『きみの瞳が問いかけている』(20)、『今夜、世界からこの恋が消えても』(22)などを手掛けてきた恋愛映画の名手、三木孝浩監督の最新作『知らないカノジョ』(2月28日公開)。大学時代に出会い、お互い一目惚れして結婚した神林リクと前園ミナミ。8年後、歌手の夢を諦めたミナミのサポートを受け、ベストセラー作家となったリクだったが、ある朝目を覚ますと、人気作家だったはずの自分は文芸誌のいち編集部員に、そして妻だったはずのミナミは、リクと出会ったことすらない“トップアーティスト・前園ミナミ”になっていた。
【写真を見る】三木監督お墨つきのキュートさ!miletの魅力が満載な撮りおろし
主人公の神林リクを、俳優としての幅を広げ続ける中島健人、ヒロインの前園ミナミを、本作で映画初出演を果たしたシンガーソングライターのmiletが演じる。MOVIE WALKER PRESSでは、難役に挑戦することになったmilet、そして本作の企画段階からmiletへのオファーを考えていたという三木監督のツーショットインタビューを実施。miletの映画に真摯に向き合う姿勢や、三木監督が目撃した“表現者”である中島とmiletが見せたケミストリーまで語ってもらった。
「“三木ワールド”に連れて行ってもらいたいなと思って、挑戦することに決めました」(milet)
――miletさんは今作が映画初出演となりますが、最初に出演のオファーを受けた際のお気持ちを教えてください。
milet「最初は主題歌のお話かなと思っていたんですが、まさかの出演のほうで、『しかもヒロイン役!?』ってビックリしました。自分に演技ができるのかまったく想像もつかなかったので、最初は不安のほうが大きかったですが、三木監督の作品というという事がわかり、『大船に乗ってみよう!』と思いお引き受けしました」
三木「えっそんな…!ありがとうございます」
――三木監督だから出演を決められたんですね。
milet「そうなんです。以前、三木監督には『Always You』という楽曲のミュージックビデオを監督していただいたんです。その時に初めてお会いしたんですけど、もうあの世界観を作っていただけるならぜひ出演したいと思いましたし、“三木ワールド”に連れて行ってもらいたいなと思って、挑戦することに決めました」
三木「この企画がスタートした時、実はまだミュージックビデオを撮る前だったんですよ。僕は当時から、ミナミ役はシンガーソングライターの方に演じてもらいたいなと思っていて、『miletさんはどうですかね?』って名前を挙げていたんです。その後に『Always You』のミュージックビデオを撮らせていただいたり、ライブにもお伺いしました。実際にお会いするまでmiletさんは “ミステリアスな歌姫”のような、ちょっとクールビューティー系の印象があったんですけど、お会いしてみたらすごくキュートだったんです。ライブのMCでも、めっちゃ明るいんですよ!このキュートさがお芝居としてキャラクターに乗っかったら本当に素敵だし、ミナミ役に合うなと思いました」
――ミナミは本当に魅力的で、すごく可愛い女性ですよね。
milet「ありがとうございます!“三木マジック”のおかげです(笑)」
三木「いやいや、それはもう本人の魅力ですから。そして、miletさんはすごく勉強家なんです。初めての演技だし不安だろうなと思ったので、『撮影は1年後なのでその間にレッスンしましょう』と、基礎的な演技レッスンを受けていただくことになったんです。でもmiletさんは『まず勉強からやらせてください』って基礎の前の座学から始められたんですよ」
milet「理論から入ると、私の特性的に頭に入りやすいんです。なので、体を動かす前にまず演技の理論を学んでおけたのはよかったですね」
三木「すごい。理論から入る人は、なかなかいないから!」
――演技の座学はどんなことを学ぶのでしょうか?
