2025年、日本の美術シーンは多彩な展覧会で幕を開けた。蜷川実花による京都発の没入型インスタレーション、ストリートからアートを発信し続けたキース・へリング、そして猫と共に生きた藤田嗣治。時代も表現手法も異なる3人のアーティストによる個展が、それぞれ新たな視点とアプローチで観る者を魅了する。2025年に訪れるべき注目の展覧会を、第一弾としてピックアップした。
ART|2025年に訪れるべき注目の展覧会
2025年、日本の美術シーンは多彩な展覧会で幕を開けた。蜷川実花による京都発の没入型インスタレーション、ストリートからアートを発信し続けたキース・へリング、そして猫と共に生きた藤田嗣治。時代も表現手法も異なる3人のアーティストによる個展が、それぞれ新たな視点とアプローチで観る者を魅了する。2025年に訪れるべき注目の展覧会を、第一弾としてピックアップした。
Text by YANAKA Tomomi
蜷川実花 with EiM──光と影が織りなす京都発の新表現
2025年、日本各地の美術館で個性際立つ3つの展覧会が開催される。デジタルテクノロジーを駆使した空間演出から、ストリートカルチャーの革新性、そして親密な日常を捉えた絵画表現まで、それぞれが新たな視点で作品の魅力を引き出す展示となっている。
《 Flowers of the Beyond 》イメージ
©mika ninagawa, Courtesy of Tomio Koyama Gallery
まず注目したいのは、京都市京セラ美術館で開催中の「蜷川実花展 with EiM:彼岸の光、此岸の影」(3月30日まで)。京都国際観光大使も務めた蜷川実花とクリエイティブチーム・EiMが、千年の都からインスピレーションを得た意欲作だ。
《 Whispers of Light, Dreams of Color》イメージ
©mika ninagawa, Courtesy of Tomio Koyama Gallery
蜷川実花にとって、関西で過去最大規模となる本展。データサイエンティストの宮田裕章、プロダクションデザイナーのENZO、クリエイティブディレクターの桑名功、照明監督の上野甲子朗など、各分野のスペシャリストにより結成されたクリエイティブチームEiMと新たな表現に挑戦している。
《 Whispers of Light, Dreams of Color》イメージ
©mika ninagawa, Courtesy of Tomio Koyama Gallery
展示では日常の中にある光と色のコンビネーションを表現した"光彩色"、影と色で表した"影彩色"という対比的な要素を用い、作家と鑑賞者、自己と他者など、相反するものの境界が揺らぐ空間を創出。
《 Silence Between Glimmers 》イメージ
©mika ninagawa, Courtesy of Tomio Koyama Gallery
約1600本のクリスタルガーランドで命のきらめきを表現した作品や、窓の外の京都の街並みまでも作品に取り込んだインスタレーションなど、CGを一切使用せず、現実世界の写真や映像のみで構成された全10点が、鑑賞者を異世界へと誘う。
キース・ヘリングが残した普遍的なメッセージ
キース・ヘリングが残した普遍的なメッセージ
続いて茨城県近代美術館では「キース・へリング展 アートをストリートへ」(4月6日まで)が開催されている。
《無題》 1983年 中村キース・ヘリング美術館蔵 Keith Haring Artwork ©Keith Haring Foundation
『スウィート・サタデー・ナイト』のための舞台セット 1985年 中村キース・ヘリング美術館蔵 Keith Haring Artwork ©Keith Haring Foundation
《アンディ・マウス》 1986年 中村キース・ヘリング美術館蔵 Keith Haring Artwork ©Keith Haring Foundation
1980年代のニューヨークを舞台に、「アートはみんなのために」という信念のもと、地下鉄駅構内やストリートで表現活動を展開したへリング。アンディ・ウォーホルやジャン=ミシェル・バスキアらとともにカルチャーシーンをけん引し、シンプルな線による独特の表現スタイルは、日本を含む世界中で熱狂的に受け入れられた。
《無題(サブウェイ・ドローイング)》 1981-83年 中村キース・ヘリング美術館蔵 Keith Haring Artwork ©Keith Haring Foundation
