『哀れなるものたち』© 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.
第97回アカデミー賞が、日本時間3月3日(現地時間2日)に発表されます。今年は12部門13ノミネートを果たした『エミリア・ペレス』をはじめ、『ANORA アノーラ』『ブルータリスト』などが注目されていますが、混戦という予想も多いようです。昨年は『オッペンハイマー』が、一昨年は『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が、それぞれ作品賞を含む7部門を受賞しましたが、今年の結果はいかに?
アカデミー賞にノミネートされている作品の中には日本での公開が先のものも多いので、それらを待つ間、昨年の受賞作で未見のものがあれば、ぜひチェックを。今回は、2024年のアカデミー賞で主要部門に輝いた映画3作を紹介します。
エマ・ストーンの熱演が光る奇想天外な成長物語、華麗な衣裳も必見 『哀れなるものたち』
『哀れなるものたち』© 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.
エマ・ストーンが『ラ・ラ・ランド』以来、2回目の主演女優賞に輝いたほか、メイクアップ&ヘアスタイリング賞、美術賞、衣装デザイン賞の4部門を受賞した作品。『女王陛下のお気に入り』のヨルゴス・ランティモス監督とエマ・ストーンが再びタッグを組み、奇想天外で唯一無二の世界を作り上げました。
ストーンが演じるのは、天才外科医のゴッドウィン(ウィレム・デフォー)の手により蘇生した若い女性ベラ。ゴッドウィンの邸宅で暮らすベラは、まるで大人の女性の姿をした野生児のような状態で、突然わめいたり、怒ったりと、感情をむきだしにしています。そんな彼女の観察記録をとっている医学生マックスは、次第にベラの虜に。ゴッドウィンも父性愛からベラを手放したくないため、マックスとベラを結婚させようとします。
『哀れなるものたち』© 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.
しかし、思春期の子どもが親の言うことを聞かずに外に飛び出していくように、ベラも外の世界に興味を示し、知り合った弁護士のダンカン(マーク・ラファロ)と共に大陸横断の冒険の旅に出ます。閉ざされた空間や時代の偏見から解き放たれたベラは、真の自由を求めて、突き進みます。
『哀れなるものたち』© 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.
旅立ちを境に、モノクロからカラフルな世界へ。鮮やかでファンタスティックな映像は、ベラが見ている世界そのもの。しかし、やがて楽しいことばかりではなく、はたから見れば大人の女性であるベラは性の搾取の対象にもなるなど、現実を知ることになります。また、豪華な船旅をしている自分たちとは異なり、何もかも奪われた人々がいるということを知り、涙を流すベラ。彼女は旅を通じて、世界を知り、考え、成長していきます。
『哀れなるものたち』© 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.
実験や研究の対象として蘇生された人間、しかも体は大人の女性で中身は幼児のような主人公が世界を旅する、という奇抜なストーリーではありますが、いたってシンプルで力強い成長物語として共感できる作品です。フリルやプリーツなど華麗な装飾をふんだんに使ったコスチュームも美しく、目を奪われます。
『哀れなるものたち』
2023年製作
ディズニープラスの「スター」で見放題独占配信中
© 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.
7冠受賞のクリストファー・ノーラン監督作、天才物理学者の光と影 『オッペンハイマー』
『オッペンハイマー 』© 2023 Universal Studios. All Rights Reserved.
原子爆弾の開発に成功したことから「原爆の父」と呼ばれたアメリカの物理学者J・ロバート・オッペンハイマーを描いた歴史映画。被爆国である日本で劇場公開することの是非も含めて大きな話題となった作品ですが、アカデミー賞で作品賞、監督賞(クリストファー・ノーラン)、主演男優賞(キリアン・マーフィー)、助演男優賞(ロバート・ダウニー・Jr.)、編集賞、撮影賞、作曲賞の7部門を受賞。その後、日本でも公開されました。
『オッペンハイマー 』© 2023 Universal Studios. All Rights Reserved.
