音楽一家の子としてスイス・ベルン近郊で生まれ、独自の画風によって「色彩と線の魔術師」と呼ばれたパウル・クレー。
創作の軌跡を辿り、あらためてその魅力に迫ります。
「この世では、私を理解することなど決してできない。なぜなら私は、死者たちだけでなく、未だ⽣まれざる者たちとも⼀緒に住んでいるのだから」。
パウル・クレーのこの⾔葉は、1920年にクレーの作品を売り出した画廊の販売戦略に⽤いられて、孤独に瞑想する芸術家としての彼のイメージを広めました。
たしかにクレーの作品は謎めいているかもしれません。しかし、同じ時代を⽣きたほかの多くの前衛芸術家たちと同様に、クレーもまた、仲間たちと刺激を与え合ったり、夢を共有したりしながら、困難な時代を⽣き抜いたひとりの⼈間でした。
クレーは、⼈⽣の根源的な悲劇性と向き合いながら、線と⾊彩によって光を呼び起こし、抽象のなかに⽣命のエネルギーを描き出しました。
その作品は、歴史的な⽂脈のなかに置かれることで、また新たな姿を⾒せることでしょう。
本展では、クレーの代表作のほか、《ハマメットのモティーフについて》、《周辺に》といった日本初公開となる作品を展示するほか、スイスのパウル・クレー・センターとの学術協⼒のもと、ヴァシリー・カンディンスキー、アウグスト・マッケ、フランツ・マルクなど、これまで日本で紹介される機会の少なかった、クレーと交流のあった重要な芸術家の作品との⽐較も。
当時の貴重な資料の参照を通じて、多くの⼈や情報が構成する星座=コンステレーションのなかでクレーを捉え直し、その⽣涯にわたる創造の軌跡をたどります。
トップ掲載作品:《赤、黄、青、白、黒の長方形によるハーモニー》1923年 パウル・クレー・センター
教えてくれたのは・・・
愛知県美術館
黒田和士さん
専門はドイツ近代美術。東京藝術大学大学美術館学芸研究員、Bunkamuraザ・ミュージアム学芸員を経て、現在、愛知県美術館学芸員。論文に「パウル・クレー《回心した女の堕落》 イメージと言葉の弁証法的な関係をめぐって」など。
『パウル・クレー展 ─ 創造をめぐる星座』
場所:愛知県美術館(愛知芸術文化センター10階)
開催: 開催中〜3月16日(日)
開館 :10:00 〜18:00(入館は閉館の30 分前まで)
閉館 : 月曜日
052-971-5511
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