《沈黙は死》 1989年 中村キース・ヘリング美術館蔵 Keith Haring Artwork ©Keith Haring Foundation
楽しさで頭をいっぱいにしよう!本を読もう! 1988年 中村キース・ヘリング美術館蔵 Keith Haring Artwork ©Keith Haring Foundation
本展では、日本初公開となる貴重なドローイングを含む約150点を展示。幅6メートルに及ぶ「スウィート・サタデー・ナイト」のための舞台セットなど大作に加え、当時のアメリカや世界の世相を反映したメッセージ性の強いポスター作品も並び、エイズの合併症により31歳で早世したアーティストが遺した普遍的なメッセージを、現代の視点から読み解く機会となる。
藤田嗣治と猫たち
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『猫十態』(1929年 エッチング、アクアチント他(マカール法)・紙)Photograph by Takahiro Maruo ©軽井沢安東美術館
藤田嗣治と猫たち
そして3月6日からは、軽井沢安東美術館で「藤田嗣治 猫のいる風景ーかたわらの動物たちー」展が始まる。2022年に開館した同館は、20世紀前半のエコール・ド・パリから1960年代にかけて活躍した藤田嗣治の作品のみを展示する世界初の美術館だ。本展は画家のアイコン的モチーフである「猫」に焦点を当てる。
(左)《結婚式》(1950年 油彩・キャンバス)、(中央)《天蓋の裸婦》(1954年 油彩・キャンバス)、(右)《猫を抱く若い女性》(1956年 油彩・キャンバス)©軽井沢安東美術館
パリで拾った一匹の猫をきっかけに、藤田は裸婦像や自画像に猫を描き込むようになり、やがて1929年の版画集『猫十態』、1930年の版画本『猫の本』など、猫を主役とした作品も手がけるように。
(左)《ペキニーズ》(1925年 水彩、墨・紙)、(中央)《猫のいる自画像》(1926年 コロタイプ・紙)、(右)《夢》(1957年 リトグラフ(エリオグラヴュール、アクアチント併用)・紙)©軽井沢安東美術館
会場では人気作《猫の教室》(1949年・油彩)や『猫十態』シリーズ全10点、《天蓋の裸婦》(1954年・油彩)の初公開など、さまざまな表情やしぐさを見せる猫たちの魅力を紹介。さらに《夢》(1957年・リトグラフ)や《猫を抱く若い女性》(1956年・油彩)、人気絶頂期の《ペキニーズ》(1925年・水彩)まで、藤田芸術における動物表現の豊かさを多角的に紹介する意欲的な展示となっている。
いずれの展覧会も、作家たちの代表的モチーフや表現手法を、現代的な文脈や新たな切り口で再解釈する試みといえるだろう。それぞれの会場で、アーティストたちの創造の源泉に触れてみてはいかがだろうか。
蜷川実花展 with EiM:彼岸の光、此岸の影
会期|2025年1月11日(土)〜2025年3月30日(日)
休館日|月曜 ※祝休日の場合は開館
時間|10:00~18:00 ※最終入場は17:30
会場|京都市京セラ美術館 新館東山キューブ
住所|京都府京都市左京区岡崎円勝寺町124
チケット|一般2300円、大学・専門学校生1600円、高校生1100円、小中学生800円 ※いずれも前売り券は200円引き
京都市京セラ美術館
Tel.075-771-4334
https://ninagawa-eim2025kyoto.jp/
「キース・へリング展 アートをストリートへ」
会期|2025年2月1日(土)~年4月6日(日)
会場|茨城県近代美術館
住所|茨城県水戸市千波町東久保666-1
時間|9:30~17:00(最終入場時間16:30)
休館日|月曜 ※2月24日(月)は開館し翌日休館
入場料|一般1360円、満70歳以上680円、高校生1130円、小中生550円
茨城県近代美術館
Tel.029-243-5111
https://www.modernart.museum.ibk.ed.jp/
「藤田嗣治 猫のいる風景」
会期|2025年3月6日(木)〜2025年9月28日(日)
※7月17日からは一部展示替えにより、終戦80周年記念展「藤田嗣治 戦争の時代」(仮)が開かれる予定。
会場|軽井沢安東美術館
住所|長野県北佐久郡軽井沢町軽井沢東43番地10
時間|10:00〜17:00(入館は~16:30)
休館日|水曜(祝日の場合は翌平日)ただし7月23日、30日の水曜日、8月中の水曜日は開館
観覧料|一般2300円、高校生以下1100円 ※オンラインチケットの場合100円引き
軽井沢安東美術館
Tel.0267-42-1230
https://www.musee-ando.com