紅茶や緑茶、ブラックコーヒーなら砂糖を入れないからヘルシーというイメージがある。糖尿病専門医の矢野宏行さんは「しかし、ケーキなどの甘いものと同時にカフェインを摂取すると、血糖値の急上昇をまねく危険性がある。糖質ゼロをうたうドリンクにも注意が必要だ」という――。
※本稿は矢野宏行『ミスター血糖値が教える 7日間でひとりでに血糖値が下がるすごい方法』(アスコム)の一部を再編集したものです。
スイーツを食べてもいいが、飲み物との組み合わせに注意
甘いものの食べすぎは体に良くない。これがわかっていても、人間、なかなかゼロにすることはできませんよね。
かくいう私も、たまに甘いものを食べることがありますし、「糖尿病になりたくなければ、甘いものを一生口にしてはいけない」といった極論を展開するつもりもありません。節度を守って楽しむぶんには、まったく問題ないと思います。
ただその際に、ぜひとも覚えておいていただきたいことがあります。それは、甘いものと同時にカフェインを摂取すると、血糖値の急上昇をまねく危険性があるということです。
例えばケーキを食べる際、免罪符のようにブラックコーヒーを一緒に飲む人は多いでしょう。
「コーヒーに砂糖を入れたら糖質を摂りすぎちゃうから、せめてブラックで」
そんな考えが根底にあると思いますし、実際にコーヒーには糖質の吸収を穏やかにする効果があるとする論も存在します。しかしこの組み合わせは、じつは血糖値の上昇を抑えるどころか、むしろ急上昇を後押しする要因になります。裏で暗躍しているのは、コーヒーに含まれる成分のカフェインです。
カフェイン→アドレナリン→肝臓で「糖新生」が起こる
カフェインを摂取すると交感神経が活発になり、体のパフォーマンスを高めるホルモンのアドレナリンが分泌されます。すると、アドレナリンが肝臓に働きかけ、糖新生を促進します。これにより、ケーキの糖質とカフェインが起こす糖新生のダブルパンチ状態が生まれてしまうのです。
コーヒーを紅茶に切り替えても、やはりカフェインを含むのでほとんど意味はありません。和菓子に緑茶、も同様です。「甘いもの+カフェインを含む飲み物」の組み合わせは最悪。そのように覚えておいてください。どうしても、という場合は、カフェインレスのコーヒーやお茶を活用しましょう。
「糖質ゼロの清涼飲料水なら大丈夫」ではない
糖質を摂取すると血糖値が上がる――このメカニズムは誰もがご存じのことでしょう。ゆえに「糖質ゼロの食品は血糖値に影響しない」と思っている人も多いはずです。
しかし、それは大きな誤解です。たとえ糖質がゼロだったとしても、人工甘味料が添加されている飲料はその限りではありません。
確かに、飲んでもそれが原因で血糖値が急激に上昇することはないのですが、常飲していると、体に予想外の影響をきたします。
通常、甘いものを摂取すると血糖値が上がり、インスリンが分泌されますが、糖質ゼロのドリンクを飲んでも血糖値が上がらないので、インスリンは分泌されません。この状況に対し、脳が「あれ?」と疑問を抱くのです。
脳は舌(味覚)から、甘いもの(人工甘味料)を摂取していることを感じとっています。にもかかわらず、インスリンが全然分泌されない。このギャップに、異変を覚えます。
そして、詳細なメカニズムはまだ解明されていないのですが、混乱した脳が「糖質を摂らなきゃ。もっと甘いものを食べなきゃ」という意識を芽生えさせるようなのです。
その結果、人間の行動変容を起こし、糖質をたっぷり含んだ食品を多く摂取する行為に導いてしまいます。当然、血糖値は上昇します。肥満につながることもありますし、糖尿病を引き起こすケースもあります。
「普通の砂糖よりも人工甘味料のほうが太りやすい」という研究結果もあるので、その因果関係は否定できないでしょう。
糖質ゼロのドリンクは、飲んだ瞬間の血糖値の上昇には影響しません。でも、将来的に高血糖をまねく恐れがあるのです。
油断は禁物です。気をつけましょう。
「ヘルシーな野菜ジュースなら安心」の落とし穴
野菜は体にいい。健康のためには、積極的に摂取したほうがいい。
