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シェフとして、料理と食の持続可能性を探る【MY VIEW|パトリック・アンリルー】

  • 2025.2.19
「秋茄子のコンフィ ハーブのクルート カポナータ添え」

ルル・エ・シャトーが実施したスローフードとの協働キャンペーン「Food For Change」の一環として、ザ・キタノホテル東京で総料理長・加茂健氏とのコラボレーションによる『未来をつくる一皿』を昨秋、開催しました。プラントベースのフルコースで、すべて日本で調達した素材を使って私が作った料理は「秋茄子のコンフィ ハーブのクルート カポナータ添え」。ナスにエストラゴン、セルフイユ、ミント、シブレットなどのハーブをまぶしたものと、ナスをコンフィにして桜のチップでスモークしたものの上に、細切りして揚げたナスの皮を飾り、さらに、皮剥きしたナスをニンニクと野菜のブイヨンで煮てミントとともに撹拌、松の実を散らしたソースを添えました。シンプルな食材のさまざまな食感と風味を引き出し、 存在感を高めた料理です。

すでに人生の3/4を生き、長いキャリアを経たシェフとして常に考えているのは、子や孫の世代のために、料理と食における持続可能性を実現する方法です。地球環境にも人間にとっても健康的な料理を作る大切さを、未来の世代に引き継ぎたいと願っています。 そこで第一に重要なのが、食糧生産の持続可能性です。

京都では、懐石料理のシェフから、魚や肉を調達するときには短い祈りをすると教わりました。素材へのリスペクトを持つことが基本にあります。私はキャリアに初期である80年代から、料理に使う素材の6割まで野菜を取り入れてきました。その他4割においても地元産の鶏肉やウサギ肉など環境負荷の少ない素材を使います。地産地消を行うこと、地元の中小の生産者を支えることが、未来の食糧生産の持続可能性に繋がります。

また、農業・漁業でも環境への配慮が求められます。農業では近年、蒸気を用いる技術で除虫や除草、減農薬と発芽を促し、栽培期間の短縮に成功しています。フランスではすでに 1970年代から、 水産資源を守るため、ホタテ貝など魚介類の捕獲サイズに規制があります。これからは、野菜の包装のプラスチックや魚介類の輸送に使われるポリエチレンを減らし、もっと小規模の生産者を大切にして地産地消を拡大させることが急務だと思います。

第二に、人類の健康のために大切なのは、バランスの良い食事です。そのためにも、野菜のおいしさを引き出し、味わってもらうことが、シェフとしての責務になります。牛のフィレ肉なら素材そのものが語ってくれるのでほとんど手を加えなくてもいいのに対して、野菜は繊細に手間をかけて料理する必要があります。しかも、オートキュイジーヌにはオマール海老やキャビアなどの高級食材を使った料理を期待するお客さんが多く、野菜料理に500ユ ーロを使おうとはなかなか思えないかもしれません。 質の高い野菜を生産する農家、そして野菜を料理するシェフの技術と労力を理解してもらうことを目指して、洗練された野菜料理の提供だけではなく、 野菜のおいしさを知ってもらう活動に力を入れています。

ここで知っておきたいのが、プラントベースは決して目新しいものではないということです。フランスの伝統料理のレシピにも、野で摘んだ30種類もの花を使ったサラダなどがあります。こうしたレシピを再解釈して21世紀にふさわしい形で出すなど、温故知新の精神で、フランス料理の遺産から学ぶべきことは果てしなくあります。

人間の体は、0歳から8歳までの間に食べるもので基礎が決まります。子どもたちに健康的な食を与えることが人類の健康に繋がるのですが、今も貧しい家庭の子どもたちは食費を節約するために健康を犠牲にしています。私は近所の小学校の給食のメニュー作りに協力し、半径10km以内で生産された食材だけを使い、食材の7割まで野菜を取り入れるようにしています。子どもたちの好き嫌いを聞いて工夫して改良を重ねてきました。子どもが学校でおいしい野菜料理を食べたという話を家庭ですれば、親たちももっと野菜を食べてくれるはずです。

フランスで最も親しまれている野菜といえばジャガイモで、最もシンプルなものから、ガストロノミー料理まで、無数の調理法がありますが、私が好きなのはグラタン・ドフィノワ。セップ茸を入れ、クリームは使わず牛乳とチキンスープを半々にしてあっさりめに仕上げるのが好きです。現代人は忙しく、料理する時間も食べる時間も 減っているのは問題です。比較的安価なジャガイモも含め、野菜は近年大幅に値上がりしました。 野菜を料理するのには手間や時間がかかります。 でも、野菜の色や香り、味の楽しみを多くの人に知ってもらい、もっと野菜を食べてもらうために、希望を持って日々厨房に向かいます。

Profile

パトリック・アンリルー

フランス、リヨン近郊の老舗ラ・ピラミッドのオーナーシェフ。持続可能な地球環境と健全な経済のサイクル、人の健康を目指すルレ・エ・シャトー「#Food For Change 2024」のキャンペーンアンバサダーも務める。

Text: Patrick Henriroux as told to Reina Shimizu Editor: Yaka Matsumoto

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