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鳥山明の遺作とも言える『ドラゴンボールDAIMA』最終回を迎えて見えた“原点回帰”— 最後まで貫かれたものとは

  • 2025.3.7

2月28日。アニメ『ドラゴンボールDAIMA』(以下『DAIMA』)が最終回を迎えた。

本作は鳥山明が1984年から1995年にかけて週刊少年ジャンプで連載していた人気漫画『ドラゴンボール』の続編となるアニメ。
主人公の孫悟空が魔人ブウを倒したことで、地上には平和が訪れていた。だが、大魔界の新たな王として即位したキング・ゴマーは悟空たちの力を恐れ、7つ集めると神龍が現れてどんな願いでも叶えるというドラゴンボールの力を使って、悟空たちを子どもの姿に変えてしまう。

元の姿に戻るため、悟空たちは3つの階層に分かれている大魔界へと向かい、魔界のドラゴンボールを集めながら、ゴマーのいる第1魔界を目指す。

新たなアニメ化によって、現代に蘇った『ドラゴンボール』

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(C)バード・スタジオ/集英社・東映アニメーション

『ドラゴンボール』は孫悟空が天才少女のブルマとドラゴンボールを集めるために冒険するコメディテイストのファンタジー漫画として始まった。やがて連載が進むと、悟空の前にはピッコロ大魔王やベジータといったライバルが次々と現れ、より強い敵と戦っていくバトル漫画へと変わり大ヒット漫画となった。

連載終了後も本作の人気は高く、ゲームやアニメが定期的に制作されていた。2013年の劇場版『ドラゴンボールZ 神と神』(以下、『神と神』)以降のアニメ作品では、鳥山明が積極的に関わって脚本やキャラクターデザインを担当しており、エンタメコンテンツとしての『ドラゴンボール』は、新たな盛り上がりを見せている。

また、鳥山の漫画『SAND LAND』が、2023年に劇場アニメ化されたことで、作家としての鳥山を再評価する流れも生まれており、アニメに積極的に関わることで鳥山は新たな全盛期を迎えていた。

残念ながら昨年の3月1日に鳥山は68歳で急逝し、国内外にいる大勢のファンが悲しんだ。だが、今回の『DAIMA』は鳥山の生前から企画が進んでおり、放送前に全話の制作は完了していた。そのため本作は鳥山の遺作とも言える作品だったが、全話観終えた感想を素直に言うと、近年の鳥山らしい楽しい作品に仕上がっていたと感じる。

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(C)バード・スタジオ/集英社・東映アニメーション

『神と神』以降の『ドラゴンボール』の大きな特徴は、漫画連載の後半、アニメで言うと『ドラゴンボールZ』のあたりから強まっていたハードなバトル要素が弱まり、前作の『Dr.スランプ』や初期の『ドラゴンボール』に存在したユーモラスなコメディ要素が再び強まっていたことだ。また、漫画で最大の悪役だったフリーザが復活し、時に悟空と共闘するといった展開も描かれ、穏やかなトーンへと作品は変わっていった。

『ドラゴンボール』は80年代後半から90年代後半の少年ジャンプを代表する人気漫画だが、それだけに功罪も大きかった。 当時のジャンプ漫画が批判された一番の理由だったトーナメントバトルが延々と続き、強い敵を倒したと思ったら更に強い敵が現れて戦うことになる戦いのインフレや、死んだ人間がすぐに蘇るといったジャンプ漫画の必勝メソッドは『ドラゴンボール』が定着させたと言っても過言ではない。
その結果、物語は単調化し、バトル漫画がジャンプ漫画を独占するようになった。しかも戦いによって起きた登場人物の死は簡単になかったことにされるというご都合主義と殺伐とした暴力描写のオンパレードとなり、誌面は荒れていった。

何よりも、その殺伐とした状況に疲弊していたのは鳥山明だったのかもしれない。

最終章となる魔人ブウ編はそれまでのハードなバトル路線を作者自身が壊すかのように、コミカルな展開が続き、激しい戦いによって世界が崩壊する様子を描きながらも、子どもが遊んでいるような牧歌的なやりとりが節々に見られ、作者が『Dr.スランプ』や初期『ドラゴンボール』の世界に作品を戻そうと必死でもがいているようにも見えた。

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(C)バード・スタジオ/集英社・東映アニメーション

実際、鳥山は『ドラゴンボール』の終了後は、『COWA!』、『カジカ』、『SAND LAND』といった『Dr.スランプ』時代に回帰したようなコメディテイストの楽しい作品を発表するようになる。

どれも短い作品だが、デジタル作画で描かれた絵本のような温かいタッチの漫画で完成度はとても高かった。しかし、残念ながらバトル漫画が主流のジャンプの中では浮いた存在で、鳥山自身も次第に漫画を描かなくなっていった。 人気ゲーム『ドラゴンクエスト』シリーズのキャラクターデザインの仕事などは続けていたものの、物語作家としての鳥山明は『ドラゴンボール』以降、セミリタイア状態にあり、このまま過去の人になってしまうのではないかと思われていた。 だからこそ『神と神』以降、アニメを主戦場にすることで鳥山が復活したことは、昔からのファンとして嬉しかった。

復活した『ドラゴンボール』は、漫画終盤の殺伐とした展開に対する反省からか、明るく楽しい絵本のような世界に原点回帰させようとしているように感じる。 その流れは『DAIMA』にも健在で、何より悟空たちが子どもになって等身が低い可愛い姿になってしまうところに、それは現れている。

鳥山明が大事にしたくだらないギャグ

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(C)バード・スタジオ/集英社・東映アニメーション

舞台となる大魔界も設定こそおどろおどろしいが、登場する敵はくだらないギャグを言うコミカルなキャラクターばかり。終盤こそ、大人の姿に戻った悟空がサイヤ人に変身して戦う姿をかっこよく描いているが、シリアスな状況を演出して物語を盛り上げる展開は意識的に避けている。
何より大きな変化を感じるのは、かつてライバル関係にあったベジータやピッコロと悟空の牧歌的なやりとり。中でもベジータは完全にコメディリリーフとなっており、初期の『ドラゴンボール』にあった楽しい冒険譚の雰囲気が復活している。

こういったコメディ路線には賛否があり、シリアスでハードなバトルを求めるファンから批判されることも多い。その気持ちもわからないでもないが、あれだけ疲弊していた鳥山明がアニメに関わることで復活し、コメディ路線に回帰することで『ドラゴンボール』を蘇らせてくれたことが何より嬉しい。

『DAIMA』を観ている時間は、子どもに戻ったような幸せな気持ちになれた。おそらく鳥山明が楽しんで作っていることが節々から伝わってくるから、そう感じたのだろう。 今後も『ドラゴンボール』の新作や鳥山明作品のアニメ化は続いてほしいが『DAIMA』のようにくだらないギャグだけは必ず入れてほしい。

それこそが鳥山明の本質だから。

ドラゴンボールDAIMA
ABEMAにて放送後1週間、最新話を無料で視聴できる。
[番組URL]https://abema.tv/video/title/5-69
【(C)バード・スタジオ/集英社・東映アニメーション】


ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。