大阪市の南に、アーティストやクリエイターたちが活動の場を求めて集まる街があります。大阪湾に近く、かつては造船業で栄えたという北加賀屋です。ショップやカフェ、工場、民家などはポップなウォールアートで飾られ、あらゆるジャンルのストリートアートが点在する街は、まるでおもちゃ箱のよう。壁に描かれたかわいいネコたちにも会える、色彩豊かな北加賀屋の街を訪ねてみませんか。
造船業からアートの街へ姿を変えた北加賀屋
北加賀屋へは、大阪駅から大阪メトロ(地下鉄)四つ橋線で約20分。北加賀屋駅で下車します。この辺りは、大阪湾へと注ぐ木津川の河口に近く、かつては造船で栄えた街でした。ところが、時代の流れとともに工場が移転、働く人々も減り、空き家が目立つように。
そんななか、休眠状態にあった名村造船大阪工場跡地を中心に、工場跡や空き家を活用し、「芸術や文化が集積するまち」に変えるプロジェクトが2004年にスタートしました。広々とした工場跡は、クリエイターたちのアトリエとしてうってつけの場だったのです。
それから20年を経た今、街には、いたるところに現代作家のストリートアートがあふれています。国内外のアーティストが参加しており、ウォールアートの数は30以上。大型工場の壁一面に描かれた作品を目にすると驚かずにはいられません。
心あたたまるキュートなクロネコたちのウォールアート
街に点在する作品のなかでも、癒やし度の高さで注目を集めるのが、日本のイラストレーター・umaoさんによるネコを描いた作品。ちょうど、建物の角でクロネコが蝶を追っています。このネコに導かれるように角を曲がると、また別の作品に出会える、街全体にそんな仕掛けがあふれています。
こちらのネコたちも、同じ場所に描かれています。絵のモチーフになっている、工場、船、トラックは、北加賀屋が造船の街であった頃の象徴だそう。こんなところにも、きちんと街の歴史が映し出されているのですね。
umaoさんは、書籍や広告、Webなどで作品を見かけることも多いイラストレーターで、愛情たっぷりのタッチで描かれた動物、印象的な青の使い方が、その作品の特徴です。
街にはもう1か所、元牛乳屋さんの壁で、牛乳瓶を持ってスヤスヤ眠るクロネコに会えるスポットもありますよ。
美術館のような街をおさんぽ
では、他の作家さんの作品も、いくつか訪ねてみましょう。
大きなものばかりではなく、美術館やギャラリーを思わせるような作品もあります。野原万里絵さんは、小石や花びら、球根など自然の素材をモチーフにドローイングで表現。駐車場の一角にアート空間を創り上げました。
なかには、モナリザやマリリン・モンローという美の象徴に、子供たちが無邪気に落書きをする、というインパクト大の作品も。この絵は、当初、中央のモナリザと女の子だけが描かれ、数年後に左右の絵が描き足されました。このように、時とともに変化する作品も斬新ですね。
こんなパズルのような作品もあります。カフェなどが入る複合施設の壁には、オレンジと黒、青と黒で相反する意味の漢字が隠されています。街をめぐる足を止めて、じっくり読み解くのも楽しみのひとつです。
昭和の文化住宅を改装したカフェ&ショップ
散策途中にランチやカフェタイムを楽しめる複合施設が「千鳥文化」。建物の前面が総ガラス張りになった、これもまたアートのような建築です。
元々は、造船業に携わる方の住宅として約60年前に建てられたアパート。増改築を繰り返した複雑な構造を生かし、食堂やバー、ホールを備え、カルチャーの発信拠点としての顔も。日替わりランチやケーキで一息入れてくださいね。
また、近くの路上には、かわいいアヒルのマンホールもあります。
オランダのフロレンタイン・ホフマンさんによる巨大アート『ラバー・ダック』がデザインされています。毎年、クリエイティブセンター大阪で催されるアートフェスティバル「すみのえアート・ビート」では、ラバー・ダックが登場し、地元ではおなじみの存在だそう。千鳥文化への行き帰りに、ぜひ探してみましょう。
街のアートスポットは、北加賀屋駅の北側を中心にした1km四方ほどのエリア。散策前には、「KITAKAGAYA CHAOS MAP」を手に入れると効率的にめぐれるのでおすすめです。
2025年3月には、北加賀屋から地下鉄で約20分ほどの大阪市立美術館も改装を終え、リニューアルオープンします。この春は、大阪市の南エリアでアートさんぽを楽しんでみませんか。