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イラン人ノーベル平和賞受賞者ナルゲス・モハンマディが語る、3月8日国際女性デーへの思い

  • 2025.3.6
Photo: Nooshin Jafari

3月8日国際女性デーを迎えるにあたり、イランの反政府運動「女性、生命、自由」についてお話ししたいと思います。まずは、ルネ・シャールの言葉から始めましょう。

「私たちへの遺産は、遺言なしで残された」──ルネ・シャール

歴史的な瞬間に立ち会う世界中の女性たち、そして今を生きる私たちイラン人女性は「継承者」です。遺産は私たちの基盤であり、先人たちの闘いや犠牲、抗いによって築かれ、女性の抵抗の歴史を形作ってきました。そして、今それを前進させるために、どのように引き継ぎ、立ち上がり、闘い、未来を切り開くかは、私たちにかかっています。

「抵抗」は歴史が私たちに残した宝であり、闘いを形作り、勝利とともに新たなビジョンを打ち立ててきた力です。それは単なるシンボルやエンブレムではなく、私たちが生きる上でのあらゆる瞬間を導いてくれます。

国際女性デーは「リマインダー」である

中東地域を蝕む戦争、暴力、原理主義、過激主義から私を守ってくれる、忍耐強い女性たちが多く存在します。彼女たちがいなければ、性差別的な政権下で投獄されているイラン人女性である私が、今日こうしてあなたたちにメッセージを届けることもできなかったでしょうし、私が自由の道を歩む希望を持つこともなかったでしょう。

イランの女性たちは、自分たちの犠牲の上に築かれた神権政治的独裁政権に対して、厳しい闘いを続けています。その闘いは単に女性の権利のためだけではなく、民主主義と自由のためでもあり、極めて重要だといえるでしょう。私たちは世界的な運動を生み出す決意とともに、真の連帯を構築する必要があります。その道が険しいことは確かですが、不可能ではありません。今こそ、女性たちが先頭に立つときです。

イラン人女性としての46年間におよぶ抵抗

イスラム共和国成立からわずか1カ月後の1979年3月8日、女性たちは街頭に繰り出し、政権の抑圧的な政策に抵抗する最初の波を先導しました。しかし2022年とは異なり、彼女たちの抗議行動が社会的に広く支持されることはありませんでした。宗教、伝統、家父長制、深く根付いた偏見、低い識字率と教育レベル、国家のプロパガンダ、イデオロギー統制、残忍な弾圧──そのすべてが彼女たちの前に立ちはだかったのです。

それでも女性たちは退きませんでした。彼女たちの闘いは治安部隊に立ち向かうにとどまらず、日常生活のあらゆる場面における宗教、伝統、家父長制の支配に挑むこととなりました。支配、被支配、疎外からの解放を求める女性たちの闘いは、多方面にわたって展開されてきたと私は信じています。

その一つであるマフサ・アミニの死から生まれた力強い「女性、生命、自由」運動において、女性たちは単なる参加者ではなく、指導者であり意思決定者でもあります。

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世界中の女性たちへ伝えたい。イラン人女性たちの闘いは、すべての女性がどんなに過酷で残忍な抑圧に対しても立ち向かう力を持っていることの証です。決して自分たちを過小評価してはなりません。私たちは戦士なのです。

ジェンダーアパルトヘイトを犯罪化する必要性

ジェンダー不平等、暴力、そして女性に対する抑圧に終止符を打つには、単なる改革以上のものが必要です。それが「ジェンダーアパルトヘイト(性別に基づく制度的な差別や不平等)」の犯罪化です。差別を犯罪と認識し告発することは、法的枠組みとしてだけでなく、政治的、文化的および社会的にも不可欠だと考えます。

世界は、タリバンやイスラム共和国がジェンダーに基づく抑圧を政策化し、組織的に施行しているのを目の当たりにしています。これらの政権は法的および政治的メカニズムを悪用して、社会のあらゆる面で差別を蔓延らせ、法律、政治、教育、経済における女性の権利を制限しています。

ジェンダーアパルトヘイトは、単に極度の性差別を犯罪化するだけでなく、これらの政権が女性への抑圧を公式な国家政策とし、宗教や文化的規範によってそれを正当化してきたという事実に立ち向かう理由となります。現政権下におけるジェンダー不平等への抵抗には、投獄、鞭打ち、経済的破綻、さらには死という深刻な代償が伴います。ジェンダーアパルトヘイトを犯罪化することで、これらの構造を解体し、国家による抑圧の下で暮らす女性の権利を確保するための第一歩となるのです。

政府が目を瞑ってきたさまざまな慣行によって、女性は暴力やハラスメント、ときには命を脅かす危険にさらされています。現政権は依然として無関心を貫き、法律さえもこれらを黙認しています。政策は抑止力として機能しておらず、女性の権利を侵害する人々を訴追し、適切に処罰することに全く重点をおいていません。

このような極めて差別的な女性に対する人権侵害は、組織的に制度化されることで永続しています。暴力、脅迫、社会的、経済的、および文化的な危害を助長する構造的なジェンダー不平等に対処するためには、国際的な人権メカニズムを活用することが不可欠です。

