アニメ映画『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』が2月21日より上映中です。
『ヒプノシスマイク』は、テレビアニメ、ゲームアプリ、舞台などのメディアミックスがされている「ラップ」が中心にある一大プロジェクト。ヒップホップ界の有名アーティストが楽曲の作詞・作曲を手掛けており、YouTubeのチャンネル登録者数は105万人という超人気コンテンツです。
まず初めにはっきりと申し上げておきたいのは、今回の映画は『ヒプノシスマイク』を知らなくても楽しめるということ! そして、後述するシステムはもちろん映像も楽曲も極上のクオリティーであり、もはや映画という枠組みを超えた新時代のエンタメだったと断言します! その上で、見る前に知ってほしいポイントを大きく3つに分けてまとめてみます。
1:「悔しさ」もまたエンタメ。「投票」システムの面白さ!
今回のアニメ映画の最大の特徴は、劇場映画としては日本“初”となる観客参加型の「インタラクティブ映画」であること。6つの(劇中では「ディビジョン」と呼ばれる)チームによるトーナメント方式のラップバトルが繰り広げられるのですが、その勝敗はスマートフォンのアプリを通じてリアルタイムで行われ、投票数が多かったチームが勝利となるのです。
つまり、まるでテレビゲームやゲームブックのように「選択肢によって物語が変わる」というわけ。Netflixで配信中の『ブラックミラー バンダースナッチ』も主人公の行動を視聴者が選択できるという相互作用的な面白みがあるエンタメでしたが、今回の映画は劇場で、「ほかのお客さんと共に投票をする」ということがミソです。
言うまでもないことですが、観客それぞれが持っている投票権は、今この場で一緒にスクリーンを見ているたくさんのお客さんの中の1票です。それはつまり、自分が投票したチームが勝ち進むとは限らないということ。逆に言えば、そのたった1票が拮抗(きっこう)していたバトルの勝敗を決定するかもしれないのです。
選択肢が用意されながらも、決して自分の望む結果にはならないことに、ネガティブな印象を抱く人もいるかもしれません。しかし、そのある種の不自由さがありながらも、それでもなおも自分の清き1票の力を信じるということが、投票や選挙の意義や尊さでもあると思います。
例えば、自分が投票したチームが勝てばシンプルに「うれしい!」と心から思えるでしょうし、たとえ負けたとしても「あと一歩及ばなかった……! でも自分の中では勝ちだし、これからも応援するよ」とチームやキャラクターへの思い入れがさらに増すこともあるでしょう。そうした「悔しさ」もまた、本作のエンタメ性であると思うのです。
個人的には、「どちらも素晴らしいパフォーマンスだったのに、勝敗を選ばないといけないなんて……こんな残酷なことある!? もう両チームとも勝ちでいいじゃないか!」と一周回ってこの投票システムに勝手な文句を言いたくなるほど、時にはスマートフォンの投票ボタンを押す指が激しく震えるほどでした。それもまた、このシステムを楽しめているということでしょう。
なお、その投票のタイミングは全部で「5回」。その投票結果によって変化する展開数は総計で「48パターン」におよび、エンディングも「7通り」用意され、上映時間も「100〜106分」の間で変動したりもします。何より「見るたびに投票結果によって内容が変わる」ため、リピーターも多く動員することでしょう。
2:実は「原則応援上映」。公式Webサイトの「よくある質問」は要チェック!
今回の投票システムを楽しむには、事前にスマートフォンアプリ「CtrlMovie」のダウンロードが必須となります。さらに、公式Webサイト掲載の「よくある質問」に分かりやすくポイントがまとめられているので、事前に読んでおくことを強くおすすめします。
もちろん全ての事項が重要であることを前提として、中でも強く認識しておく必要があると思ったのは、以下の2点でした。
「5-1. 映画上映に遅れてしまった場合は?
