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残業を無くすためにボスを狩れ!ギルドの受付嬢が定時退勤のために無双する、「他人事とは思えない」異世界ファンタジー【書評】

  • 2025.3.7
ギルドの受付嬢ですが、残業は嫌なのでボスをソロ討伐しようと思います 香坂マト:原作、優木すず:作画、がおう:キャラクターデザイン/KADOKAWA

「社会人が嫌いなもの」の上位にくるものと言えばズバリ「残業」ではないだろうか。その原因となる問題を解決すべき、と考えるのも社会人なら当然だろう。ただ、残業が発生する原因が見えているのに解決できない状況もある。

それは、原因が自分の管轄外だったり、自分より立場が上の人間に問題があったりして、手が出せないパターンだ。「業務が終わらない原因を一足飛びに解決できたら話が早いのに」などと考えてモヤモヤしながら働く方も多いだろう。ちなみに会社員でもあるライターの私にも覚えがある……。

『ギルドの受付嬢ですが、残業は嫌なのでボスをソロ討伐しようと思います』(香坂マト:原作、優木すず:作画、がおう:キャラクターデザイン/KADOKAWA)は、まさにタイトル通り、ギルドの受付嬢が“残業の原因”を排除し無双していく痛快な異世界ファンタジー作品だ。

原作小説は8巻まで発売中で、シリーズ累計部数は30万部を突破(2023年8月時点・電子版含む)。2025年1月からは、主人公のアリナ・クローバーを高橋李依さんが演じるTVアニメも好評放送中である。ここでは、この話題作のコミカライズ版を紹介していく。

■社会人なら大共感?残業を無くすためにボスを狩れ!

いわゆる冒険者ギルドの受付嬢とは、内勤だから安心安全、公務だから職や給与を失うこともない超安定の(住宅ローンも組めてしまう)職業であった。大都市・イフールで受付嬢になって3年目のアリナは、定時まで仕事をしたら自分だけの時間を過ごせるマイホームでごろごろすることを理想にしていた。

定時上がりで安定したお仕事……現実ならば理想的な人生になる、と思わずワクワクしてしまった。

だが現実はそう甘くはなかった。アリナは毎日が残業三昧で深夜まで帰れず、休日を返上して仕事をすることも。激務の大きな理由は、近隣のダンジョンであるベルフラ地下遺跡のボス「ヘルフレイムドラゴン」をどの冒険者も倒せず、ダンジョン攻略が滞っていたからだ。ボスがいる限りダンジョンには他の魔物が寄って来る、魔物を倒すべく冒険者たちもやって来る、結果ギルドの受付窓口は大混雑となるのだ。

ダンジョンが攻略されれば仕事が減って平穏な日々が戻るはず……と耐えてきたアリナだったが限界を迎える。なんと自らボス討伐に赴き、この世界の異能力“スキル”を発動。「巨神の破鎚(ディア・ブレイク)」で呼ばれた巨大な鎚でドラゴンを“どつき回し”、いとも簡単に倒してしまう。残業への怒りを叫びながら。

半端ないチートな能力で戦うバトルシーンはド迫力。大鎚をぶん回して単純なパワーを叩きつける戦い方はカタルシスがあり、胸がスカッとする(現実の社会人としても)。

実はアリナは「処刑人」の異名を持つ冒険者でもあった。複数人の冒険者パーティでも倒すのが難しいダンジョンのボスを、密かにソロで倒して回っていたのだ。このボス討伐は、自分の正体を明かさずに一人で遂行せねばならない。なぜなら、受付嬢は副業禁止だったからだ。かくしてアリナは、平穏な受付嬢としての生活を守るために、今日も攻略が滞るダンジョンへソロで向かうのだ。

物語は全体的にコメディタッチで描かれている。しかしアリナが感情的になる残業も副業禁止も、社会人ならば笑えないキーワードだ。きっと誰でも、彼女と同じ怒りを覚えるはずである。異世界ファンタジーでありながら、この共感度の高さが本作の大きな魅力である。

■平穏な生活を手に入れるために戦う受付嬢の秘密と過去

本作の、もう一つの魅力。それはアリナのキャラクターだ。口の悪い“怒れる”受付嬢で、凄腕の「処刑人」で、そしてもちろんかわいい。

まずはその圧倒的な強さ。そもそも冒険者ギルドではトップランクのパーティ「白銀の剣」が4人がかりで苦戦するヘルフレイムドラゴンを一蹴できるほどである。アリナの「巨神の破鎚(ディア・ブレイク)」は、スキルの中で最上位に位置する「神域(ディア)スキル」の一つなのだ。

アリナが冒険者として最強クラスの力を持っていながら、受付嬢にこだわる理由は何なのか。そもそも彼女がこのスキルを得られたのはなぜか。彼女の秘密と過去は、物語のキーポイントになる。

副業を含めて仕事のしすぎであるし、ちょっとイライラしすぎていて心配になるヒロイン、アリナのコロコロ変わる表情とかわいさにも注目だ。

はたして彼女は、平穏なギルド受付嬢生活を手に入れられるのだろうか。ただ、残業を無くすためには大鎚を振り回し続けなければならないのだが……。彼女の、無風な人生を求めるための嵐のような戦いの行方を、ぜひ見届けてほしい。

文=古林恭

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