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私は主人公じゃない。私みたいな存在は、ピンクを着るべきじゃない

  • 2025.3.6

小さいころピンクは大好きで、そして憧れの色だった。

◎ ◎

テレビ画面の中でみる憧れのアイドルたちは、みんなフリフリで可愛い服を着ていた。

彼女たちの可愛さに惹かれたのか。彼女たちのキャラクター性に惹かれたのか。それとも、ピンクが好きだったから彼女たちを好きになったのか。

どっちが先だったのかは今となっては全く分からないが、とにかく私はピンク色が大好きだった。

◎ ◎

そんな女の子たちに憧れた私の将来の夢は、アイドルだった。

幼稚園の帰り道。みんなで遊んだ公園のベンチの上で、私は歌って踊っていたと、母がニコニコしながら教えてくれたことを覚えている。

そんな私の洋服はもちろんピンク色。孫が私しかいなかったこともあってか、祖母は何かにつけて洋服を買ってくれた。メゾピアノのかわいい服を着て、歌って踊っている私の姿はさぞ微笑ましかっただろう。

◎ ◎

でもいつからだったろうか。ピンクを着ることを恥ずかしいと思うようになったのは。自分のような存在は、ピンクを着るべきじゃないと思うようになったのは。

ピンク=主人公の色だと感じるようになったのは、いつからだっただろうか。憧れのアイドルも憧れのプリキュアも。みんな、はじめから物語の主人公だった。ピンク色を着てもいいのは、クラスの中の主人公だけだったんだ。

公園で歌を自由に歌っていた頃の私はいなくなった。いつしか人前で発表することが苦手で、引っ込み思案になった私。

私は主人公じゃない。私みたいな存在は、ピンクじゃだめだ。

◎ ◎

アイドルが好きではなくなった。ピンクのかわいい服を着て歌うアイドルに対して、冷めた目を向けるようになった。主人公の彼女たちに、憧れなくなった。共感もできなくなった。

ピンクを着なくなった私が選んだ色は黒だった。

黒は目立たないから好きだ。日陰者の自分が来ても周囲に違和感を与えないから好きだ。そういった理由で黒色の服ばかりを着るようになった。そんな私を察したのか、祖母がくれる洋服もいつの間にか黒色になっていった。

◎ ◎

アイドルに興味を持てなくなったある日。かわいいアイドルしか知らなかった私は、とある「かっこいい」アイドルを知った。黒い衣装を着て、生の声でロックチューンを歌う彼女たちの姿は明らかにかっこよかった。かわいいアイドルへのカウンターパンチのような存在の彼女たちに憧れるようになった。そんな黒くてかっこいい彼女たちにどんどん憧れる気持ちが募っていった。

そんな彼女たちは解散した。あっという間だった。

憧れの黒くてかっこいいアイドルがいなくなった時、なんとなく流れてきたかわいいピンクのアイドル。

なぜだろう。昔感じていたような、冷めた気持ちを持たなくなった。初めから主役の彼女たち。どうせ自分はなれない存在。そんな気持ちしか見ていても感じなかったのに、純粋にかわいい!と思えるようになった。

それは私が大人になったからなのか。それがいつからだったのか。明確にはわからない。「アイドル=かわいい=苦労していない」といったねじ曲がった認識を、黒いアイドルたちが変えてくれたからかもしれない。

◎ ◎

難しいことはわからない。でも、私は黒が大好きになったし、ピンクもちょっぴり好きになった。

今でも私は真っ黒な服を着る。ピンクのフリフリな服を着るのは恥ずかしい。

でも、たまにはピンクの小物も買ってみようかな。

■黒野しおりのプロフィール
色々書きます。観劇や読書が好きです。X(Twitter):@kurono_shiori

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