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専業主婦世帯よりリスクが大きい…世帯年収1300万円のパワーカップルが夫の不倫で陥った泥沼離婚劇

  • 2025.2.25

ダブルインカムを生かして高額のペアローンを組み、高級物件を手に入れたパワーカップルが離婚する場合、どんな問題が起きるのか。離婚・男女問題に詳しい弁護士の堀井亜生さんは「ペアローンには思わぬ落とし穴がある。ペアローンがあると、離婚が難しくなることが多い」という――。

※本原稿で挙げる事例は、実際にあった事例を守秘義務とプライバシーに配慮して修正したものです。また、ローン等の金額も、実際の事例からは変更しています。

※写真はイメージです
「夫の不倫が許せないので離婚したい」

会社員のA子さん(33歳)が、離婚したいということで法律相談にいらっしゃいました。

理由は会社員の夫(34歳)の不倫です。

A子さんは夫の不倫にとても怒っていて、家では毎日けんかが絶えない状態だということでした。夫は謝ってはいますが、許せないので、離婚して財産分与と慰謝料をもらいたい。そして相手の女性も訴えて、こちらからも慰謝料をもらい、謝罪もさせたいという希望でした。

探偵に依頼して撮影した夫と女性がホテルに入っていく写真など、不倫の証拠はきちんと揃っています。

マンションのローンが壁に

次に財産分与のシミュレーションをするために、夫婦の収入と財産がわかる資料を持参してもらいました。

すると、A子さん夫妻の資産状況について、以下のようなことがわかりました。

夫の年収は800万円、A子さんの年収は500万円。

主な財産は持ち家のマンションと銀行預金と自動車。

問題はマンションでした。2年前に約9000万円のマンションを35年ローンで購入しているのですが、夫婦でペアローンを組んでいました。

ペアローンとは、夫婦の両方が主債務者となって契約をするローンです。さらにお互いに連帯保証人になるため、夫婦の両方に返済の義務があり、片方の返済が滞った場合、もう一人にただちに支払いの請求が行きます。

夫婦が200万円ずつ、計400万円の頭金を入れていて、月々の返済額は夫が月約14万円、妻が約8万円です。

マンションの持ち分は、返済額に応じて、夫が13分の8、A子さんが13分の5になっています。

A子さん夫妻のペアローンの概要を把握した私は、「この状況では、離婚は難しいかもしれません」とA子さんにお伝えしました。

ペアローンのせいで身動きがとれない

A子さんは、「離婚したら私はペアローンから抜けられるんじゃないですか?」とおっしゃいました。しかし、ペアローンは夫婦それぞれと銀行の間の契約で、離婚によって一人が抜けることはできません。

次にA子さんは、「それなら、不倫したのは夫なんだから、ローンを全額払ってほしいです」とおっしゃいました。これも、夫がその条件を受け入れれば別ですが、離婚する際にそこまでの金額を負担する人は稀です。

また、もしペアローンの契約はそのままに夫が全額を支払い続けたとしても、夫が将来返済を滞らせた場合は、A子さんに請求が来ます。

方法があるとすれば、夫の単独ローンに借り換えてもらうというものですが、夫婦の年収を合わせて組んだローンのため、夫一人の収入では審査が下りない可能性が非常に高いです。

「じゃあマンションを売りたいです」ということでしたが、マンションは夫婦の共同名義のため、売却には夫の同意が必要です。夫に出て行ってもらうことも非常に苦労が伴います。また、マンションの査定を取りましたが、残ローン以上の価値が見込めませんでした。

A子さんは、まずは別居して離婚協議を始めたいということでしたが、引き続き月8万円のローンを支払わなければならないので、さらに家賃を払って賃貸に住むのは金銭的に難しくなります。

このように、いろいろな方法を考えても、A子さんはペアローンの存在によって身動きが取れなくなってしまっていることがわかりました。

慰謝料をもらっても“焼け石に水”

ローンの負債も財産分与に含まれるため、現在の夫婦の預金を分けても、財産分与はマイナスになります。

こうなると、夫と不倫相手に慰謝料を請求して財産分与をもらって……という当初の希望は完全に崩れてしまいました。慰謝料をもらっても、A子さんが背負っているこの先33年のローンに比べれば、焼け石に水です。

