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106万円の壁、高額療養費制度の次はここ…荻原博子「お金を取る網を広げる政府が次にねらう"ステルス増税先"」

  • 2025.2.24

患者の声を聴かずに決めた高額療養費制度引き上げ問題は大荒れしている。経済ジャーナリストの荻原博子さんは「ほかにもさまざまな分野でステルス増税が進行中だ。今、社会保険が『隠れ増税』のまさに“隠れ蓑”になっている」という――。

※写真はイメージです
「壁」をなくして「網」を広げる

2024年12月、厚生労働省は「106万円の壁」と呼ばれる、従業員が会社の社会保険への加入が義務づけられる「壁」を撤廃する案を出しました。

「年収106万円の壁」とは、「従業員数51人以上の企業」に勤め、年収が106万円を超えて働くすべての人は、会社の社会保険に加入しなければならないというもの。パートタイムで働く会社員の妻は、自身の年収が106万円を超えると夫の扶養から外れ、それまでゼロだった社会保険料をいきなり約15万円支払わなければならなくなります。そのため106万円を超えないように収入額を調整しながら働く人が多いと言われています。

それを「壁」と称して撤廃することで、手取り収入アップや、企業の人手不足解消につなげたいとしているのですが、実際には今よりもっと多くの人が、社会保険料の「網」に引っ掛かることになります。

現在、働く人が会社の社会保険に加入する条件は、「賃金が年収106万円を超える」「従業員51人以上の会社に勤める」「労働時間週20時間以上」の3つがあります。今回の案は、「賃金が年収106万円を超える」「従業員51人以上の会社に勤める」をなくし、「労働時間週20時間以上」だけにしようというもの。

つまり、これまで従業員51人以上の比較的大きな会社のパート従業員だけが対象だった「壁」を壊し、従業員数は関係なく、すべての企業を対象にするということ。となれば、労働時間が週20時間を超えた人全員が、雇用元企業の社会保険に加入し、保険料を支払わなければならなくなるということです。

自営業者やシングルマザーなどにとっては保険料の半分を会社が払ってくれるので少しは助かるかもしれませんが、これまで夫の扶養で一銭も保険料を払わずに国民年金、国民健康保険に加入できていた会社員の妻にとっては、「壁」がなくなったのではなく、どんなに小さな会社に勤めていても対象になりうる「網」が広げられたということになります。

会社の社会保険は労使折半なので、従業員が15万円支払えば会社も15万円支払わなくてはなりません。国にとっては社会保険料収入がグンと上がり、しかも取りっぱぐれもなくなるのです。

ただ、会社が負担する社会保険料は税金よりも高いため「労働時間週20時間」を超えないように働き止めする事業所や個人が出てきそうで、雇う側にとっては、「20時間」という新たな「壁」になりそうです。

国民負担率にも換算されない「子ども・子育て支援金」

政府は、少子化対策の財源確保のために「子ども・子育て支援金制度」を創設し、2026年度から2028年度にかけて、1人あたり月額平均450円を、医療保険の保険料に上乗せして徴収することを決めました。

こども家庭庁によると、負担金の額は2028年度まで増え続け、年収600万円の会社員だと、2026年度は年7200円、2027年度は9600円、2028年度は1万2000円と、諸物価高騰のおり、家計には痛い出費となりそうです。しかも、あらかじめ使う目的があってこの額になっているのではなく、とりあえず“金を集めることを先に決めた”ようで、各方面から不満が噴出しています。

また、当初の予定が予定どおりにいかず、2倍、3倍の額が徴収されるのではないかという不安も出てきています。

さらに、2007年に「少子化担当大臣」というポストができてから、児童手当などの政府の家族関係の支出は増え続けています。ポスト創設前に比べると2倍になっているにもかかわらず、出生数は4割も減っているので、本当に効果があるのかという疑問の声も多く上がっています。その間、消費税は3%から10%まで上がっており、なぜこの収入で対応しないのかという声も聞かれます。

※写真はイメージです

岸田前首相は、社会全体で子ども政策を進めるのだから「負担はゼロ」といい、実際に「子ども・子育て支援金」の各自への負担は、国民負担率にも加味されていません。ただ、これを“まやかし”だという批判も多くなっています。

医療保険料に上乗せされて徴収されていく「子ども・子育て支援金」は、まさに誰にもよくわからない「ステルス増税」のようなものと言えるでしょう。

保険料の引き上げで自己負担も増える一方

ほかにも、公的な各種保険料の引き上げは止まりません。

中でも大きいのが、介護保険料の値上がり。

スタート時点で0.6%だった保険料率は、2023年度には1.82%と、約3倍になっています(図表1)。2024年度で見ると、1人あたり年間約7万5000円の支払いとなっています。介護保険料の徴収は40歳から対象となりますから、家族全員が40歳以上の家庭にとっては、まさに「増税」のような負担感があります。この背景には、介護保険創設当時に比べてサービス利用者数が約3.7倍にもなっていることが挙げられます(2022年度予算)。

介護保険料は3年ごとに見直しされ、次の見直しは2027年ですが、2025年には団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となるため、利用者増を見越して、さらなる値上げも予想されています。

資料提供=著者

また、2024年4月からは出産育児一時金の支給額が42万円から50万円に引き上げられましたが、その財源については、75歳以上の後期高齢者が加入する後期高齢者医療制度の保険料収入から一部負担することになっています。

上がっているのは医療保険、介護保険料だけではありません。利用者(主に65歳以上)の窓口自己負担割合も見直されています。

スタート時点では、1割だった被用者保険の自己負担割合は、2015年の改正で収入によって2割負担となり、2018年には単身世帯で年収340万円以上、2人世帯で463万円以上は、3割負担となりました。

出典=厚生労働省HPより

厚生労働省は、今後、この2割、3割負担の範囲をさらに広げようとしているようです。

「高額療養費制度」の限度額は最高で8割増に

日本には、病気で働けなくなっても、いざという時に低い料金で救ってくれる社会保障制度があります。

中でも「高額療養費制度」は、病気などで長期的に治療しなくてはならない人にとっては命綱とも言える制度です。この「高額療養費制度」も2025年8月から限度額が引き上げられ、今後3年間で倍近く、年収によっては8割近くも負担が増えるという人も出てくる可能性があることは以前もお伝えしました。

患者団体からヒアリングもせずに一方的に決定したことで大問題となり、見直しを迫られた政府は「高額療養費に年4回以上該当する人の自己負担額の見直しを凍結し、据え置く」と決定しました(2025年2月)。が、いずれにしても負担増の方向は変わらないようです。

「社会保険」を隠れ蓑にした、現役世代の負担増は、このように密かに進行しています。そして公的な分野以外にも、家計を直撃する「ステルス攻撃」はまだまだあります。次回は、そうした暮らしに影響するさまざまな施策を見ていきましょう。

荻原 博子(おぎわら・ひろこ)
経済ジャーナリスト
1954年、長野県生まれ。経済ジャーナリストとして新聞・雑誌などに執筆するほか、テレビ・ラジオのコメンテーターとして幅広く活躍。難しい経済と複雑なお金の仕組みを生活に即した身近な視点からわかりやすく解説することで定評がある。「中流以上でも破綻する危ない家計」に警鐘を鳴らした著書『隠れ貧困』(朝日新書)はベストセラーに。『知らないと一生バカを見る マイナカードの大問題』(宝島社新書)、『5キロ痩せたら100万円』『65歳からはお金の心配をやめなさい』(ともにPHP新書)、『年金だけで十分暮らせます』(PHP文庫)など著書多数。

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