第二次世界大戦下、アメリカで立ち上げられた極秘プロジェクト「マンハッタン計画」に参加した若きJ・ロバート・オッペンハイマーは、優秀な科学者たちを率いて世界で初となる原子爆弾の開発に成功します。しかし、原爆が実戦で投下されると、その威力と惨状を聞いたオッペンハイマーは深く苦悩するようになります。
『オッペンハイマー 』© 2023 Universal Studios. All Rights Reserved.
研究熱心な青年は原爆の開発成功を純粋に喜びますが、それも束の間、すぐに自分たちの手から奪われて政府のものとなり、恐るべき兵器として使われてしまった、ということのショックの大きさを、オッペンハイマー役のキリアン・マーフィーが繊細な表情の変化で表現しています。あくまでもオッペンハイマーという物理学者の半生に焦点を当てた映画ですが、クリストファー・ノーラン監督の真摯な思いをくみ取ることができます。
『オッペンハイマー 』© 2023 Universal Studios. All Rights Reserved.
また、本作は、原爆の開発と成功、「赤狩り」の犠牲となること、オッペンハイマーを陥れた黒幕の存在、という時間軸の異なる3つの内容をちりばめた構成になっています。180分という長い作品ながら、それを感じさせない緊張感のある演出は、さすがノーラン監督といったところ。受賞した二人の俳優だけでなく、マット・デイモンやエミリー・ブラント、フローレンス・ピューなど人気俳優たちも名演を披露しています。
『オッペンハイマー』
2023年製作
4K Ultra HD+ブルーレイ(ボーナスブルーレイ付) ¥7,260
ブルーレイ+DVD(ボーナスブルーレイ付) ¥5,280
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
© 2023 Universal Studios. All Rights Reserved.
人として大切にしたい想いに気付かされる温かな作品 『ホールドオーバーズ』
『ホールドオーバーズ』© 2023 MIRAMAX DISTRIBUTION SERVICES, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
『サイドウェイ』のアレクサンダー・ペイン監督と名優ポール・ジアマッティが再び組んだ本作は、寄宿学校を舞台に、嫌われ者の先生と問題児、料理長の3人の交流を描いた心温まる作品。派手さはないものの、第96回アカデミー賞で作品賞や主演男優賞を含む5部門にノミネートされ、料理長を演じたダヴァイン・ジョイ・ランドルフが助演女優賞に輝きました。
『ホールドオーバーズ』© 2023 MIRAMAX DISTRIBUTION SERVICES, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
舞台は1970年のボストンにある寄宿学校。クリスマス休暇でほとんどの生徒たちが家族と過ごすなか、寄宿学校に残されたのは、生徒から嫌われている考古学の教師ハナム(ポール・ジアマッティ)と家庭に問題を抱える生徒アンガス(ドミニク・セッサ)、一人息子をベトナムで亡くしたばかりの学校の料理長のメアリー(ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ)だけ。
『ホールドオーバーズ』© 2023 MIRAMAX DISTRIBUTION SERVICES, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
皮肉屋だけれど実直な人物であることがうかがえる教師と、斜に構えているもののどこか寂しげな生徒、そして息子を亡くしたにもかかわらず大らかな態度で料理をふるまう料理長の3人は、仕方なく共に過ごすことになったものの、心に傷を抱えている者同士、少しずつ心を開き、寄り添い合い、家族とはいわないまでも、それに似た関係を築くようになります。
『ホールドオーバーズ』© 2023 MIRAMAX DISTRIBUTION SERVICES, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
落ち込むアンガスにメアリーがそっと手を差し伸べるシーンや、ハナムが自らの立場を考えずに本当に大切なことを訴えるシーンに、目頭が熱くなります。観てよかった、そう思える珠玉の作品です。
『ホールドオーバーズ』
2023年製作
ブルーレイ+DVD ¥5,280
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
© 2023 MIRAMAX DISTRIBUTION SERVICES, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください
※価格は、断りのある場合を除き、消費税込みで表示しています
※この記事の内容および、掲載商品の販売有無・価格などは2025年3月時点の情報です。販売が終了している場合や、価格改定が行われている場合があります。ご了承ください
構成・文
ライター 中山恵子
ライター。2000年頃から映画雑誌やウェブサイトを中心にコラムやインタビュー記事を執筆。好きな作品は、ラブコメ、ラブストーリー系が多い。趣味は、お菓子作り、海水浴。