三木「 “どういう芝居がいい芝居なのか”のような、お芝居の種類を学んだりしたんだよね?」
milet「はい。あとは、感情が生まれる流れなど心理的なところや、こういう行動をすると人は反応する…みたいなことを教えてもらいました」
――演技理論を学んだうえで、実際にミナミを演じられてみていかがでしたか?
milet「やっぱり座学や、いろんなレッスンを受けて学んだことが活きたなと思います。もしなにも学ばずに演技に挑戦していたら、本当に怖かったなって思いますね。あとは、撮影に入る前に脚本を読んで役について深めてはいったんですけど、実際に現場で中島(健人)さんが演じられるリクに出会い、監督のお言葉があって、そこで初めてミナミのキャラクターがようやく見えてきた感じでした。監督が『可愛いヒロインが大事』とおっしゃっていて、その言葉がすごく心に残っていたので、ミナミは可愛いと思われるように演じないといけないんだと思っていました。なので撮影中も、監督の『いいね、いまの可愛い!』という言葉が、結構ヒントになっていました」
三木「現場で『可愛いね〜いまの!』って、めっちゃ言ってました(笑)」
「いままで見たことのない中島健人を撮りたいなと思っていたんです」(三木)
――ミナミのライブシーンは、miletさんのデビュー5周年を記念した初のアリーナ公演「milet 5th anniversary live "GREEN LIGHTS"」の横浜アリーナ公演を、実際に撮影されたとお伺いしました。
三木「そうなんです!もうほんとに、無理を言って。しかもそのシーンでクランクインでした」
milet「そうでしたね」
三木「やっぱりあのリアリティは、すごかったですね。あれは絶対に出せない空気感だったなと思います」
milet「声援がすごかったですもんね!」
三木「miletさんのファンの皆さんがすごく優しいし勘がよくて、『ミナミ〜!』ってすぐ役名を覚えて叫んでくれたんですよ」
milet「本当にありがたかったです」
――リクを演じた中島健人さんとの共演はいかがでしたか?
milet「セリフ合わせの時はまだ、中島さんとリクが半々くらいかなと思っていたんですけど、クランクインして実際に一緒にお芝居をしたら、もうリクにしか見えなくなりました。私、リクのお茶目なところが好きなんです!すごく不器用なところがある男の子なんですが、中島さんは“すべて完璧”みたいなイメージがあったので」
三木「パーフェクトアイドルだもんね!」
milet「そうなんです。でも撮影を重ねるうちに、本当にリクくんにしか見えなくなっていきました。中島さんらしいキラキラしたものが封印されて、リクのまっすぐで真面目で不器用なところや、ある意味“普通のオーラ”みたいなものが出ていたのが、すごいなと思いました」
――中島さんと話し合って一緒に作っていったシーンはありますか?
milet「結構、細々とお話ししましたね。でもなにかを話し合って決めるというよりは、リハーサルの段階から、何回かお互いにセリフを言い合ってキャッチボールをして、そのリズムをどんどん掴んでいくという感じでした。言葉で話し合うのではなく、お互いの波に乗っていくような、演技のリズム感を合わせていけたらいいなと思っていました」
三木「2人ともアーティスト活動をしているから、ライブリハをしている感覚で、ちょうどお互いの心地よいリズムを探り合うみたいな感じ?」
milet「そうですね。リクとミナミが長台詞を言い合うレストランのシーンは、声を重ねるごとに2人のリズムが出来上がっていったんです」
三木「そうそう!あそこ、すごかった!」
――そんな中島さんは、昔から三木監督の大・大・大ファンなんですよね。
