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『リボルバー』に主演したチョン・ドヨンが明かす俳優同士のケミストリー「チ・チャンウクさんの演技がインスピレーションをくれた」

  • 2025.3.2

スリラーやサスペンスなどあらゆるジャンルを横断し、数多く作られてきた韓国ノワール。特徴で言えば、とにかくバイオレンスもグロテスクも桁違いに容赦がなく、敵も味方もしぶとい。そして結末は後味の悪いものが多い。現在公開中の『リボルバー』は、成熟しきった定石に風穴を開け、ノワールというジャンルをもう一度捉え直そうとする画期的な一本と呼びたい。

【写真を見る】『リボルバー』でこれまでの作品とは異なる“ノワールの女性”を好演したチョン・ドヨン

9年ぶりの再タッグを決断した理由は「監督へのリスペクト」

警察内の汚職スキャンダルに巻き込まれた刑事スヨンは、恋人(イ・ジョンジェ)の裏金問題に巻き込まれ、彼の罪を被る見返りに大金をもらう“約束”をするが、出所した彼女は自分が陥れられたことを知る。リボルバーを手にしたスヨンは、孤独な闘いに身を投じていく。主人公のスヨンを演じるチョン・ドヨンは、『無頼漢 渇いた罪』(15)から数えると実に9年ぶりにオ・スンウク監督と再タッグを組んだ。近年はドラマ「イルタ・スキャンダル 〜恋は特訓コースで〜」でコミカルで天真爛漫なシングルマザーに扮し「明るい作品がやりたかった」と笑顔を浮かべていたチョン・ドヨンが、再び荒涼としたノワールに帰って来た。その理由を「例えるなら、“私がオ・スンウク監督という人間を知る時間”だったと思います」と明かす。

【写真を見る】『リボルバー』でこれまでの作品とは異なる“ノワールの女性”を好演したチョン・ドヨン [c] MANAGEMENT SOOP

「 『無頼漢 渇いた罪』でキム・ヘギョンを演じた時は、オ・スンウク監督がどんな作り手なのか知るために、現場で激しく意見交換をする感じでした。そして作品を観ることで『こういう作品を作る監督なんだな』と理解できましたし、監督も作品もすごく好きになれたんです。今回は、脚本をいただく前に『どのような作品をやりたいか』と話し合いました。『無頼漢 渇いた罪』がシリアスな作品だったので、もう少し明るくて軽い女性の復讐劇の話をしようとスタートをしたんですね。ただ、監督があまりに長い時間をかけてシナリオを書いていらっしゃるので『あまり無理せず、重すぎない爽やかで陽気な作品をやろう』と言ったんですね」。

ところが、4年後に送られてきたのは、女性が主役の重厚な犯罪映画『リボルバー』だった。チョン・ドヨンも少し驚いたそうだが、それでも演じると決めた。

「オ・スンウク監督は古典的なノワールを大変愛してらっしゃるし、そんな監督の作るノワールを私も尊敬しています。『リボルバー』のストーリーは一見単調かもしれないのですが、俳優たちがとてもすばらしく見えるんですよね。役者たちが演じるキャラクターの葛藤の要素がふんだんに入れ込まれているからではないでしょうか。だから監督の作品は、シナリオと完成品とですごく色合いが違うんです。それが私にとって魅力的でした」。

オ・スンウク監督は“鉄の心臓を持った主人公”の物語を書き下ろしたという [c] 2024 PLUS M ENTERTAINMENT, SANAI PICTURES AND STORY ROOFTOP ALL RIGHTS RESERVED.

