新たな研究では、死者52人の肝臓と腎臓からマイクロプラスチックが検出されており、全臓器の中でもっとも高い濃度で含まれていたのは脳であることが明らかになった。
脳内に蓄積されたマイクロプラスチックの量は、2016年に行われた研究と比較して50%も増加しているという。
認知症で亡くなった人の脳には10倍の濃度
さらに研究者たちは、認知症で亡くなった12人の脳内に蓄積しているマイクロプラスチックの濃度が約10倍高いことを発見。だが、これが認知症の原因であるとは考えられていないよう。研究チームは「脳の萎縮や血液脳関門の機能低下、老廃物の排出不全は認知症の特徴であり、これらがマイクロプラスチック濃度の増加を引き起こすと予測されます。従って、今回の結果から因果関係は想定されません」と述べている。
米ニューメキシコ大学の研究チームを率いた毒性学者のマシュー・カンペン博士によると、私たちの体内にマイクロプラスチックが蓄積される速度は、地球上で増え続けるプラスチック廃棄物の量に反映しているという。「これが大きく見方を変え、より身近で個人的な問題として捉えざるを得なくなるでしょう」 とカンペン博士。
以前、彼のチームはヒトの胎盤や精巣にもマイクロプラスチックが含まれていることを発見している。
体内のマイクロプラスチックが健康に及ぼす影響とは?
研究者いわく、体内のマイクロプラスチックが健康に及ぼす実際の影響については、まだ解明できていないとのこと。カンペン博士は、その影響が単なる有害化学物質の副作用ではなく、プラスチックの物理的な構造に起因している可能性があると指摘している。
「もしかしたら、これらのプラスチックが毛細血管内の血流を妨げているのではないかと考えています」とカンペン博士。「このナノ物質が脳の軸索(神経の一部)間の結合を阻害する可能性もあれば、認知症に関わるタンパク質の凝集を引き起こすきっかけとなる可能性も考えられます。現時点では、まだわかっていません」
マイクロプラスチックを避けることは不可能?
マイクロプラスチックが地球や人体に与える影響については、以前から警鐘が鳴らされている。空気や食べもの、スキンケアを通じて私たちは知らず知らずのうちにこれらの粒子を取り込んでおり、マイクロプラスチックを完全に避けるのは不可能であるとされている。
しかし、カンペン博士は、今回の研究がより多くの人々に環境問題や健康リスクへの関心を高めるきっかけになるだろうと語る。
「マイクロプラスチックが環境問題として『1億分の1の単位』で語られても、多くの人はピンとこず、人々の意識は変わりにくい。でも、『あなたの脳にプラスチックが蓄積している』と言われて、全然気にしないという人に出会ったことは、まだ一度もありません」と付け加えている。
現時点では具体的な健康被害との因果関係は解明されていないが、マイクロプラスチック問題は環境だけでなく、私たちの健康に直接関わるという認識が必要。今後の研究に注目しながら、個人としてできること(プラスチックの使用削減など)を考えていくことが求められる。
※この記事はイギリス版ウィメンズヘルスの翻訳をもとに、日本版ウィメンズヘルスが編集して掲載しています。
Text: Chloe Gray Translation : Yukie Kawabat