世代も違う、好きなものもそれぞれ。だけどお互いの好きなものをリスペクトし、刺激を与え合う井上咲楽さんと甲斐みのりさん。ふたりをつなぐ“すきノート”とは?
お互いの“すき”を高め合うふたり。 井上咲楽×甲斐みのり
What's すきノート
甲斐さんが大学時代に始めた“すきノート”は、心がときめくものを書き出し、採集するというもの。昨年末には自分だけの“すきノート”を始めるヒントをまとめた『「すきノート」のつくりかた』(PHP研究所)を上梓。
年齢も職業も異なるけれど、柔らかな空気感が似ているおふたり。実は4年以上前にご近所仲間として知り合い、親しくしている間柄だそう。
「大人になると、年齢よりも同じ感覚で話せるかが仲良くなるポイントになってくると思うんです。咲楽ちゃんとは、お互い人付き合いなどでクヨクヨしがちなところがどこか似ている気が(笑)。一方で、お料理やランニングといった自分が好きなことに真摯な点をはじめ、学んだり尊敬できたりする部分もたくさん。親子ほど歳の差がありますが、普通の友達のようになんでも話せる存在です」(甲斐みのりさん)
「尊敬だなんて…。私は以前からみのりさんが書いた本を読ませてもらっていたので、好きなものがたくさんあって日々ときめきに囲まれているみのりさんに憧れていたんです。だからこそ、遠く感じていた部分も。というのも、当時の自分はハッキリ“すき”と言えるものがなくて。何かを語ると、自分の力量や感性を測られちゃう気がして怖かったんですよね。でもみのりさんは、私が関心を持っていることを話すとどんな話題も否定することなく受け止めてくれたんです。年齢が少し離れているから、自分が知らないことも素直に『教えてください』と言えた。どう思われるかを気にせず話せたので、お互いの“すき”を共有したり興味の幅を広げたりすることが自然にできた気がします」(井上咲楽さん)
今も共通の友達を含めて定期的に会っており、それぞれの好きなものに関する話題をシェアして楽しんでいるという。ふたりのように“すき”を通してつながる人が増える中、かつての井上さんと同様に自分の好きなものがわからない人や、自信が持てない人も多いよう。そういった人に甲斐さんが推奨しているのが、“すき”を書き出すこと。自身も大学時代から綴り始め、書き溜めたノートの数は20冊を超える。
「私もその話を聞いて始めたのですが、最初は“書くことあるかな…”と不安だったんですよね。でもみのりさんのお手本を見たら、『カーテン』とか『よりみち』とか、ざっくりしたものから細かいものまで書いてあって、こういうことでいいんだと感じて。“そういえば私、柔らかいティッシュが好きだな”とか、書きたいものがどんどん浮かんできたんです。今の世の中って“すき”に対するハードルが高くなっている気がしますが、書き出してみると実は身近なところにたくさんあるんですよね。自分の中にも想像以上に好きなものがあったことに気づけて、ちょっと安心しました」(井上さん)
思いつくままに書き出すことで、“すき”の世界がより自由で伸びやかに広がっていく――。甲斐さん本人もその効果を実感していると語る。
「ある程度書くと、ノートを埋めるために意識的に“すき”を探し始めるようになるんです。すると目に映る景色が変わって、看板だとかすれ違ったおばあさんの服装だとか、いろんなものに心がときめくはず。落ち込むような出来事があっても好きなもの探しを始めると気持ちが切り替えられるし、“すき”を見つけるために世の中を加点式で捉えるクセがつく。そのおかげで、特別にドラマティックなことをしなくても、近所を歩くだけで楽しめちゃう。それって、人生においてすごくお得なことだと思います」(甲斐さん)
こうして、自分の中の“すき”の世界を軽やかに紡いできたおふたり。
「“私はこういうものが好きなんだ”という軸ができると、人から否定されても揺らがなくなる。心のお守りのようなものかもしれないですね」と井上さんが語るように、本来“すき”という気持ちはとてもパーソナルなもの。自分だけで楽しむこともできる中、誰かと“すき”を共有してつながることの魅力とは?
「人の“すき”を聞くと、『こういうものもあったんだ』という新しい発見や気づきがあるんです。自然とそこに目を向けるようになるから、同じ場所でもまた見え方が変わる。出かけた旅先で“咲楽ちゃんが好きって言っていたアレを探してみよう”と思ったり。“すき”が膨らむことで、楽しみも倍になるんですよね。逆に、“すき”を人に伝えておくことで『みのりさんの好きそうな包装紙があったよ』と福が舞い込んでくるパターンも(笑)」(甲斐さん)
「誰かの好きなものを覗かせてもらうのって、すごく面白いんですよ。自分になかったフィルターを通して世界を見ることができるから、私にとって貴重な経験。なので、好きなものは必ずしも重ならなくてもいいと思うんです。趣味が違う=気が合わないわけではないし、むしろその違いが面白くもある。考え方にも言えますが、自分の中でモヤモヤした出来事も人に話すと視点が変わって面白い話に転じたりしますよね。そうやって違いを恐れずにいろんな“すき”とつながることで、新しい視点が増えて毎日がより楽しくなっていく気がします」(井上さん)
レトロ感にときめく甲斐さんの好きなもの
(右)お菓子などの包装紙を収集している甲斐さん。「トイレットペーパーを包んだ紙も集めていると聞いた時は衝撃でした!」(井上さん)
(左)甲斐さんの著書がきっかけでブームとなった地元パン(R)。「地方に行く時に、おすすめのパンを教えていただくことも」(井上さん)
行動&実践派な井上さんの好きなもの
(右)井上さんの趣味のひとつがマラソンやランニング。「自分は縁がないけれど、軽快に山を走る咲楽ちゃんの姿に憧れます」(甲斐さん)
(左)料理の腕前が評判の井上さんは、昨年レシピ本も出版。「咲楽ちゃんに影響されて、私も今まで以上に料理をするように」(甲斐さん)
PROFILE
井上咲楽さん
いのうえ・さくら 1999年10月2日生まれ、栃木県出身。タレント、俳優。2015年にデビューし、『新婚さんいらっしゃい!』をはじめ数々のバラエティ番組で活躍。昨年発売したエッセイ本『じんせい手帖』(徳間書店)も話題に。
甲斐みのりさん
かい・みのり 静岡県生まれ。文筆家。2005年に初の著書となる『京都おでかけ帖‐12ヶ月の憧れ案内‐』(祥伝社)を刊行。以降、手みやげ、クラシックホテル、雑貨、暮らしなどを題材に、書籍やウェブ、雑誌などに執筆。
写真・伊藤香織 ヘア&メイク・栗原里美(ThreePEACE) 取材、文・真島絵麻里
anan 2436号(2025年2月26日発売)より