ジェンダーアパルトヘイトを犯罪化し、差別を罪として認識するためには、市民やアクティビスト、フェミニストらが連帯し、女性の抑圧に焦点を当てる言説を形成すること、さらに政治家や国会議員、人権団体や女性権利団体も行動を起こすことで効果を発揮するでしょう。

Photos: Jo Straube

イラン社会と反政府運動「女性、生命、自由」

イラン社会はこれまで、女性運動や学生運動、正義のための闘争など、さまざまな社会運動によって形作られてきました。「女性、生命、自由」運動は、イランの歴史から力をもらいつつ、基本的人権、抑圧された自由、平等を求める闘いを続けています。

ここ数十年、女性たちは市民運動、文化的取り組み、街頭デモや政治・社会運動への積極的参加を通じて、社会で重要な役割を果たしてきました。公私ともに政府からの容赦ない圧力を受けながらも、彼女たちは強靭なバネのように反発し、計り知れない影響力を発揮しています。この運動はイラン人女性による大胆な蜂起として世界的な注目を集めており、国内外を問わず変革を促す力を持っているのです。

記憶や遺産を歴史に刻み残すことの重要性

冒頭で私は、「遺産」と「追憶」について触れました。今度は、別の角度からアプローチしてみましょう。

ブルガリア系フランス人の思想家ツヴェタン・トドロフは、現代社会が過去の残虐行為を積極的に「記憶」することで将来の不正義を防ごうとしている、と主張しています。女性に対する歴史的抑圧が繰り返されるのを防ぐために、社会は「女性に何が起こったのか」を明らかにする必要があると考えます。そしてそれは、集団の記憶に刻まれなければなりません。証言が明るみにされ、大衆の意識が疑問と反省の方向に向くこと、さらに女性は世界的な連帯運動に参加しなければなりません。

イスラム共和国やアフガニスタンのように、組織的、構造的、体系的な暴力に直面している国々では、「女性として私たちに何が起きているのか」を語り、人々の意識を高め、人権や女性の権利を守る勢力を動員する必要があります。ストーリーテリングは、抵抗や闘争と並んで解放への道となります。私たちは女性として、世界レベルで自分たちの声を届ける努力をしなければなりません。間違いなく、私たちはこれまで以上に声を大きくし、力強くならなければならないのです。

監獄の中と外、そのどちら側の生活も私にとっては同じ意味を持っています。それは、民主主義、自由、平等が達成されるまでの抵抗と闘争です。元々心臓病を患っており、服役中にも4度の大手術を受けました。手術のたびに刑務所に戻され続けていますが、私は精神的にも感情的にも健康であり続け、肉体的な状態を改善するために努めています。

イラン人女性としての苦しみ

イスラム共和国で「生きていること」「女性であること」の代償は、厳しい現実です。女性であるというだけで、耐え難い悲惨な現実に晒されます。女性の髪や体の一部が露出すると、迫害、逮捕、投獄、鞭打ち、重罰、解雇などに直面し、社会の多くの分野から排除されます。

家庭では、法的には男性のみが世帯主として認められ、住居や子どもに関する権限を持ち、女性は常に抑圧され、服従のもとに暮らしています。実家において女性の財産相続権は男性の半分であると、国の法制度によって定められています。これらは私の国で「女性であること」の代償です。そして、女性たちがこうした女性差別的な法律に対して声を上げたり、行動を起こしたりすると、政権の司法当局はさらに女性を罰します。

2016年、革命裁判所は「死刑反対」、「フェミニスト活動」、そして「人権擁護センターでの活動」を理由に、私に懲役16年の判決を下しました。裁判中、私はイラン人女性として、現政権の女性差別的で非人道的な法律によって繰り返し被害を受け、大きな犠牲を払ってきたと主張しましたが、それによって再び起訴され、被告人の立場に置かれることを余儀なくされたのです。

現政権は繰り返し私たち女性を「被害者」と「犯罪者」の両方に仕立て上げており、どちらの場合も女性が犠牲となる無限の負のサイクルに陥っています。私はこの国で合法とされている一夫多妻制に反対することも宣言しました。この法律によれば、男性は最大4人まで正妻を持つことができます。この不当な法律により、女性たちは家庭内でも苦しい立場に置かれる一方、抗議活動をすると私のように厳しい実刑判決を受けることになります。この制度は根本的に女性差別的で抑圧的なのです。

服役10年目の今日、私は足の腫瘍を摘出する大手術を受けたため、執行猶予付きで一時的に刑務所の外にいますが、この先にはまだ10年以上の懲役刑が待っています。しかし、民主主義、自由、人権、女性の権利が実現するまで、私が立ち止まることはありません。

女性には誰にも止められない力がある

恐れてはなりません。私たちは女性の権利を侵害する者たち、つまり民主主義を信じない者たちと対峙し、抵抗し続けるのです。

2025年2月2日、イラン首都テヘランより、自由と平等を求めて──ナルゲス・モハンマディ

Text: Narges Mohammadi Adaptation: Nanami Kobayashi

From: VOGUE ITALIA

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