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前の妻も再婚した妻もDV被害に遭っていた…日本はなぜDV加害者を罪の自覚なきまま"野放し"にするのか

  • 2025.2.24

日本ではどのようなDV対策が行われているのか。ジャーナリストの林美保子さんは「日本にはDV行為に対する刑罰がなく、『被害者を逃す』支援一辺倒で止まっている。その結果、加害者は野放しになっているうえ、加害の自覚がないためにDVの加害を繰り返す結果になっている」という――。(第3回/全3回)

※写真はイメージです
DV行為に対する刑罰がない日本

日本のDV対策は海外と比べるとかなり立ち遅れている。

「DVは刑法の問題だから、警察に訴えれば済むことだ」とか「加害者は刑務所に入れればいいだけ」と、間違った解釈をしている人も少なからずいる。

しかし、日本のDV防止法は被害者保護を目的とした法律にすぎず、アメリカ、フランス、スウェーデン、スイス、台湾などと違い、日本ではDV行為そのものに対する刑罰がない。

被害者は逃げるか耐えるかしかない

DVの本質は、パワー(力)とコントロール(支配)と言われる。一つひとつはささいに思えるような行為であっても、繰り返し行われることによって被害者へのダメージが蓄積していく。

被害を訴えれば、警察が加害者を逮捕することはできる。しかし、刑法では個々の暴力事案に対して裁かれるためにDV案件では軽罪になるケースが多く、一定期間勾留されて終わりになりやすい。重罪ではない限りは加害者を刑に処することはできないのだ。日本では、保護命令(被害者への接近や連絡をとる行為などを禁止する命令)に違反した場合のみ刑罰が適用される。

そのため、被害者は逃げるか耐えるしか、手段がない。

「逃げるのを支援するだけでは本当の解決にならない。日本では加害者が野放しになっている」と、DV問題に詳しい専門家や支援者たちは口をそろえて嘆く。

パワハラ上司やいじめっ子に加害の認識がないように、DVの場合でも「加害した」という自覚がない加害者が多い。「自分が家族を正しく指導してやった」とさえ思っている。

野放しの加害者がDVを繰り返す

「前妻にも2度目の妻にもDVをでっちあげられて逃げられた!」

これは、たまたま目にしたSNSの投稿なのだが、同じことが2度起きても、「もしかして自分のしていることはDVなのでは?」という疑問も湧かないようだ。

第2回にも登場したD子さんは、離婚歴のある彼から、「前妻は男をつくって出て行き、行方もわからない」と聞かされていた。しかし、結婚するとモラハラを受けるようになり、前妻はうつ病を患って入院していたことがわかったという。

「前妻さんも、うつになるほど追い詰められたのだと思います」と、その後離婚したD子さんは語る。

また、モラハラ問題の研究、執筆、相談業務に32年間携わってきた谷本恵美さんによれば、「長いこと、この仕事をしていると、ある妻が夫のモラハラに悩んで相談に来られ、その数年後、別の妻が……。よくよく話を聞くと、夫が同じ人であることに気づく、といった事例は、1件や2件ではない」という。

これらの話を聞いて、「本当に野放しなんだなあ」と思ったものだ。

スウェーデンでは「DV罪」創設

2017年、日本では強姦罪から強制性交等罪に名称を変えて、「加害者は男性、被害者は女性」という概念を取り払った(さらに2023年には不同意性交等罪に変更)が、スウェーデンの事情に詳しい矢野恵美・琉球大学法科大学院教授によると、スウェーデンではすでに1984年、すべての法律においてジェンダー・ニュートラル化が行われたという。

琉球大学法科大学院教授の矢野恵美さん(写真=本人提供)

その14年後の1998年、スウェーデンでは新たにDV罪が創設された。刑法第4章第4条a第1項の条文を要約すると、「親しい間柄にある(あった)者への継続する暴力(身体的暴力に限らない)に対して、6カ月以上6年以下の拘禁刑が科される」というものだ。

そして、第2項にはまったく同じ内容でありながら、「親しい間柄にある(あった)男性から女性に対する暴力」だけを取り出して条文化を行った。1項には家庭内暴力、児童虐待、女性から男性へのDV、同性間DVが含まれる。ジェンダー・ニュートラル化に逆行してまで、「女性の尊厳に対する継続する暴力」を捕捉する必要があると判断したのだ。

