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【異色のピアニストで話題!角野隼斗さんインタビュー】ずっとクラシック音楽の世界にいたら抱かなかった疑問、その答えを探して

  • 2025.3.1

東京大学理科一類を経て大学院に進学、ショパン国際ピアノコンクールでセミファイナリストに。一方で作曲も手掛け、‟Cateen(かてぃん)”として活動するYouTubeのチャンネル登録者数は144万人超え。昨年3月には、ソニークラシカルと日本人4人目の世界契約を結び、NHK「あさイチ」はじめ「情熱大陸」「徹子の部屋」とメディアへの露出も盛ん……。そんな、クラシック界を超えた活動にも注目が集まるピアニスト・角野隼斗さん。3年にわたってその活動を追ったドキュメンタリー映画『角野隼斗ドキュメンタリーフィルム 不確かな軌跡』がこの度公開に。ピアニストとしての新たな道を模索する29歳、その現在地とは?

映画の始まりは‟不確か”

「2023年の始め頃にお話をいただいたのですが、まだ早いのでは?と、しばらくは渋っていたんです。そこから武道館コンサートが決まり、海外公演があって……。そろそろドキュメンタリー映画として成立するかもしれない、と思い始めて。スタートはわりと(テーブル上にある映画のチラシに目をやり)、‟不確か”でした(笑)」

相手の目をじっと見て話を聞き、自分の中からふさわしい答えを探すように目線を落としたあと、ゆっくりと語り始める角野隼斗さん。けれどその言葉の最後、映画のタイトルに絡めた物言いに「上手いこと言いますね!」と反応すると、とても愉快そうに笑います。そんな角野さんですが、映画ではコンクールの舞台裏、開演直前の緊張や終演直後に手応えを語るところまで、ピリつきそうな瞬間もカメラを拒絶することなく、ごく自然なさまが記録されています。印象的なのは、やはり演奏シーン。ピアノの旋律に強烈に引き込まれていると、時折ふっと笑顔になる瞬間が……。

「笑ってました!? 無意識でしょうね。楽しいから笑うときもあるけど……なんだろう? 自分がのってきて、音楽と一体化したと感じたときに自然と出てくる笑い、みたいなものがあるんですよね。ドーパミンとかアドレナリンとか、そういう類のことかも。自分が自然に表現できているという状態が音楽としていちばん理想的だと思うので、そうなれるよう、日々練習するという感じなんです」

不思議な体験だった、武道館公演

映画のクライマックスは、昨年の武道館公演です。武道館は通常のコンサートホールと違い、生音がそのまま使えません。なぜ挑戦が必要とされる会場を選んだのでしょうか?

「逆かもしれません。7月14日、僕の誕生日に‟武道館で公演できます”と言われて、それはやったほうがいいな!と(笑)。クラシックを主とした公演にするなら、生音でないことを如何にプラスに変えられるか?(360度観客に囲まれた)センターステージであることも含め、武道館でしかできないことは?と考えました 。自分のピアノを持ち込むこともそう。するとピアノの弦を叩いて特殊な音を出すとか、ピアノをお借りして演奏するのとは違うことができます。あとシンセサイザーを置くとか」

武道館公演は自分で買った、いつも自宅に置いてあるというスタインウェイのピアノを持ち込みました。

「そのピアノへの思い入れも含め、活動を始めてからの歴史を追うようなコンサートでした。5年ほどを振り返りながらベスト盤のような形で、また前を向いていこう!と、そんな心持ちで、ある意味では再出発だなと。1万3000人が静かに一音を見守るというのがなかなか現実ではないような、とても不思議な体験でした。誕生日に、ウキウキしながら帰りました(笑)」

音楽でも、研究者的なマインドを活かす

中学時代から動画を投稿したり、初めてニューヨークを訪れた1年後には住んでいたり、角野さんは興味を持ってから行動に移すまでが早いように見えます。

「動画の投稿はインターネットを見回すと結構そういう人がいて、自分もやってみたいな、そんな気軽な気持ちでした。それに限らずですが、やるか、やらないか? 迷ったときはたいていやります。だって、やったほうがいい。待つ時間があるなら、早く決断したほうが得るものが多いですから」

では、大学院生時代に音楽情報処理を研究したことは、ピアニストとしての活動と相互作用のようなものがあるのでしょうか?

「関係は、ありますね。いろいろな形で。音楽に関連する研究で、大学1年のときはフランスに半年間留学していましたし。そうして得た知識がそのまま活きることはあります。もっと言うと、そのときに身につけた研究者的なマインドというのか……。どの研究者も、自分は新しい何かをこの世界に少しだけ付け足せるか? 論文を書くことで成し遂げようとします。同じような考え方を、音楽でもしているのかもしれません」

クラシックのピアニストは、過去の作曲家が生み出した曲を、その楽譜通りに演奏するもの。しかし角野さんは自分なりの解釈で、技術を駆使し、自分なりに新しい何かを表現しようとし、作曲も手掛けます。

「クラシック音楽というものは100年前から、やっていることはほとんど変わらないわけですが、この時代にもそのままでいいのかどうか。変わっていかなければいけない部分は必ずあるはずで、ずっとクラシックの世界にいたら、そんな疑問は抱かなかったかもしれません」

YouTuberとしての活動は、まさにその疑問から行動を起こしたことのひとつ。そこには自己プロデュースの面もあるそう。今の時代に、クラシックのピアニストとして第一線で生きるためにはどうするか? どうしたら唯一の価値を世の中に提供できるか? ピアニストとしての‟個性”、それを突き詰めて考え続けています。

角野さんはやはり演奏でもより頭を使うタイプ? 論理的な構築と、ジャズも手掛けることから、即興的、感覚に寄るところとどちらが大きいのか尋ねると、「バランス型かもしれません」と自己分析する。そんな彼はこの映画に、どんな感情を抱いたのでしょう?

「直視出来ず、2時間ほどをチラ見しました(笑)。面白いなと思いましたけど、自分が話しているところというのはまともに観られません。照れくさいんですよね」

PROFILE 角野隼斗(すみの・はやと)
1995年生まれ、千葉県出身。2018年、東京大学大学院在学中に出場したピティナ・ピアノコンペティション特級グランプリ受賞。2021年、ショパン国際ピアノコンクールでセミファイル進出を果たす。YouTubeでは登録者数144万人(2025年2月現在)を突破。昨年3月にはソニークラシカルと契約を結び、10月にはデビューアルバムをワールドワイド・リリースした。

映画『角野隼斗ドキュメンタリーフィルム 不確かな軌跡』

●監督:望月馨
●配給:BSフジ、ローソン・ユナイテッドシネマ
●2月28日~ほか全国公開

©角野隼斗ドキュメンタリーフィルム製作委員会

撮影/本多晃子 スタイリング/金野春奈(foo) ヘアメイク/川口陽子 取材・文/浅見祥子

この記事を書いた人

大人のおしゃれ手帖編集部

大人のおしゃれ手帖編集部

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