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ヒルズ在住の70代夫婦「年金月30万」でも住民税非課税…通院し放題で自己負担月8000円の裏で現役イジメの冷酷

  • 2025.3.7

社会保険料の引上げや高額療養費制度の見直しなど現役世代の負担は重くなる一方だ。少子高齢化で公的医療保険の財政のさらなる悪化は不可避だが、医師の筒井冨美さんは「高齢者の多くは安価なコストで毎日のように病院通いをして、薬をもらっても使いきれずに自宅貯蔵している分は年1兆円にも達する可能性がある」という――。

度重なる社会保険料アップ、疲弊する現役世代

今年2025年に団塊の世代(1947〜49年生まれ)全員が75歳以上の後期高齢者となる一方、2024年の出生数は約72万人と過去最少を更新した。日本の少子高齢化は進行し「払う人」が減少して「受け取る人」が急増することが確定しており、今後の公的医療保険の財政悪化は小学生でも知っている。

厚生労働省資料より

これを受け、厚生労働省は2024年10月に国民健康保険の保険料上限の引き上げを決定した。同年12月には高額療養費制度を見直して、2025年8月と2027年に医療費自己負担の上限額を段階的に引き上げる方針を決定した。

なぜ、一省庁がこんな重要な施策をきちんとした議論なく勝手に決められるのか。

現役世代にとって健康保険料は税金的な色彩が強いが、仕組み上は「税金」ではなく「保険」である。そのため、国会審議が必要な消費増税などと比べて、厚労省の一存で簡単に負担増が可能である。

こうした国民負担を“自在”に上げられる構造自体に首を傾げる人は多い。実際、度重なる「社会保険料の値上げ」「受けられるサービスの切り下げ」に疲弊し、怒りをあらわにする現役世代も増加の一途である。先日、「財務省解体」と叫ぶデモが話題になったが、その矛先が「厚労省」に向かっても何も不思議ではない。

現役世代の怒りに油を注いだ国会答弁

そうした不満を募らせる国民にさらなる巨大な燃料を投下したのは、石破茂首相である。2025年2月21日の衆院予算委員会で首相はこう答弁した。

「『キムリア』という(抗がん剤の)薬があって、1回で3000万円ですよね。有名な『オプジーボ』が年間に1000万でございますが、一月で1000万以上の医療費がかかるケースが10年間で7倍になっているということは、これは保険の財政から考えて、これ何とかしないと制度そのものが持ちません」

高額薬品を名指しすることで保険料アップに理解を求めたのだろうが、社会保険料負担増を強いられる現役世代はSNSで猛反発し、炎上した。怒っているのは現役世代だけではない。医療関係者のSNSを見ると反対意見がほとんどである。

「医療費膨張の本丸は高齢者医療、それに比べれば抗がん剤など微々たるもの」
「高齢者医療の支出を減らさないまま、現役世代の負担だけ増やしても焼け石に水」

そんな声があふれている。これが医療や介護の現場を預かる者の「実感」なのだろう。

福岡資麿厚労相も同日の衆院予算委員会で、まるで朗報だと言わんばかりに、自己負担額の上限引き上げによる受診控えで約1950億円の医療費が削減できるとの試算を示したが、これまたSNSで炎上した。

「がんや難病、慢性疾患で治療している人の受診控え」ということは、すなわち国は「高額薬品は使わず逝ってほしい」とも解釈できる内容だからだ。厚労省トップの国会での発言であり、多くの患者団体や医学会が抗議をしたのはうなずける。

高額療養費制度とは

高額療養費制度とは、公的医療保険の加入者が1カ月以内に病院や薬局で支払った自己負担額が一定の上限を超えたとき、その超過分が後から払い戻される仕組みである。

たとえば年収500万円の会社員が500万円の抗がん剤治療を受けた場合、通常であれば3割負担として150万円を支払わなければならない。しかし高額療養費制度を利用すると、所得区分ごとに設定された月々の上限額を超えた分が申請後に払い戻しされる。このケースでは実質的な自己負担は25万円程度で済むことになり、病気による経済的なダメージを軽減することが可能である。

現役世代にとっては、2022年度から開始された不妊治療への保険診療拡大でのメリットが大きい。かつては全額自己負担で1カ月100万円近くにもなる体外受精などの高度不妊治療が、年収500万円の会社員が高額療養費制度を利用すれば自己負担額が約10万円となった。その効果なのか、2022年には過去最多の7万7000人の体外受精児が誕生し、これは同年の出生数77万人の約10%に相当する。

厚生労働省資料より

また、この高額療養費制度は前年度年収によって補助額が変わるので、現役世代が100万円の治療を受けた場合、自己負担額は所得区分によって約6万〜28万円と変化する。現役世代に限れば、そう悪くない制度である。

扶養控除や給与所得控除より大きい年金控除

高額療養費制度で自己負担が最も少ない「住民税非課税世帯」は、現役世代と65歳以上では基準が大きく変わる。65歳以上では公的年金控除(110万円)が認められるため、「東京都内、夫婦2人の年金受給者」だと「世帯主211万円、配偶者155万年、世帯年収366万円」まで住民税非課税世帯としての恩恵を受けることが可能になる。多くは子育てや住宅ローンを終えた世代であり、月収30万円は生活するのに厳しい基準とは言えないだろう。

一方、現役世代のアルバイト独身者が住民税非課税世帯となるには「収入100万円(所得45万円+給与控除55万円)」が上限となり、リタイア世代に比べてかなり厳しい基準となる。「日本の全世帯の24%住民税非課税世帯であり、その75%が65歳以上(2022年国民生活基礎調査)」という調査結果にはこういうカラクリがあるのだ。