しかもその前後には、国が率先して、「女性の安全作戦」という広報キャンペーンを展開している。1997年、ストックホルム郡の地下鉄、通勤電車、バスに、「女性に対する暴力は可視化されなければならない」というポスターが2週間にわたって貼られた。2年後には前回と同じ趣旨のポスターが掲示されるとともに男性ロールモデルも起用され、警察署長などが「女性に対する暴力は男性の責任です」と表明することで、認知度は80%に上ったという。

立法するだけでは不十分

「『立法するだけでは人々には絶対伝わらないので、社会に広める活動が必要』ということなのです」と、矢野教授は語る。こうして、スウェーデンでは、「男性から女性への暴力」の認識が周知されていった結果、2項に該当する事例(男性から女性へのDV)は減り、現在では1項のほうが多くなっているという。

日本では昨年4月、改正DV防止法が施行され、身体的な暴力だけでなく精神的な暴力でも保護命令の申し立てができるようになったが、国民に広く周知されているとは言い難い。

「抑止力」と「更生プログラム」が必要

DV対策は国によってさまざまだが、共通しているのは、加害者に責任をとらせる体制を敷いていることだ。

アメリカではDVを犯罪とみなし、積極的に加害者を逮捕、事件化して、刑罰をもって抑止する政策をとっている。1980年代にミネアポリスで行われた調査において、「再犯を防ぐには、『仲裁』や『引き離し』よりも『逮捕』が一番効果がある」という結果が出たことが、きっかけのひとつとなっているという。

ただし、アメリカの多くの州では刑務所の過剰収容の問題もあり、有罪判決を受けても軽罪の場合には執行を猶予して、保護観察(社会の中で更生を図る処遇)で行動を監視しつつ、加害者更生プログラムの受講を命じるという施策をとっている。(出典:関西学院大学法政学会『法と政治』70巻1号/松村歌子「DV防止法の課題と加害者への働きかけのあり方」)

加害者更生プログラムとは、「加害者自身が変わるためには刑罰という抑止力だけでは不十分」という考え方のもとに、加害者の「認知のゆがみ」を修正していこうというものだ。欧米などの国々では、主に裁判所が加害者に受講を命令できるシステムをとっている。

一方、日本にはこのような加害者処遇がない。いくつかの民間団体が加害者更生プログラム講座を開催しているが、あくまでも任意で、加害者本人が受講を希望する場合に限るのが現状だ。

内閣府男女共同参画局でも近年、「加害者プログラム」の実施を推し進めるようになってきている。しかし、現時点では、「刑罰のようにプログラム受講に強制性を持たせることではない形」であり、まずは、「自らが変わることに対する動機づけを持つ者」を対象とするらしい。このままでは、自覚のない加害者は一向に野放しのままだ。

日本は「被害者を逃す」一辺倒で中途半端

多くの先進国ではDVを社会の問題ととらえ、1990年前後から男性から女性への暴力に対する対策に取り組んできた。被害者支援や予防教育にも手厚い体制を敷いている国が多い。

アメリカでは、まずは加害が疑われる人間を逮捕するが、その後双方の言い分を聞いて、専門的知識を持つ裁判官が判断することになる。相当数のDV裁判所も設置されていて、DVに関わる裁判官、検察官、警察官はトレーニングを受け、専門知識を身につけることになる。

フランスの通信社AFPなどによると、フランスでは2020年9月より、DV加害者にGPS機能がついた足輪を足首に着用することを命じる選択肢が裁判所に与えられるようになったという。この足輪をつけた加害者が、被害者から一定の距離内に近づいた場合、被害者と警察の両方に通報される仕組みになっている。その背景には、年間100人以上の女性がDVを受けて死亡しているという現実がある。

オーストラリア・ニューサウスウェールズ州の警察が2024年5月15日から4日間にわたるDVの一斉捜査で、554人を逮捕したという記事が、朝日新聞デジタルなどで掲載された。オーストラリアでは同年初めから一斉捜査の日までに、すでに28人もの女性が暴力を受けて死亡していた。アルバニージー首相はこうした状況を「国家的な危機」と述べ、DV加害者から避難する女性への助成を拡充すると発表した。

