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10日以上の「火葬待ち」になる異常事態…墓に入るために"行列"ができる「多死社会ニッポン」の悲しい現実

  • 2025.2.19

大都市部を中心に、火葬場不足が深刻になっている。亡くなってもすぐに葬儀や火葬ができず、待たされるケースが増えているという。日本女子大学名誉教授の細川幸一さんは「高齢化で死者数が増えている。にもかかわらず友引の日を定休日にしたり、午後3時でその日の稼働を終える火葬場は依然として多い。新たな火葬場建設は困難であるため、稼働時間や従来の慣習を見直す必要があるのではないか」という――。

数珠を持って手を合わせる人
※写真はイメージです
火葬場がいっぱいで予約が取れない

厚生労働省2024年9月に公表した2023年の「人口動態統計(確定数)の概況」によれば、日本の2023年(令和5年)における死亡数は157万6016人で過去最多となった。一方、同年の出生数は72万7288人で、こちらは過去最少だ。

両者の差である人口の「自然増減」は、84万8728人減で、前年から5万437人の減少となり、過去最大の減少となっている。自然増減率(人口1000対)はマイナス7.0で前年(マイナス6.5)から0.5ポイント低下しており、自然増減数・率ともに「17年連続」の減少・低下となっている。少子化社会は多死社会でもある。

少子化の問題はいろいろなところで語られているが、多死社会も問題を抱えている。その一つが大都市部を中心とした火葬場不足だ。筆者自身、この問題を経験した。

1月下旬、東京の多摩地区に住む親類の葬儀があった。亡くなったとの連絡を受けたときは、葬儀の日程が決まらず、後から連絡するということだった。当初は火葬場がいっぱいで予約ができず、結局亡くなった5日後の朝8時半からの告別式・火葬となった。

話を聞くと、菩提寺の僧侶も忙しく、2月上旬(亡くなってから10日後)でないと住職が葬儀を行えないと言われたという。それでは困るので、修行僧でも良いからと頼んで、この日になったと聞かされた。

「縁起の悪い日」にも稼働

亡くなってから火葬まで一週間から10日ほど待たされるケースが後を絶たない。それに伴って遺体の保冷施設不足が起きているとの報道も目に付く。

NHKの報道(「火葬ができない 12日間待ちも “多死社会” 年間死亡者数が過去最多」2023年6月26日付)によれば、政令市の中で最も人口が多い横浜市では2022年度には4カ所ある市営の施設で3万4000件の火葬が行われたが、すぐに予約をとるのは難しく、平均すると5日から6日程度待つという。

この記事では、亡くなった家族の火葬が11日後になると言われた女性を紹介している。それまでの遺体の保管にかかる料金として1日あたりあわせて1万3000円、12日間で15万円以上が追加でかかったという。

また、主にコンビニエンスストア向けの冷蔵庫を手がけている川崎市にある冷蔵設備メーカーの、遺体を安置するために使用する冷蔵庫の2022年の受注件数が、4年前の2019年に比べて5倍に増えたことも紹介されている。

かつては、病院等で亡くなると、遺体を自宅に連れて帰り、自宅で葬儀するのが一般的であったが、近年は葬祭場で葬儀をするのが一般的であり、自宅が集合住宅であることも多く、遺体を葬祭場などの施設で安置することも多くなった。

高騰する火葬料金

このように火葬場不足は亡くなってから火葬されるまでの期間の長期化をもたらしている。それは需要が増大していることを意味し、火葬料金の値上げを危惧する報道も出始めている。東京区内の火葬場の火葬料が高騰しているのだ。

公共性が高い施設である火葬場は社会インフラとして、全国的には自治体が運営することが多い。自治体の火葬場なら2万円ほどで収まり、無料のところもある。

しかし、東京23区にある9カ所の火葬場のうち、公営は都が運営する瑞江葬儀所(江戸川区)と、港、品川、目黒、大田、世田谷の5区の広域組合が運営する臨海斎場(大田区)の2カ所のみで、残る7カ所は民営だ。民間企業である東京博善が、町屋斎場、落合斎場、堀ノ内斎場、代々幡斎場、桐ヶ谷斎場、四ツ木斎場の6つの火葬場を、戸田葬祭場が戸田葬祭場を運営する。