住民税非課税の基準額を算定するにあたって、「扶養親族による控除(年35万円)」や、「給与所得控除(55万円)」はあってしかるべきだが、前述したように「公的年金控除」がそれらより大きい額(110万円)というのはいかがなものか。

「家族を扶養」もしくは「働くための衣服・住居・本・パソコンなどの必要経費」に比べて「年金を受給するための経費」が必要とは思えないし、控除される額がはるかに大きいのも謎である。そう感じる現役世代も少なくないはずだ。2011年に年少扶養控除(※)がなくなった後でも年金控除が維持されていることにも子育て世帯は不満だろう。

※16歳未満の扶養親族があり、その人数に応じて一定額を所得税や住民税など税金から控除する制度。2010年に民主党政権が子ども手当(現・児童手当)を導入した際に廃止

住民税非課税高齢者は月8000円で外来通いたい放題

「住民税非課税世帯の高齢者」=「心身の衰えの激しい老人」というイメージを持つ人もいるかもしれない。確かにそういう高齢の貧しい弱者もいるが、そうではない人もいる。

前述した「年金の世帯年収366万円」の家は住民税非課税世帯となるだけでなく、「コロナ対策」「物価上昇支援金」などの各種の給付金の対象となり、安価な公営住宅や社会保険料減免などの恩恵もある。また、「住民税非課税世帯」の判定には資産額は考慮されないので「セミリタイアした金融資産○億円の高齢者」の住民税非課税世帯も存在し、各種給付金の支給対象である。

そして、高額療養費制度も70歳以上になると、補助水準が一気に上がって、「一定金額で外来受診し放題」など国から手厚いサポートを受けられる(図表3の水色部分)。

厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて」より著者制作

現役世代の場合、住民税非課税世帯でも月3万5000円がこの制度の自己負担額上限だが、70歳以上は入院で月1万5000〜2万5000円、外来のみならば月8000円が上限となる。石破首相が国会答弁したオプジーボ(1本37万円)も、月8000円で使いたい放題となる。そして2027年の改定後には、「前年度年収1500万円会社員が肺ガンになってオプジーボを使う場合、病気で年収半減しても毎月36万医療費」となる一方で「住民税非課税高齢者の月8000円上限」制度は温存されている。

そうなると、例えば、資産家の70代夫婦が高級賃貸物件として知られる六本木ヒルズに在住しながらも、年金は世帯月30万円ならば住民税非課税となり、通院し放題でも自己負担月8000円が可能になる。

その結果、日本中の病院の待合室には高齢者があふれ、中には待合室で社交に励む人もいる。毎日のようにいろんな病院を受診しては「どうせ“タダ”だから」と、「湿布がほしい」「ビタミン剤」「保湿剤」「目薬」とドラッグストアで購入可能な薬品を要求するケースも珍しくない。

しかも、せっかくもらった薬も「ちょっと飲んで(使って)残りは放置」となる場合もあり、訪問介護などで高齢者宅を訪れると「未使用薬品の山」を見かけることもあるという。そうした高齢者向けの「サービス」の原資は現役世代の社会保険料である。

シルバー民主主義で日本は滅びる?

少子高齢化の進行に伴って、有権者に占める高齢者(シルバー世代)の割合が増加し、高齢者層の政治的影響力は年々高まっている。いわゆる「シルバー民主主義」で、大票田の高齢者に嫌われたくない政治家は、高齢者に不人気な政策は掲げづらい。そして、石破政権誕生後は「地方創生」、あえて筆者的な言い換えをするなら、「地方高齢者に迎合/都市部の現役世代は養分」といった制度への変更が目立つように感じる。

厚生労働省資料より

2024年の衆院選では、かつて主張していた「高齢者の医療費自己負担2割」を選挙戦で封印した国民民主党が躍進し、正面から「医療費自己負担3割」を主張した日本維新の会は議席を減らした。これに懲りたのか維新幹部は積極的には医療費に触れなくなり、他党は今まで以上に沈黙し続けている。

令和4(2022)年度集計では、住民税非課税の高齢者は約1040万人と推測され、そのうち450万人(43%)が高額療養費制度を利用している。一方、70歳未満では9640万人中400万人(4.1%)に過ぎない。

根本的な制度改革が実施されない以上、「月8000円で薬を使いたい放題」の住民税非課税高齢者は今後も増えるだろう。『無駄だらけの社会保障』(日本経済新聞社編/日経BP)では、東京薬科大学の益山光一教授が「“残薬”が1兆円程度あってもおかしくない」と高齢者宅にたまりにたまった未使用薬品がある可能性を指摘している。住民税非課税世帯だけなく、高齢者全体の湿布や薬など使い(飲み)残しでそんな巨額の無駄を毎年出しているのだ。

今日も待合室に溢れる高齢者たち――。その健やかな老後に貢献したい気持ちを持つ一方で、医療関係者の中にはしばしば穴の空いたバケツに水を注ぐような気分に襲われてしまう者も多いのである。

筒井 冨美(つつい・ふみ)
フリーランス麻酔科医、医学博士
地方の非医師家庭に生まれ、国立大学を卒業。米国留学、医大講師を経て、2007年より「特定の職場を持たないフリーランス医師」に転身。本業の傍ら、12年から「ドクターX~外科医・大門未知子~」など医療ドラマの制作協力や執筆活動も行う。近著に「フリーランス女医が教える「名医」と「迷医」の見分け方」(宝島社)、「フリーランス女医は見た 医者の稼ぎ方」(光文社新書)

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