被害者に女性が多いことは現在も変わらないが、近年では女性から男性への暴力も増えてきている。「ビッグイシュー・オンライン」(2020年11月26日付)によると、スイスでは被害者の4人に1人が男性であり、男性被害者向けのシェルターもあるという。

一方、日本の場合は「被害者を逃す」支援一辺倒で止まっていて、裁判官も専門的にトレーニングされているとは言い難い。被害者から見れば加害者対応が甘く、加害者とされた人からみれば濡れ衣にしか思えず、施策の中途半端感は否めない。

DV理解が浅い政治家、弁護士、裁判官、警察官

「DV相談窓口に来た件数のうち、保護命令まで行ったケースは100件に1件ぐらいしかない。だから、相談のうちの99%はでっちあげなんです」

これは、2024年2月の衆議院予算委員会でE議員が質疑の際に言い放った言葉である。

しかし、DV相談に来た人が皆、ただちにシェルターの入所を希望するわけでもないし、保護命令を申告するわけではない。相談の内容には幅があり、子どものことや経済面を考え、最終的には耐える結婚生活を選ぶ人もいる。

同年4月からは精神的暴力でも保護命令を申告できるようになったが、それまでは「身体的暴力または生命・身体に対する脅迫」に限定されていた。だから、E議員が発言した2月の時点では、よほど身体的に危険な場合のみ保護命令が出ていたわけで、“DVイコール保護命令”ではない。「99%はでっちあげ」は、勉強不足ゆえの乱暴な見解と言える。

警察から保護命令申告をしないよう勧められることも

私が取材した中では、あばら骨を2本折るほどの暴力を受けて、夫に保護命令が出された事例があったが、一方で、第1回に登場した「ねこ★はち」さんは、警察から保護命令を申告しないことを勧められたという。

夫に首を絞められ命の危険を感じて実家に逃げた後、警察に相談に行ったところ、「保護命令を出すと、かえってダンナさんが逆上して危ないと思う。パトロールは強化するから」と言われたという。ねこ★はちさんが実家にいることを夫が知っていたこともあって、プロの勧めに従って出さなかったのだ。

弁護士も「DV=身体的暴力」と誤解

テレビ出演などで知名度が高いF弁護士は、参考人として呼ばれた法制審議会家族法制部会(2022年12月)の中で、「DVが理由の離婚は5%前後にすぎない」と述べている。その前に出演した動画配信ニュース番組でも、法務省の統計を表パネルにして見せながら、「精神的暴力16.4%」の項目には触れずに、「身体的暴力5.4%」の項目のみを指して、「DVが理由の離婚は5%」と強調している。つまり、F弁護士は殴る、蹴るといった身体的暴力のみがDVだと思っているということなのだ。

このように、対策が徹底されている欧米などと違い、日本では裁判官や政治家、弁護士、警察でさえDVの知識が浅く、個々人によってDVのとらえ方に温度差がある。

DVのメカニズムは複雑で、一般常識的なとらえ方では判断を誤りかねない。だからこそ、アメリカなどの担当者はかなり専門的なトレーニングを受ける。残念ながら、日本のDV対策は、まだまだ欧米どころか、台湾、韓国などのアジア諸国にも追いついていないのが現状で、もっと抜本的な対策が必要だと思う。

そして、2月9日付の共同通信などによると、ハンガリーに住む日本人女性の殺人容疑で元夫が3日に逮捕された事件において、この女性が地元警察や在ハンガリー日本大使館にDV被害を訴えていたことがわかった。帰国したくても、子どものパスポートを元夫に取られていたため、日本大使館に対応を要望したが、「元夫と話し合うように」と促されただけだったという。

林 美保子(はやし・みほこ)
ジャーナリスト
北海道出身。青山学院大学卒。DV・高齢者などの社会問題に取り組む。2013年より日刊ゲンダイ「語り部の経営者たち」を随時執筆。著書に『ルポ 難民化する老人たち』(イースト新書)、『DV後遺症に苦しむ母と子どもたち』(さくら舎)などがある。

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