2025-26年秋冬ロンドン・ファッションウィークのスケジュールを一瞥すれば、不参加の人気ブランドが多いことがわかる。ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)、16アーリントン(16ARLINGTON)、チョポヴァ ロウェナ(CHOPOVA LOWENA)、ネンシ ドジョカ(NENSI DOJAKA)、アルワリア(AHLUWALIA)にノウルズ(KNWLS)……。そして昨シーズンもコレクションへの参加を見送ったモリー ゴダード(MOLLY GODDARD)。さらに今季はアーロン エッシュ(AARON ESH)やカロライン ヴィット(KAROLINE VITTO)、ジョアンナ パルヴ(JOHANNA PARV)といった、ここ数シーズン話題を集めている若手デザイナーたちの名前も見当たらない。
厳しい経済状況が不参加の一因であることは間違いない。「世界情勢も市場もかなり不安定になっているので、今季はショーをやらないことにしました」とノウルズの共同設立者であるシャーロット・ノウルズとアレクサンドル・アルスノーは語る。「ただ、9月に向けて面白いことを色々と企画していて、今はそっちにエネルギーやリソースを費やしている感じです。会社としても、その方が理にかなっていますから」
実際、ファッションショーを行うためには6万ポンド以上という、多額なコストがかかるとされている。その経済的な負担の大きさから、毎シーズンの開催を断念するデザイナーが増加。「最近は直接費も間接費も上がっているので、コレクションへの参加は小さなブランドにとって、現実的ではないのです」とカロライン・ヴィットは言う。彼女は今季、ファッションウィークに参加する代わりにルックブックと映像をリリース。春にはポップアップを行う予定だ。「必ずしもショーを行わなくてもいいと気づいたんです。ほかの方法で自分たちのコミュニティを称え、シーズンを通して、心に残るような瞬間を作ればいいのだと気づきました」
一方、16アーリントンも今季は新しい発表形式を模索している。「ファッションとは、変化することです。(ショー開催を見送ることは)ランウェイの先にあるブランドのあり方を探求する機会だと思っています」とクリエイティブ・ディレクターのマルコ・カパルドは説明する。彼が率いる16アーリントンは今回、新作をフォトグラファーのイーサン・ジェームス・グリーンによる写真で発表。日頃からブランドを支援している人たちを招いたディナーも開催する予定で、ゲストたちは皆、2025-26年秋冬コレクションの最新ピースを着用するという。「ファッションショーは15分で終わってしまいますが、ディナーだとゲストたちとより深い関係を築くことができるんです。写真を通してコレクションを鑑賞し、実際に服が着られているところを見ることもできます」
アーロン・エッシュも、今季はショーの代わりに最新カプセルコレクションを祝したディナーを開催する。合計10着のルックはすべてドレスで、どれもその場で購入可能だ。「これは、卸売りビジネスとは別の新たなビジネスモデルです。初めての試みなので、ブランドにとってはランウェイショーと同じくらい大きな転機ですし、チームや友人、報道陣、コラボレーターたちとのディナーは、ショーに負けず劣らず特別なものだと思います」
現に、ロンドンを拠点とするデザイナーのパトリック・マクダウェルは、このようなショー以外のイベントの効果を肌で感じている。彼は今月、ロンドン・ファッションウィークに先駆けて、菌糸体を使用した代替素材のメーカー、エコバティブ・デザイン社と共同でディナーを開催。その反響の大きさに驚いたという。「ショーという従来の形式から離れることには、少し不安がありました。不評を買うのではないかと心配していたんですが、実際はその逆でした」とマクダウェルは振り返る。「皆、より密なつながりを強く望んでいるように感じます。私たちのピースを着たゲストたちがディナーを楽しんでいるのを見て、本当に元気づけられました」
また、コレクションに参加しないことによって、若手デザイナーはファッション以外の分野にも注力することができる。例えば過去3年間、年に1度ショーを開催していたチョポヴァ ロウェナは、先月フレグランスラインをローンチ。アルワリアはパンドラ(PANDORA)と提携し、ジュエリーに刻印できる6つのモチーフを製作した。
カロライン・ヴィットはというと、2025-26年秋冬シーズンを生産戦略を練ることに費やしている。「昨年、ブランドの生産拠点を私の出身地であるブラジルに移すことに踏み切ったんです。これでやっと、自社で在庫を抱えられるようになりました」と彼女は説明。「これまで私たちはオーダーメイド方式で制作していて、アイテムはすべて、ロンドンで少人数のチームによって作られていました。それはそれで私にとってとても大切なプロセスなのですが、長くは続けられません」
今シーズンは短編映画を制作したジョアンナ・パルヴもまた、今はショーよりも優先すべきことがあると感じている。「クライアントやコミュニティとさまざまな接点を持ち続けるために、ブランドのどういった面に投資すべきかを考えるのも、成長しているビジネスとしてはファッションウィークに参加するのと同じくらい重要なことだと思います」と彼女は言う。「今季はブランドのパリのショールームで、業界関係者に向けて小規模なショーケースを開催できて、ルックとリアルタイムに触れ合い、主要なバイヤーやメディアと交流することができました」
もちろん、コナー アイヴス(CONNOR IVES)やディラーラ フィンディコグルー(DILARA FINDIKOGLU)など、年に1度、ショーを行うことがブランドにとってはベストだと感じるデザイナーもおり、彼らは例年通り、コレクションに参加する。しかし、パンデミックにより顕著になったのは、シーズンごとにランウェイ形式のプレゼンテーションを行うことは、必ずしもブランドにとって最適な方法ではないということだ。そして多くの若手デザイナーは、その事実に気づきつつある。表現の仕方は人それぞれ。ショーはあくまでも、1つの選択肢に過ぎない。
Text: Emily Chan Adaptation: Anzu Kawano
From VOGUE.CO.UK
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