「現在のスヨンは感情が抑制された女性」多様な色彩の衣装で見せた感情変化

チョン・ドヨンが特にこだわったのは、ハ・スヨンというキャラクターの過去と現在をどう演じ分けるかだった。そこで考えついたのが、髪型と衣装をガラリと違う雰囲気にすることだった。劇中、念願叶って手に入れたマンションを見ている回想シーンではとても鮮やかな紫色の服を着ていたスヨンだが、出所した際は一転、黒のワンピースで地味な風貌に。そして復讐を進めていくと、派手な刺しゅうが背中に躍るジャンパーをまとう。衣装の色彩変化によって、スヨンという女性の印象はもちろん、感情的にも変化が見られてコントラストがくっきりとする。過去のハ・スヨンの衣装について、チョン・ドヨンは「『無頼漢 渇いた罪』で演じたキム・ヘギョンからインスピレーションを受けた」と語った。

徹底的に感情を抑制しつつ、殺気をみなぎらせるスヨンを演じたチョン・ドヨン [c] 2024 PLUS M ENTERTAINMENT, SANAI PICTURES AND STORY ROOFTOP ALL RIGHTS RESERVED.

「回想シーンの時のスヨンはまだ前向きで、愛について夢見ている。なので少し華やかな感じです。罪を償ったあとは、当初より現実的な姿になっているんです。ただ実は、その時のほうこそ彼女の本来の姿だったんじゃないでしょうか。過去の彼女は、自分以外の何者かになろうと懸命でしたが、出所後はただひたすら自分自身の人生や自分に備わっているものをありのままに見せる人物だという気がしたんです。過去のスヨンは、もう少し表情も豊かでした。自分が持っていたすべての夢を失ってしまったと思っている現在のスヨンは、言ってみれば感情が抑制された女性なんですよね」。

「ユンソンがなぜスヨンに魅了されるのか?その理由が重要でした」女性同士のドライな連帯

女性キャラクターが躍動する作品が多種多様にある韓国映画界でも、本作のように女性が強烈な存在感を放つノワール映画はそこまで多くはない。特にイム・ジヨン扮するユンソンの持つ“食えない”雰囲気はスヨンも当初警戒していたが、次第にドライな絆が生まれていく。固い友情で結ばれているわけではないのに、互いに離れがたい相手。その関係性が新鮮だ。

警戒し合いながらも行動を共にしていくスヨンとユンソン [c] 2024 PLUS M ENTERTAINMENT, SANAI PICTURES AND STORY ROOFTOP ALL RIGHTS RESERVED.

「本音を明かさず立ち回りの上手いユンソンがなぜスヨンに魅了されるのか?これが重要なので、説明されるべきだと思いました。なので、脚本を読みながら監督と話していたのが、『まるでかくれんぼしているように逃げているユンソンが、どの瞬間で心からスヨンを助けなければいけないと思ったんだろうか』ということでした。すごく難しくて悩ましかったんですが、それが解決されないと、観客は納得しないだろうと思いました。映画の中に、ユンソンの本心の全てが込められたシーンがありますが、私にもユンソンの気持ちが伝わりました。撮影後にイム・ジヨンさんと話した時も二人の関係について同じ意見でした。スヨンとユンソンの関係性は、撮影が進みシーンが積み重なることで結果的に見えてくるものになったと思います」。

チ・チャンウクとの撮影秘話「彼は貪欲な天性の俳優」

女性たちの魅力が際立つ一方、登場する男性たちは、女性に対してトキシックであったり、また嘘つきであったりと、情けない姿で描かれている。トラブルメイカーのアンディ(チ・チャンウク)、私怨からスヨンを憎悪する元同僚の刑事ドンホ(キム・ジュンハン)、自分の利益だけを優先するチョ社長(チョン・マンシク)、そしてスヨンに罪を肩代わりさせたにもかかわらず、最後まで守れなかった恋人。良くも悪くも人間臭く、ある意味で立体的な人物たちだ。チョン・ドヨンは分け前を調達する約束を破ったアンディのバーに乗り込むシーンで、初共演のチ・チャンウク相手にかなり体を張ったという。

ハードなシーンの撮影をこなしたチ・チャンウク、イム・ジヨンと笑顔の1枚 [c] 2024 PLUS M ENTERTAINMENT, SANAI PICTURES AND STORY ROOFTOP ALL RIGHTS RESERVED.

