしてベックが本作のためにカバーしたコーギスの「Everybody's Gotta Learn Sometimes」が切なすぎる。(鶴谷)
2位:『パリ、テキサス』'84/西独=仏 昨今のアンビエントブームから、LPが高額盤になりつつある本作。オープニングで、放浪する主人公の雰囲気を演出する秀逸なメインテーマは、ブラインド・ウィリー・ジョンソン「Dark Was The Night」を模倣して作ったという。登場人物を包み込むような、物悲しさと優しさが同居した楽曲に心打たれる。(山崎)
3位:『ジョゼと虎と魚たち』'03/日 くるり初の劇伴作。スティールパンが陰鬱なヘビーダブ「ジョゼのテーマ」。オーケストラによる「別れ」を、簡素なピアノのみにアレンジした「恒夫とジョゼ」は、たっぷり隙間を取った演奏のため、2人の幸せな生活音が聞こえてきそう。しかし、本編を何度観直しても最後の「ハイウェイ」では号泣。(渡辺)

不倫

年間に数十本は作られる、不倫をテーマにした映画。もう文化なのかもしれない⁉

1位:『アメリカン・ビューティー』'99/米 スコアを手がけたトーマス・ニューマンは、ランディ・ニューマンを従兄に持ち、音楽一家の家庭に育った。本作は中近東~アフリカ系の打楽器が、ループしながら折り重なって展開していく楽曲が多く、ある種のアンビエント~テクノのような構成。このスコアなくして、この映画独自の表現はできなかっただろう。(山崎)
2位:『卒業』'67/米 劇伴をデイヴ・グルーシン、劇中歌をサイモン&ガーファンクルが担当。不倫相手(ガールフレンドの実母)に振り回され、うつろな表情を浮かべるシーンでは陽気な「Mrs. Robinson」。ハッピーエンドを迎える中、どこか不穏な「Sound Of Silence」を当てたところに、マイク・ニコルズ監督の性根を感じる。(渡辺)
3位:『アメリカン・ジゴロ』'80/米 主人公はジゴロ(金持ち女性を相手にする男娼)で、ほぼすべて既婚者相手だが、その中の一人である政治家の妻と半ば本気の不倫関係に。スコアはジョルジオ・モロダーで、罠にハメられて落とされる直前、束の間のひとときの「愛のテーマ」に癒やされる。ブロンディの主題歌「Call Me」は大ヒット。(鶴谷)

郷愁

今はそばにいないけど、時々思い出しては、愛(め)でる作品がある

1位:『ドライブ・マイ・カー』'21/日 濱口竜介監督による、村上春樹の短編小説の映画化。音楽はジム・オルークのサポートのもと、石橋英子が制作。ジャズ的なアプローチと、ほのかな温かみのある音作り。帰郷シーンの美しい雪景色にもマッチしているが、音楽単体でも素晴らしさを感じることができる。ある意味サントラを超えた作品だ。(山崎)
2位:『君がいた夏』'88/米 こんな素敵な年上の従姉(ジョディ・フォスター)がいたら、誰だって憧れるに決まってる。引退した野球選手が故郷に帰り、少年時代の彼女との思い出を振り返る時、1950~60年代のポップスがほろ苦く響く。他人の家に忍び込んで、2人で一緒にプールに飛び込む時の水中撮影のシーンが忘れられない!(鶴谷)
3位:『あの頃ペニー・レインと』'00/米 キャメロン・クロウ監督自身、70年代前半に16歳でローリング・ストーン誌の記者に。その当時の記録を綴った半自伝作。交流のあったバンドの音楽性、人間性のいい部分、悪い部分を詰め合わせた架空のバンド、スティル・ウォーターの「Fever Dog」も劇伴に収録。いかにも一発屋的で、切なさが漂う。(渡辺)

動物愛

ペットの枠を飛び越え、我らの相棒が活躍する映画には爽快な曲を!