QRコードは、上映直前にスクリーン上に表示されます。上映開始後にご入場された場合、投票に参加できませんので、あらかじめご了承ください。
6-1. 上映形態について
本上映は、原則として応援上映です。ライト類等、応援グッズのご使用や、拍手・手拍子、および声を出しての応援が可能です。」
本作を楽しみにしている人それぞれが、「上映開始時刻に遅れてしまうと投票に参加できない」「全ての回が“応援上映”とされているため、ほかのお客さんが持ち込んだペンライトの光が目に入ったり、観客の声援や手拍子が聞こえてくることもある」ことを知らなければ、大きなトラブルの原因になってしまうのではないか、と心配になるほどでした。一緒に行く友達にも、伝えておく必要があるでしょう。
なお、そのペンライトの光はともかく、通常の映画上映ではマナー違反であるスマートフォンの操作を前提としたシステムであるため、画面の光を煩わしく感じてしまうのではないか……と不安に思う人もいるでしょう。しかし、スマートフォンの画面は投票シーンだけ明るくなり、そのほかの場面では自動的に最も暗い画面設定になるため、それは心配しなくても大丈夫だと申し上げておきます。
3:映像も音楽も全てがハイクオリティー!
投票システムや注意事項はもとより、本作は「ライブパフォーマンス」に特化したエンタメとして申し分のない、いや規格外とさえ言えるクオリティーです。
制作は、テレビアニメ『シドニアの騎士』『大雪海のカイナ』を手掛けたポリゴン・ピクチュアズ社で、今回は3DCGアニメならではの「空間」も感じられる迫力と臨場感がとてつもないことになっています。
モーションキャプチャーでアクターの動きを取り入れており、激しい手の動きにも不自然さを感じることはなく、ラップの歌詞も表示される派手な演出、大胆なカメラワークなど、そのすべてに惚れ惚れとするほど。
構成も、初めに簡単な世界観説明およびキャラクター紹介に近いドラマパートがあり、それ以降はトーナメント方式のバトルという、タイトかつ分かりやすいものです。
「人の精神に干渉する特殊なマイクの登場により戦争は根絶された」といったトンデモな世界設定や、ヤクザや詐欺師までいるクセが強く濃厚な味づけの18人のキャラクターの特徴は、『ヒプノシスマイク』を知らない人にとってはびっくりするかもしれません。
「そういうもの」とまずは受け入れてしまえば、割り切った設定の面白さや大胆さ、決してステレオタイプではないキャラクターの魅力が加速的に感じることができるでしょう。
そして、今回の新曲は「16曲」で、いずれも言うまでもなく超ハイクオリティーです。何しろ参加したアーティストはKICK THE CAN CREW、Zeebra、Creepy Nuts、SALU、HAN-KUN、HOME MADE 家族、山嵐と超豪華!
個人的な一押しは「Fling Posse」が披露する 『バラの束』で、作詞・作曲・編曲を手掛けたKREVAというアーティストの「らしさ」がストレートに表れており、見た後は思わず口ずさみたくなりましたし、ゲームセンターを舞台にしたアイデアとアニメとしての作り込みも素晴らしいものでした。
まとめ:やっぱり文句も言いたくなった(いい意味で)
そして、その『バラの束』をはじめとして、1つひとつが超魅力的な楽曲およびパフォーマンスもまた、投票結果によってチームが勝ち上がらなければ、披露されることはない、というわけです。
つまり、見る人それぞれが、推しのチームやキャラクターの勝利を願うのはもちろん、「2ndステージやファイナルステージで推しのあの曲のあのパフォーマンスを観たい!」という自身の希望をかなえるためにも、1票を投じなければならないのです。
そのおかげもあって、やっぱり「なんでこんな残酷な投票システムを実現させてしまったんだよ……! 全部のパフォーマンスを見せてくれよ!」と文句を言いたくなるほどだったのですが、それも含めてめちゃくちゃ本作を楽しんでいるということ、それがまさに新時代のエンタメだと思える一番の理由だったりもするのです。
リピート鑑賞はもちろん、ほかの回を見た人に「どのチームが勝ったの?」などと聞いたりするのも楽しいのは間違いありません。ぜひ、改めて公式Webサイトの「よくある質問」を確認しつつ、劇場に足を運んでみてください。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
文:ヒナタカ