「初めはお互いにぎこちなかったんですが、それは私がチ・チャンウクさんという俳優をあまり知らなかったからだなと実感しました。撮影をしている時に彼からものすごいエネルギーを感じたんです。彼の演技が、スヨンが持つ復讐心に似た感情のインスピレーションをたくさんくれました。チ・チャンウクさんって本当にかっこよくて優しくて、そういう役回りも多いから『リボルバー』は大変だったでしょうね。アンディというキャラクターでは、チ・チャンウクさんはご自身の内面のある一部を取り出して見せてくれたのかもしれませんし、とにかく良い演技をすることに対して貪欲な天性の俳優。また共演したいですね!」

「感情が暴力的にぶつかりあうノワール」で“リボルバー”が象徴するものとは?

作品のタイトル『リボルバー』は、出所したスヨンが入手した一挺のリボルバーのこと。実はこの銃は、劇中でかなり特異かつ象徴的な登場をしている。この使われ方を巡って「(製作会社の)サナイピクチャーズの代表は『信じられないよ』とよく仰っていました」と笑いながら話す。

タイトルとなったスヨンのリボルバーの意味にも注目したい [c] 2024 PLUS M ENTERTAINMENT, SANAI PICTURES AND STORY ROOFTOP ALL RIGHTS RESERVED.

「たしかにそうなんですが、私としては、この作品がほかのノワールと差別化できるとしたら、アクションを使った肉体的なものというより、むしろ感情がぶつかるものが暴力的であることだと思いましたし、監督も同じことを考えていらっしゃいましたね。誰かを殺せという意味でリボルバーを渡され、受け取ったスヨンでしたが、彼女は自分の意思とは関係のない他人の意思で殺人者になりたくなかったんじゃないでしょうか。不正を働いた罪を償ったのにまた罪を犯すのではなく、自分のやり方で、正当に自分の分け前を要求している。おそらくスヨンにとってリボルバーは彼らを殺すためというのではなく、ただの警告の道具なんではないでしょうか。 出所してきたスヨンが復讐したい人間たちを銃で殺してお金を取れば済む話ではあるんですが、彼らが望んで作った枠組みにとらわれず、ハ・スヨン自身のやり方を選んで貫いたんだと思います。作品のリボルバーにはそういう意味があると思うんです」。

長いキャリアの中で変わったこと、変わらないこと「素顔の私と俳優チョン・ドヨンは分けられない」

チョン・ドヨンの俳優生活は1992年のドラマ「われらの天国」でスタートし、スクリーンデビューとなった『接続 ザ・コンタクト』(97)が高く評価された。長いキャリアを振り返った時、演技を始めた時と現在とで変化したことや、逆に今なお変わらず持ち続けている思いを聞いた。「今も変わらないのは、作品を選択する時の優先順位はシナリオが最も高いということです。私自身が脚本に納得できるかどうかですね」と話す。さらに「実は…役者になったばかりの頃は、この仕事をそんなに愛していなかったと思います。それが一番大きく変わったところじゃないでしょうか」と、“演技を愛し、演技に愛されている”チョン・ドヨンとしては意外なことを口にした。

演技への情熱を感動的に語ってくれたチョン・ドヨン [c] MANAGEMENT SOOP

「会社員のほうが稼げましたし、おもしろかったんです。ところが演技をしているうちに、心から俳優という仕事を愛するようになったんです。以前は『作品がなければほかのことをすればいいかな。何でも上手くやれるはず』と思ったりしましたが、今は俳優という仕事を愛していて、演じることを切望しています。素顔の私と俳優チョン・ドヨンとを分けては考えられない。演技ができなくなるなんて想像してしまって、怖くなったりします。これからどうなるかは分かりませんが、私ができることは精一杯やりたいです。人って常に後悔しないわけじゃないですけど、後悔を減らすために努力していますし、これからもそうするつもりです」。

取材・文/荒井 南

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