ほとんどの読者が、このような認識を持っていることでしょう。私はこれを真っ向から否定するつもりはありません。
しかしその一方で、全肯定することもできません。野菜を体に摂り入れるのなら、なんでもかんでもOKとはいえないからです。野菜の種類は大事ですし、摂取の仕方も重要になってきます。
注意したいのは、市販の野菜ジュースです。健康のためにと、毎朝飲んでいる人もいるでしょう。「これ一本で一日の半分の野菜の栄養素が摂れる」などの謳い文句を見ると、ついつい手が伸びてしまうかもしれません。
でも、注意してください。野菜ジュースには大きな落とし穴が潜んでいます。
パックの野菜ジュースには角砂糖4つ分の糖質が含まれる
砂糖不使用ならいいのですが、たいていの野菜ジュースは飲みやすくするために加糖したり、果物を混ぜたりしています。これが、不要な糖質摂取につながってしまうのです。
200mlほどの小さいパックの野菜ジュースには、だいたい15gから20gの糖質が含まれています。角砂糖にすると、4つか5つ分です。それを一気に体に流し込むわけですから、言わずもがな血糖値は上がります。
野菜の栄養素を摂るつもりで飲んでいたとしても、そのプラス面をすべて消し去り、マイナスに転じさせるほどの負のパワーを持った糖質を、過剰に摂取してしまうことになるのです。野菜ジュースを飲んで健康になる人よりも、不健康になる人のほうが多い――私はそう感じています。
健康意識の高い人には、自作のスムージーを毎日飲んでいるというケースもけっこう見られますが、こちらも野菜ジュースと同じこと。血糖値上昇に大きく影響します。果物に含まれる果糖の恐ろしさを侮ってはいけません。
運動した後に飲むスポーツドリンクも糖質が多すぎる
人間の体の約6割は水分で構成されています。水分は生きていくために必要不可欠です。脱水症状が続くと、死に至ります。だから、体内の水分が失われたら、すばやく補給をしなければなりません。
運動をすると、汗をかきます。当然、水分補給が必要になるわけですが、みなさんは何を飲まれていますか。スポーツドリンクの一択。そういう人もいるのではないでしょうか。とくに、学生時代に運動部に所属していた人は、その行為が体に染みついているでしょうし、なんの疑問を持ったこともないかもしれません。
水分補給にスポーツドリンクが推奨される理由は、含まれる糖分(糖質)が腸管での水分の吸収を促してくれるから。その理屈は間違っていませんが、問題なのはその糖質の量です。
市販のスポーツドリンクには、水分補給を助けるために必要な基準を、はるかに、大きく上回る大量の糖質が含まれています。
私からしてみたら、完全な砂糖水です。
飲み物で血糖値が急上昇する危険性をもっと知ってほしい
人間は脱水状態になると、血糖値が上昇します。体の水分が抜けきったときに糖質をたっぷり含んだ飲み物をグイグイと口に運んだらどうなるか。容易に想像できるでしょう。血糖値は急上昇し、体は悲鳴をあげることになります。水分補給はできても、健康は損なわれます。
運動のあとにスポーツドリンク。これはやめてください。水分補給を行う際は、体に悪影響を及ぼさない水や麦茶にしましょう。これは「熱中症対策のためにスポーツドリンク」にも同じことがいえます。
要注意かつきわめて危険なのは、サウナのあとです。最近サウナ好きのあいだで、サウナ後にスポーツドリンクとエナジードリンクを割ったものを飲むことが流行っているそうですが、それは言語道断の自殺行為。健康的に長生きしたいのなら、絶対に口にしてはいけません。
矢野 宏行(やの・ひろゆき)
糖尿病専門医
やのメディカルクリニック勝どき院長。医学博士。1981年生まれ。2006年に日本医科大学卒業後、同大学附属病院に勤務。その後、国立国際医療研究センター研究所の糖尿病研究センターで糖尿病について研究をする。2023年、やのメディカルクリニック勝どきを開院。「Dr.ゆきなり」としてYouTubeでも情報発信をしている。著書に『ミスター血糖値が教える 7日間でひとりでに血糖値が下がるすごい方法』(アスコム)、『自分でできる! 薬に頼らない糖尿病の大正解』(ライフサイエンス出版)がある。