都が運営する瑞江葬儀所の火葬料は5万9600円(7歳以上の都民)で、臨海斎場は4万4000円(12歳以上の組織区住民)だ。東京博善の6つの斎場は、9万円(大人)からで各斎場とも2~3ランクある(最上等⇒特別室⇒特別殯館あるいは貴殯館)。最も高いのは四つ木斎場の貴殯館で29万5000円だ。戸田斎場は8万~17万7000円(大人、3ランク)だ。日程を優先すると高い火葬料を払わなければならない場合もあるだろう。

ただし、上記の民間火葬場には区民葬等の料金の設定がある。区民葬は5万9600円(大人)で都が運営する瑞江葬儀所の火葬料と同額だ。区民葬は区民葬儀取扱指定の葬儀社のみの取り扱いとなっている。区民葬利用に所得制限等がないが、基本的に簡素で必要最低限に設定されているため、大規模な葬儀や特別な要望に対応しづらい面がデメリットとして指摘されている。

ひつぎ
※写真はイメージです
火葬場が足りない

23区に民間の火葬場が多い理由は、人口密集地で火葬場を新規に建設することが難しかった事情があるようだ。東京博善は、寺院など古くからあった火葬場を買収して事業を拡大してきた。公営の2カ所も他の自治体が無料~2万円程度の料金設定のなかでは高額だ。これは、シェアの高い民間に足並みをそろえ「受益者負担」の考えを取っているからだ(2024年5月2日付東京新聞)。

高額な火葬料は民間の火葬場が高いシェアを占める東京23区固有の問題と言えるが、全国的に火葬場不足は深刻だ。

人口が集中する都市部では火葬場が不足しているため、「火葬能力」が追いついていないが、新たに建設するのは容易ではない。用地取得や住民の合意を得るのが難しいからだ。火葬施設はそのままに、火葬件数を上げるには、火葬一回当たりの時間を短くする方法もある。しかし、火葬は人の死にかかわる葬儀の一環であり、お別れや収骨を短時間で終わらせるのも限界がある。

東京23区で火葬場を新設しようとすれば、用地の確保が難しいだろう。具体的な計画は出ていない。

東京都は「財政支援」を打ち出したが…

2024年9月26日付東京新聞は「区の火葬場新設後押し 財政支援、都が方針」の見出しで都区内の火葬料高騰をめぐり、東京都が都市計画交付金などによって、区の火葬場整備を後押しすると報じた。

この記事によると、複数の区議会で公営火葬場の新設を求める請願や陳情が採択されていることを踏まえ、都議会での「関係自治体に支援を行うべきだ」との公明党議員の代表質問に対して、佐藤智秀総務局長が「特別区が新たに火葬場整備を行う際には支援する」と答えた。都によると、前述の臨海斎場(港区や大田区などが2004に建設)は、都は区側の要請に応じ、都有地を安価で売却したほか、火葬場整備の費用約61億円のうち計18億円を交付したという。

しかし、人口過密地帯での火葬場の新設には、資金問題だけではなく、住民の合意という問題が立ちはだかる。必要性を理解していても、自宅の近くに火葬場ができるとなれば反対する人は多いだろう。最近の火葬場は技術進歩で、環境対応も進み、煙突から火葬の煙が立つというようなものではないが、イメージはよくない。

新設に成功した横浜市の特殊事情

人口が密集する自治体でも火葬場新設に成功した例もある。横浜市だ。横浜市内には4つの市営火葬場が設けられているが、慢性的に火葬能力が不足しており、また港北区など東京都心に近い東部エリアの住民にはかなり遠い。そこで横浜市は2018年ごろから市営火葬場の新設検討を本格的に開始した。

場所は京浜急行生麦駅(鶴見区)から約1.2キロの工業地帯にある鶴見区大黒町の市有地だ。2026年10月に供用開始となる見通しだ。新たな火葬場の建設が可能になったのは、周辺に住民がほとんどいない工業地帯に市の所有地があったからであろう。