1位:『子猫物語』'86/日 『戦場のメリークリスマス』('83)の後に坂本龍一が劇伴を担当した大ヒット作。「オープニング・テーマ」など、シンセサイザーなどの電子楽器とオーケストラの組み合わせが、雄大な自然のシーンに、音の息吹を与えている。また「魚つり」などは、ニューエイジ・アンビエントとしての評価も。(渡辺)
2位:『NOPE/ノープ』'22/米 未確認飛行物体をめぐる映画であり、牧場の兄と妹の物語でもある。馬の目を見るな、という教えが彼らを救った。音楽はジョーダン・ピール作品で毎回組むマイケル・アーベルスによるスコアと、要所で聴かせるソウルやロック。コリー・ハート「Sunglasses At Night」は、劇中同様にスロー再生で収録。(鶴谷)
3位:『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』'19/米 時代背景にシャロン・テート殺人事件があり、そこにありそうでなさそうな落ち目のTVスターの自伝フィクションを掛け合わせる。やはりタランティーノは天才。劇中曲にザ・ヴィレッジ・カラーズの「Hector」を持ってくるセンスも最高。それにしてもピットブルのブランディの活躍は必見。飼いたい!(山崎)

仁義

絆で結ばれた人たちほど、関係を緩和するために音楽が必要だったりする

1位:『グッドフェローズ』'90/米 1950~80年代のNYのギャングの日常を描いた、マーティン・スコセッシ監督の傑作。それぞれの時代のジャズ、ドゥーワップ、ポップス、ロックの名曲が並ぶ。名場面ばかりだが、仲間が殺されて怒りに燃えたデ・ニーロが電話ボックスを破壊するシーンが胸熱。音楽では「いとしのレイラ」の使い方が衝撃!(鶴谷)
2位:『君よ憤怒の河を渉れ』'76/日 『新幹線大爆破』('75)の佐藤純彌監督による傑作。高倉健演じる主人公が、陰謀に巻き込まれながらも、強い意志で権力に対抗していく物語。新宿のど真ん中を馬の群れが奔走するシーンは、今観るべき圧巻の迫力。音楽も『新幹線〜』から青山八郎が続投。和洋折衷感の強いディスコトラックが素晴らしい。(山崎)
3位:『リトル・ミス・サンシャイン』'06/米 劇伴はクラシックとジャズを組み合わせたスコアに定評のあるマイケル・ダナ。本作では「The Winner Is, The」など、フォークやカントリーも交えた爽快な劇伴を聴かせてくれる。末娘・オリーブが亡くなった祖父との約束通り、リック・ジェームス「Superfreak」で渾身のダンスを披露するシーンで涙。(渡辺)

人類

こんな時代だからこそ、映画や音楽が必要です。世界の平和を祈って

1位:『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』'22/カナダ=ギリシャ 人類が進化を経て、痛覚を失った近未来。主人公は体内に新たな臓器を生成し、それを公の場で摘出手術するという異常さ。グロさが次第に美しさに変わっていく。陰鬱ながらも甘美なシンセとストリングスのスコアは、デヴィッド・クローネンバーグ監督のほとんどの作品を手がけるハワード・ショア。(鶴谷)
2位:『アルマゲドン』'98/米 マイケル・ベイ監督&ジェリー・ブラッカイマー製作、元イエスのトレヴァー・ラヴィンが劇伴を担当。有名すぎる泣きの主題歌は、『マネキン』('87)の主題歌などで知られるダイアン・ウォーレンが書き下ろした「I Don't Want To Miss a Thing」。地球を救った英雄には、壮大な曲が必要だ。(渡辺)
3位:『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』'21/米 1968年にキング牧師が暗殺され、アフリカンアメリカンたちは意識改革を強いられた。翌69年、6週間にわたり開催されたハーレム・カルチュラル・フェスティバルの記録映像には、彼らのターニングポイントとなった日々が収められている。とにかく、スライ&ザ・ファミリー・ストーンの勢いがすさまじい!(山崎)

profile

Soundtrack Brothers(DJユニット)

サントラ・ブラザース/サントラのみでDJプレーを行う鶴谷聡平、山崎真央、渡辺克己による、通称サントラ・ブラザース。現在はTSUBAKI FMで隔月でDJミックスを提供。小誌WEB版BRUTUS.jpで「サントラ・ブラザースの今夜もハイフィデリティ!」を好評連載中。

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