三木「いやもう、その熱量はすごくうれしかったですね(笑)。でも僕も、健人くんといつかご一緒したいとずっと思っていたので、やっと念願叶って出演していただけました。せっかく僕が撮れるなら、いままで見たことのない中島健人を撮りたいなと思っていたんです。健人くんの特性として、どんどん役を作り上げていって完璧にしていくというスタイルで、いままでやってきたと思うんですよ。でもそうじゃなくて、作り込む前のフラットな状態のままで現場に立って、その時に感じるものを役に入れ込んでもらえたらいいなと思いました。それこそ、『今回はセッション感覚で作ってみよう』って健人くんと話をしたんです。本人は“素っ裸の中島健人”って言ってましたけど(笑)、そうやって作り上げていくことで、本来持っている彼の愛らしいキャラクターみたいなものがどんどん出てきた感じがありましたね。『あ、健人くんって実は泣き虫なんだ』とか(笑)。台本に書いてないのに感極まってブワーッて泣いたりね」
milet「泣いてましたね!本当にピュアな涙でしたよね」
三木「それがすごく素敵で、男性の僕が見てもキュンとしちゃいました。さっきmiletさんが話していたレストランのシーンなんてもう、大号泣だったもんね」
milet「パッて顔を上げたら中島さんがもうめちゃくちゃ泣いてるから、『えぇー!?』って(笑)。『どうしたの?そんなに泣けた!?』って、本当にミナミのセリフのまんま同じこと言いましたもん(笑)」
「ミナミが歌う曲として作らないといけないなと思ったので、miletが歌わないような言葉も入れています」(milet)
――作品を観ていても、本当にリクとミナミの作る空気感が自然ですごく素敵でした。監督から見て中島さんとmiletさんの演技の相性はいかがでしたか?
三木「2人とも、表現者として高みを目指したいという意識があるので、すごくシンクロしている感じがしました。オフの時間に話している内容を聞いていても、『なんか2人ともハイレベルな話してるな』って思いました」
――ちなみにどんなお話をされていたんですか?
milet「えー!どんな話してたんだろう(笑)?でもやっぱり、いろいろな面で中島さんに引っ張っていってもらいました。演技面でもそうだし、私は“現場”というものが初めてだったので、どんな立ち振舞いをすればいいのかも全然わかりませんでした。基本私はソロで活動しているし、楽曲制作もひとりで行っているので、こんなに誰かとタッグを組んでやっていくことが初めてだったんですが、すごく居心地が良よかったんです。中島さんとは本当に、お互いがステップアップするために鼓舞し合える仲間だったなと思っています」
――今作の主題歌「I still」はどのような想いをこめて制作されましたか?
milet「実は、主題歌は候補曲があと2曲ぐらいあったんですけど、監督に『I still』のデモを聴いていただいたら…」
三木「『絶対これ!もう、絶対にこれ!』って(笑)。もう最初の歌い出しからグッと掴まれたんですよ!」
milet「そう言っていただけたのがすっごくうれしかったです。『監督が言ってくださっているんだからこの世界観でいいんだ!』って、自信を持って作れました。この曲はmiletとしてではなく、ミナミが歌う曲として作らないといけないなと思ったので、普段のmiletが歌わないような言葉も入れています。ミナミが感じていることを私もちゃんと感じたいなと思って、もう穴が空くほど脚本を読みこんで作ったので、ミナミと一緒に作ったような気持ちです。もちろん私の想いを込めつつも、“何度さよならをしたって、何度世界が変わったって、大切な人と巡り合えますように”というミナミの願いが込められた楽曲になりました」
三木「もうね、『この曲をライブシーンで聴けるの!?』って、スタッフたちのテンションも上がったんですよ!健人くんなんてステージにミナミが出てきた瞬間から泣いてたからね?曲を聴く前なのに(笑)」
milet「泣き虫リクくんでしたね(笑)」
三木「劇中歌の『Nobody Knows』もすっごくいい曲なんです。本当は、2人が出会わなかった“もしもの世界”で、歌手として売れているミナミの姿をリクが見るシーンだけで使う予定だったんです。でもこれがまたいい曲なので、『この曲、点描シーン(セリフを入れずに音楽とシーンだけで月日の変化などを描くパート)にも合うな』と思って、元々の世界と“もしもの世界”の両方で使わせてもらいました」
milet「めっちゃいいシーンになりましたよね!」
三木「どちらも名曲で、本当にすばらしかったです」
取材・文/紺野真利子