斎場整備事業の進捗状況等について(横浜市「整備通信No.7」より)
横浜市「整備通信No.7」より
「火葬船」というアイデアもあるが…

この問題に対する解決策として、火葬船の計画が発表されたことがある。2008年4月7日に日本財団が東京都内で記者会見を開き、海上で火葬を行う「火葬船」構想を盛り込んだ報告書を発表した。「技術的に可能だ」とし、船は2600トン程度の大きさを想定、火葬炉を4基設置し葬儀用のホールも併設するものだ。メリットとして、「移動可能な施設のため、陸上の火葬場と比べて、建設時に近隣住民の反対運動を回避しやすいことだという。

「多死社会」に適応するために必要なこと

しかし、構想発表から17年ほどが経つが、まだ実現していない。そもそも火葬船を作らなくても、現状の火葬場で効率(火葬能力)をあげることは可能だ。友引を休日にしている火葬場は多いが、それを稼働日にしたり、1日の稼働時間を増やし、夜間や24時間稼働にすれば、能力は向上する。また一回当たりの火葬時間を短くすることも検討できる。

しかし、問題はハード面だけではなく、日本人の火葬に関する考え方を変えることができるかだろう。日本人にとって火葬は葬儀の延長線上になる儀式だ。大安、仏滅など六曜にこだわる日本人には友引に葬儀を行うことは嫌われる。

友引に稼働している火葬場が出てきているが、まだ数は多くはなく、利用件数も少ないようだ。また火葬場が単に遺体を火葬する場所というだけでなく、収骨という儀式を行う場でもあるので、時間帯の延長や所要時間の短縮も簡単には変えられない側面がある。例えば、遺体を火葬場に預けて、翌朝遺骨を引き取るというような儀式とは切り離した火葬が日本人に受け入れられにくいのだろう。

だからこそ、火葬船構想が提案されたともいえるが、かなり奇抜なアイデアであるので、その実現は容易ではないのだろう。船のなかで火葬・葬儀ができるとしても、火葬船の横がクルーズ客船乗り場という訳にもいかないし、だからと言って、貨物用のふ頭にあったら、これも死者の弔いにはふさわしくないと思う日本人は多いと予想する。

「友引は縁起が悪い」と言っていられない

団塊世代が後期高齢者となる本年2025年以降、毎年150万人以上が死亡する「多死社会」となり、2040年にピークに達するとの予測がある。人口の都市部集中が問題となっているなか、過疎となる地域は火葬場不足にはなっていないが、都市部では深刻な問題である。

陸地での火葬場の増設も、稼働能力の向上も、それに代わる火葬船の構想もうまくいかないとすると、当面この課題の解決の糸口を見つけるのは難しいだろうか。

最近は、家族がいない単身者が亡くなることも多いし、葬儀はせず、改めてお別れ会を行う有名人も多い。人々の意識も変わっているのだからそれに合わせて火葬場の友引の稼働、通常9時~15時位の稼働時間の延長などもできるのではないか。そもそも六曜は仏教とは関係なく、友引とは「友を引く」という意味ではなく、「ゆういん」と読まれ、元々は「共に引き分け」、つまり勝負がつかない日であるとされていたという。

告別式などの葬儀と一緒ではなければ、午後3時以降の火葬でも問題はないだろう。仏教の慣習にとらわれない人々も増えてきており、火葬場不足問題はハード面だけでなく、ソフト面で解決の余地がありそうだ。

寺の祭壇の前に置かれた骨壺
※写真はイメージです

細川 幸一(ほそかわ・こういち)
日本女子大学名誉教授
独立行政法人国民生活センター調査室長補佐、米国ワイオミング州立大学ロースクール客員研究員等を経て、日本女子大学教授。一橋大学法学博士。消費者委員会委員、埼玉県消費生活審議会会長代行、東京都消費生活対策審議会委員等を歴任。専門:消費者政策・消費者法・消費者教育。2024年3月に同大を退職。著書に『新版 大学生が知っておきたい生活のなかの法律』『大学生が知っておきたい消費生活と法律【第2版】』(いずれも慶應義塾大学出版会)などがある。歌舞伎を中心に観劇歴40年。自ら長唄三味線、沖縄三線を嗜む。

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