*TOP画像/瀬川(小芝風花) 重三郎(横浜流星) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」9話(3月2日放送)より(C)NHK
吉原で生まれ育ち、江戸のメディア王に成り上がった蔦重の人生を描いた、大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」の第9話が3月2日に放送されました。40代50代働く女性の目線で毎話、作品の内容や時代背景を深掘り解説していきます。
20年の時を経て伝わった瀬川の思い
瀬川(小芝風花)をとびきり幸せにしてくれる“誰か”が訪れることを待ち望む重三郎(横浜流星)。彼が瀬川に贈った『女重宝記』にもそんなあたたかな想いが託されていました。
しかし、鳥山検校(市原隼人)が瀬川を身請けする話が出ると、重三郎は自分の想い、そして“瀬川の恋心”にようやく気づきます。
鳥山検校(市原隼人) 瀬川(小芝風花) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」9話(3月2日放送)より(C)NHK
コミュ力抜群の重三郎ですが、大切な人に重要なことを伝える場面ではどうも頼りない。「市中の本屋と もめちまって」「今 お前がいなくなると困るんだよ」と、瀬川に鳥山検校との身請けの話を断ってくれと頼みます。
瀬川(小芝風花) 重三郎(横浜流星) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」9話(3月2日放送)より(C)NHK
瀬川は自分を都合よく日々扱い、こんなときにまで頼ってくる重三郎に怒りを覚え、「べらぼうめ!」と怒りを目を潤ませながらあらわにしました。
重三郎は瀬川を手放しかけたとき、胸の内をはじめて言葉にできました。
「俺が お前を幸せにしてえの!」
重三郎は瀬川のとびきりの幸せをこれまでも望んでいましたが、それは誰かが瀬川を幸せにすることではありませんでした。重三郎は“自分”が瀬川を幸せにすることを望んでいたのです。
瀬川(小芝風花) 重三郎(横浜流星) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」9話(3月2日放送)より(C)NHK
瀬川が「どうやって幸せにしてくれるっていうのさ」と問いかけると、重三郎は「年季明けには請け出す。必ず」と約束します。瀬川は不意打ちの告白におどろき、その言葉を理解するまでに少し時間を要したようでした。少し経つと、瀬川は安堵した表情になり、顔には笑みが浮かびました。
「瀬川」を背負うことの意味
“忘八”といわれる松葉屋の主人・半左衛門(正名僕蔵)といね(水野美紀)が、千両もの大金がかかっている瀬川の身請けの話を簡単にあきらめるはずはありません。
いねは重三郎と瀬川が幼馴染み以上の間柄であることを女の勘で当てました。ふたりは瀬川と重三郎の関係を明らかにする証拠を探します。また、半左衛門は重三郎に身を引かせるため、瀬川が男性客を相手する姿を見せ、花魁の現実を教え説きました──客をとればとるほど、命がすり減ると。
半左衛門(正名僕蔵) 重三郎(横浜流星) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」9話(3月2日放送)より(C)NHK
瀬川が抱える問題は忘八の主人だけではありません。彼女は「瀬川」を引き継いだために、自分の心に従ってこれまで以上に身動きできなくなっていたのです。
瀬川(小芝風花) いね(水野美紀) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」9話(3月2日放送)より(C)NHK
「あんたが 瀬川をよみがえらせたい幸運の名跡にしたいって言った時は 嬉しかったよ これでみんな救われる」「ここは 不幸なところさ。 けど人生をガラリと変えるようなことが起きないわけじゃない。 そういう背中を女郎に見せる務めが 瀬川にはあるんじゃないかい?」
上記の台詞はいねが瀬川に言ったものです。「瀬川」を名乗ることは店全体を背負うこととも聞こえるような気がします。
かつて、瀬川は「わっちが豪気な身請けでも決めて 瀬川を もう一度幸運の名跡にすりゃいいだけの話さ」と、重三郎に話していました。重三郎に一途の瀬川が本意で言ったことなのか、心配する重三郎を気遣ったのか筆者には分かりません。しかし、この言葉の真意にかかわらず、瀬川を引き継いだからにはこの名を幸運の名跡にすることが彼女の責務になってしまったのです。
いねが教え説く、社会で生きる厳しさ
うつせみ(小野花梨)が新之助(井之脇海)との足抜け(脱走)に失敗したことは、重三郎との足抜けを少しばかり夢見た瀬川にとって他人事ではありませんでした。いねのうつせみに向けた言葉は瀬川の心にも響いたはずです。
いね(水野美紀) 瀬川(小芝風花) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」9話(3月2日放送)より(C)NHK
うつせみ(小野花梨) いね(水野美紀) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」9話(3月2日放送)より(C)NHK
「はあ 幸せ…。なれるわけないだろ!こんなやり方で![中略]あんたを養おうと あいつは博打。あいつを養おうとあんたは夜鷹。成れの果てなんて そんなもんさ」
いねは女将として松葉屋を切り盛りしているものの、彼女もかつては女郎の身。花魁に上り詰め、半左衛門に見初められて、“今”があります。いねはうつせみが逃げたことよりも、人生の先輩として彼女の浅はかさに怒りを感じているようにも見えました。
“好きな人と結ばれて、幸せになりたい”…若い男女のそんな清らかな想いを受け入れてくれるほど社会は寛容ではありません。
蔦重の想いが瀬川の生きる糧に
瀬川は鳥山検校との身請けの話をのむことに決めました。
「この馬鹿らしい話を 重三が すすめてくれたこと きっと わっちは一生 忘れないよ」
瀬川は鳥山検校に身請けされ、吉原の外で暮らせるようになっても、心はとらわれたままでしょう。しかし、重三郎が一緒になることを真剣に考えてくれた事実は瀬川を生涯にわたってあたたかくつつみこむはずです。
『天網島』 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」9話(3月2日放送)より(C)NHK
近松門左衛門の著書『天網島』に挟まれた千切れた通行切手。この通行切手は瀬川が吉原を出られるように、重三郎が用意したものでした。切り取られた上の部分は瀬川がお守りのように大切に持っていると思っています。