パリで花ひらくガレの芸術、ガラス、陶器、家具に独自の世界観
サントリー美術館で開催中の「没後120年 エミール・ガレ:憧憬のパリ」[2025年2月15日(土)~4月13日(日)]を見て来ました。
エミール・ガレ(1846~1904)はフランス北東部の古都ナンシーに生まれ、1877年31歳の時に父・シャルルから家業を継ぎます。 ガレの国際デビューとなったのは1878年パリ万博からです。ガレは当時パリで定期的に開催されていた万博で、ガラスや陶器、家具などガレ独自の世界観で表現された作品で大成功を収めました。
本展は、ガレの独自の芸術世界とガレを成功へと導いたパリとの関係に焦点を当てた展覧会です。
※静寂鑑賞時間 10:00~11:00
本展では10:00~11:00を、撮影・会話禁止の静かな空間で作品に向き合っていただく「静寂鑑賞時間」としています。展示室内での撮影および会話はご遠慮ください。
11:00以降、展示室内での撮影が可能です。 ※動画・フラッシュ撮影は禁止。その他注意事項は会場の案内をご覧ください。
ガレの国際デビュー1878年パリ万博
ガレの父シャルルは、結婚を機に妻の実家のクリスタル製品と磁器を扱う店を継承します。1854年頃からパリに受託代理人を立てて販売普及に努め、1866年に「皇帝陛下御用商人」の肩書を得ています。
1864年から家業の陶器デザインを手伝い始めたガレは、1867年のパリ万博では父を手伝い半年間パリに滞在しています。
パリでの販売促進では1879年にマルスラン・デグペルスが公式なガレ商会の受託代理人となり、マルスランの死後は息子のアルベールが継承しています。 生涯ナンシーを愛し続けたと言われているガレはナンシーを拠点として、父とともにパリでの販売促進にも力を注ぎました。
スープ入れ「ナンシーの紋章」 1864-70年、ゴブレット「ジャック・カロの人物画」 1867-76年 どちらもエミール・ガレ サントリー美術館蔵(菊地コレクション) 通期展示
ジャポニズムの流行、北斎漫画をモチーフに《花器「鯉(こい)」》
1877年に家業を継いだガレにとって、初めて経営・制作の総指揮をとり臨んだ1878年パリ万博が国際デビューの場となりました。
当時、流行していたジャポニズムの影響が感じられる《花器「鯉」》。北斎漫画(ほくさいまんが)13編中の「魚籃観世音(ぎょらんかんぜおん)」図からモチーフをとり制作された作品です。淡青色のガラスの表面はゆるやかに渦をまく流水のようで、水中を泳ぐ鯉が跳ねる水音が聞こえてきそうな作品です。
ガレは本万博で、淡青色の「月光色ガラス」を発表し、好評を博してヨーロッパ各地で模倣されたそうです。
1884年には第8回装飾美術中央連合展に参加。その際は同展審査員向けに出品作品の技術的な工夫を記載した解説書を準備しています。
花器「鯉」 エミール・ガレ 1878年 大一美術館蔵 通期展示
手前、第8回装飾美術中央連合展ガラス部門および陶器部門審査委員会宛解説書 エミール・ガレ 1884年9月22日付 サントリー美術館蔵 通期展示:前期・後期で頁替有
1889年パリ万博、独自の技法と世界観で輝かしい大成功
1889年パリ万博では、ガラス工芸で新たな素材と技法の研究開発を進め、ガラス作品約300点、陶器200点、家具17点と2つのパヴィリオンを準備し、ガラス部門でグランプリを受賞。陶器部門で金賞、家具部門でも銀賞を受賞します。
本万博では、黒色ガラスの活用により、悲しみや生と死、闇、仄暗さなどガレの作品に物語性や精神性をまとった作品が見られるようになりガレ独自の新しい世界観を表すのに成功しました。 《花器「好かれる心配」》の蛙はガレ?