A子さんは、それでもやはり夫を許せないから離婚したいということなので、まずはペアローンの解消を最優先にして離婚交渉を始めることにしました。

とはいえ、夫婦では冷静に話し合いができないので、A子さんはマンションを出ました。

幸い、A子さんは実家が遠くなかったので、実家に引っ越したのです。ローンの支払いは続けましたが、家賃を払うよりは負担が少なく済みました。

夫とペアローン解消を交渉

夫に連絡を取り、不貞を理由に離婚したい、ついては借り換えや売却などの方法でペアローンを解消したいと申し入れました。

夫は当初、「夫婦で返済していく約束で組んだローンだから」と、ペアローンの存在を盾に離婚そのものを拒否しました。

粘り強く交渉を続けても、夫は感情的に離婚を拒み続けましたが、やがて夫は弁護士を依頼しました。夫にもペアローンのリスクがあるのは同じなので、弁護士にそのことを説明されたのか、それ以降、夫は離婚に応じると言うようになりました。

夫は単独のローンに借り換えることができるかを何度か銀行に相談しましたが、やはり借り換えは難しいということなので、マンションを売却することになりました。

マンションを売りに出して、買い手がついたため、夫はマンションから引っ越して売却手続きを行いました。

ローンを返済して諸経費を払うと売却益はなく、むしろ負債が残りましたが、夫側はその負債を肩代わりすることで、慰謝料に代えてほしいと申し出てきました。

負債が残ったため、財産分与はなしということになりましたが、A子さんはこの先33年のローンから逃れた上に、離婚することができました。

「単独ローンよりも高い物件が買える」

ペアローンを組んだ夫婦が離婚しようとすると、このような壁にぶつかります。

ペアローンを組む理由は人それぞれで、私が依頼者の方に聞くと、仲介業者から「一人の収入では手が出ない高額物件が手に入る。住宅ローン控除を夫婦の両方が受けられる」とセールスを受けたからといった答えが返ってきます。

中には、ペアローンを組むことを、結婚することや、結婚しても妻が仕事を続けることの条件として夫から提案されたという人もいました。

A子さんも、夫から「単独ローンにするよりもペアローンの方が高い物件を買える。将来大きく値上がりが見込めるから、値上がりしたら売ろう」と言われたそうです。

※写真はイメージです
専業主婦よりも大きなリスクになる

このようなペアローンが絡んだ離婚案件は年々増えてきています。女性の社会進出に伴い、女性の収入が増えてきたことによって、ペアローンを組む夫婦が増えているのでしょう。

ただ、弁護士の立場から見ていると、ペアローンを組む夫婦は、そもそも家計が危ういことが多いです。

「高額な物件を買える」という目先のことしか考えず、夫婦双方で数十年のローンを抱えるリスクを重視しない人が多いのだと思います。

ペアローンを組んでいる場合、夫婦仲が悪化して離婚したいとなると、離婚することが非常に難しくなります。A子さんの場合は離婚するまで実家に帰ることができましたが、夫婦がひどい不仲なのに、ペアローンがあるからお互いに家を出ることすらできないという人もいました。

妻が専業主婦である場合も、経済面で家を出るのが難しいというハードルがありますが、仕事を再開するなどして別居に踏み切ることはできます。

ペアローンの場合は、自分が債務を負っているという点で、専業主婦よりも大きなリスクを抱えていると言えるでしょう。

「まさかこんなことになるとは……」

さらに、離婚をしない場合であっても、ペアローンにはリスクが伴います。ペアローンは、夫婦の両方が長年働き続けるというライフスタイルを前提にした買い方だからです。

結婚生活を始めてみれば、妻が出産することもあります。子どもを持たなくても、夫婦のどちらかが病気やけがをすることもあります。その時に、夫婦両方に大きなリスクが降りかかることになるのです。

単独ローンの場合、債務者が亡くなると団信で残債を返済することができますが、ペアローンの場合、片方が亡くなっても、もう片方の債務は残ります。その点でも、長年継続的に返済を続けるのは非常に難しいといえるでしょう。

こういった案件で離婚に悩んでいる人は、皆さん口をそろえて、「まさかペアローンでこんなに困ることになるとは思わなかった」とおっしゃいます。

高級物件への憧れ、パワーカップルという存在への憧れなどからペアローンを組むことで、将来大きなリスクを背負うことになる可能性があります。

ペアローンを組む場合には、年収や借入可能額だけでなく、将来数十年にわたったライフスタイルを見越して、慎重に判断しましょう。

堀井 亜生(ほりい・あおい)
弁護士
北海道札幌市出身、中央大学法学部卒。堀井亜生法律事務所代表。第一東京弁護士会所属。離婚問題に特に詳しく、取り扱った離婚事例は2000件超。豊富な経験と事例分析をもとに多くの案件を解決へ導いており、男女問わず全国からの依頼を受けている。また、相続問題、医療問題にも詳しい。「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ系)をはじめ、テレビやラジオへの出演も多数。執筆活動も精力的に行っており、著書に『ブラック彼氏』(毎日新聞出版)、『モラハラ夫と食洗機 弁護士が教える15の離婚事例と戦い方』(小学館)など。

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