左、花器「好かれる心配」 エミール・ガレ 1889年 大一美術館蔵 通期展示
《花器「マグノリア」》
1889年パリ万博出品作の《花器「マグノリア」》。
マグノリア(木蓮)はヨーロッパの装飾品のモチーフとしてよく使われるそうです。花器の内側と外側の両方からエナメルの絵付けがされており、蕾や花の一部は内からの彩色が外へと広がっています。内包されたピンク色と金箔の色調が揺らめき立つような春を感じさせる花器です。
手前、花器「マグノリア」 エミール・ガレ 1889年 パリ装飾美術館蔵Paris, musée des Arts décoratifs 通期展示、エミール・ガレの肖像 1889年 サントリー美術館蔵
パリ・サロンの交流の広がり
パリ万博で大成功したガレは、パリの社交界にも交流が広がります。特にパリ・サロンの中心人物ロベール・ド・モンテスキウ=フザンサック伯爵との出会いは、ガレにパリの一流の芸術家や文化人とのネットワークを広げる機会となりました。
《栓付瓶「蝙蝠・芥子」》は1892年刊行のモンテスキウの詩集『蝙蝠』を記念して制作された作品だそうです。
栓付瓶「蝙蝠・芥子」 エミール・ガレ 1892年 サントリー美術館蔵 通期展示
フランス史上最も華やかな1900年のパリ万博
1990年のパリ万博は、国際的にもフランス史上最も華やかに開催された万博でした。
本万博で、ガレの独自の世界観が展開したのは、特にガラス作品においてでした。造形表現においても作品に込められた深い精神性においても円熟期と言える作品を制作し、ガラスと家具部門でグランプリを受賞しています。 ガレは、フランスを代表する装飾芸術家としてパリでの地位を確立していきます。
《聖杯「無花果(いちじく)」》とユゴーの詩
キリスト教の聖餐の儀式で用いられる聖杯を模した《聖杯「無花果(いちじく)」》。 最下部にヴィクトル・ユゴーの詩が刻まれています。
[人は皆同じ父親から生まれた息子なのだから。同じ眼からこぼれ落ちた涙なのだから。ヴィクトル・ユゴー]
杯の下に滴り落ちる透明と赤の2つの滴は、ユゴーの詩と無花果が持つ宗教的意味を象徴しているそうです。ガレの円熟期の作品とされています。
聖杯「無花果」 エミール・ガレ 1900年 国立工芸館蔵 通期展示
《昼顔形花器「蛾(が)」》
《昼顔形花器「蛾(が)」》。ほのかな白い炎のような昼顔の花に集う2匹の蛾。
炎立つ赤い炎に集まる蛾を描いた速水御舟(はやみぎょしゅう)の重要文化財《炎舞》(1925年 山種美術館蔵)をイメージさせる作品でした。
ガラスは、赤い炎の中で白く輝き、冷えて固まり姿かたちを現します。重文《炎舞》の炎が昼顔の白く淡く光る花器になり、集まった蛾をガラスの中に閉じ込めたかのようで、2つの作品が重なって見えました。
右、昼顔形花器「蛾」 エミール・ガレ 1900年 サントリー美術館蔵 通期展示
憧憬のパリ、栄光の彼方に
《ランプ「ひとよ茸」》に灯る灯り。とても温かな心なごむ灯りです。
展覧会の最後には、ガレが1904年に亡くなる間際の写真が展示されていました。
アメリカのセントルイス万博でフランスのシャンパン・メーカー、ポメリー社が展示した大樽の正面装飾のテーマを手がけたガレが、彼の工場で椅子に座って制作作業を見つめている後ろ姿です。
1894年に起きた冤罪事件「ドレフェス事件」でドレフェスを擁護したガレは、故郷ナンシーでは反感を買った一方で、国際都市パリでは好意的に受け入れられ、そのはざまで精神的重圧に苦しんだそうです。それまでの制作活動の疲弊も重なって1901年から療養を繰り返していたそうです。 ガレが自宅で息を引き取ったのは1904年9月23日(享年58歳)。セントルイス万博の会期中でした。
パリの高い芸術性と出会い、新しい技法と工夫で独自の世界観と精神性を表した芸術作品で、パリ万博で数々の栄光に輝いたエミール・ガレ。
サントリー美術館「没後120年 エミール・ガレ:憧憬のパリ」は4月13日(日)まで。 是非お出かけください。
ランプ「ひとよ茸」 エミール・ガレ 1902年頃 サントリー美術館蔵 通期展示
ミュージアムグッズ
ミュージアムグッズは、ガレの植物の意匠にちなんで桜柴垣文大皿の図柄の色鍋島小皿(2,200円)と雲母 懐紙(770円)を購入。 色鍋島小皿は、サントリー美術館所蔵の鍋島作品のオマージュ商品です。 ※在庫はご確認ください。※価格は全て税込みです。
ミュージアムグッズ サントリー美術館
カフェ 加賀麩不室屋
カフェ 加賀麩不室屋では展覧会にちなんだメニューくるま麩のフレンチトースト シュゼット風(2,400円)をいただきました。エディブルフラワーや、お花のお麩がカワイイ一品です。 加賀棒茶とのセットドリンク(350円)もおすすめです。
カフェ 加賀麩不室屋 くるま麩のフレンチトースト シュゼット風
〇サントリー美術館
URL:https://www.suntory.co.jp/sma/
住所:〒107-8643 東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガレリア3階
TEL:03-3479-8600
※10:00〜11:00は「GALLERIA (ガレリア)」の1F入口から入館できます。
〇没後120年 エミール・ガレ:憧憬のパリ
会期:2025年2月15日(土)~4月13日(日)
※作品保護のため、会期中展示替えを行います。※前期:2/15-3/17、後期:3/19-4/13
開館時間:10:00~18:00(金曜日は10:00~20:00)※3月19日(水)、4月12日(土)は20時まで開館※いずれも入館は閉館の30分前まで
休館日:火曜日※4月8日は18時まで開館
入館料(当日):一般 ¥1,700、大学・高校生 ¥1,000
※中学生以下無料
※障害者手帳をお持ちの方は、ご本人と介助の方1名様のみ無料
※最新情報はウェブサイトでご確認ください。
*ミュージアムショップ
営業時間:10:30~18:00
※火曜日・展示替期間は11:00~18:00
※展覧会会期中の金曜日は20:00まで営業
定休日:展示替期間中の火曜日、年末年始
○カフェ 加賀麩不室屋
営業時間:11:00~18:00
※展覧会会期中の金曜日は20:00まで営業、ラストオーダーは閉店30分前
定休日:展覧会会期中の休館日、展示替期間中の月曜日・火曜日、年末年始