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なぜTBS「報道特集」はセクハラ対応で「反省」する女性を出したのか…「女性に問題が」と主張する業界の大問題

  • 2025.2.15

フジテレビの社長辞任会見後、他局でもセクシャルハラスメントや性加害問題を内部検証する動きがある。ジャーナリストの柴田優呼さんは「メディア業界の検証番組を作ることもそのひとつ。TBSの『報道特集』はいち早く現場で働く人に取材した内容を放送したが、なぜか、セクハラに怒るのではなく、過去のセクハラ対応を反省する女性たちがクローズアップされていた」という――。

2025年1月27日のフジテレビの会見
フジテレビの会見後に放送されたTBS「報道特集」

中居正広氏の加害行為を1年半前に知っていながら、被害女性への聞き取りもなく、コンプライアンスの担当部署にも伝えないまま、中居氏の番組出演を継続していたフジテレビ。会見後、「#私が退職した本当の理由」というハッシュタグがSNSのXでトレンド入りした。自分が会社を辞めたのは、社内でセクハラを受けたのに会社がきちんと対応せず、心身共に限界に達したからだ、といった女性たちの告発が相次ぎ、自然発生的に「#MeToo(ミートゥー)」運動の輪が広がった。

女性たちが告発した内容は、以前芸能界での性加害を告発したタレントのマリエ氏と同じタイプのものだ。今回、中居問題を機に『FRIDAY』誌の取材に答えて、マリエ氏は次の問題点を指摘している。「リバースキャンセルカルチャー:Reverse Cancel Culture(逆に被害者が排除される状況)」及び、「サイレントエフェクト:Silent Effect(被害を訴えた結果、仕事などの案件が静かに取り消されること)」と言われる二次被害についてだ。4年たった今も、それが自身の障害や傷となっている、と語っている。

ところが、こうした女性たちの訴えとは真逆の内容になっていたのが、「メディア業界における女性の扱いを考える」と題し、フジテレビの会見から数日後の2月1日に放送されたTBS「報道特集」だった。最大の違いは、Xでの投稿にあふれていた女性たちの怒りが、そこではきれいに消えていたことだ。その代わり、「セクハラに対する感覚がマヒしていた」「自分はわきまえすぎていた」とメディア業界の女性たちが反省する内容になっていた。こうした状況について女性の識者は、「典型的な日本メディアのジェンダーの取り上げ方だ」と指摘する。いったいどういうことなのだろうか。

「セクハラ等が起きやすい背景に女性の意識の問題」と主張

番組では、テレビに出演する女性の年齢が10代や20代に大きく偏り、30代以降急減していることを、元TBSアナウンサーの小島慶子氏がグラフと共に指摘。これ自体、女性の扱いという点で極めて大きな問題だが、とことん掘り下げられることはなく、次のコーナーに移動した。「メディア業界でセクハラ等のトラブルが起きやすい背景には、女性たちの意識の問題もある」という男性のナレーションが流れた後、女性キャスターの司会により、メディア業界で働く女性3人がセクハラについて語る座談会が行われた。

全体で約22分の特集のうち、約6分にわたる番組の目玉と言ってもいいコーナーだ。しかしそこで交わされたのは、「セクハラを受けたという後輩の声を無視してしまった」「セクハラを受け流すことを醸成してしまった責任を感じている」といった会話だった。

弁護士は「加害者を許すことにつながる誤った発信」

ハラスメント問題に詳しい武井由起子弁護士はこれを見て、「被害者に対して自分が悪かったと思わせる内容になっているだけでなく、視聴者に対しても、被害者が悪かったのだと思わせる内容になっている。本質から目をそらさせ、加害者を許してしまうことにつながり、誤った発信だ」と言う。

「ここで紹介すべきは、こんな目に遭ったのに、抗えない空気があってがまんしてきたが、本当におかしいのでなくさないといけない、という内容ではないか。ハラスメントは声を上げられない人をターゲットにするもの。自分たちにも責任があったというようなことを被害者側に語らせるのは、こうしたハラスメントと同じ構造になっていないか」と指摘する。

社会学が専門の菊地夏野・名古屋市立大学准教授もこの番組について、「批判の矛先を、メディア業界の男性社会に向けたくない。男性も女性も同じく責任がある、というイメージを作り出したい」というように感じたという。

「女性差別とは元々、女性から色々な権利や経済力を奪った上で、女性にそれは自分自身のせいなのだ、自分の個人的な責任なのだと思わせるもの。このため女性は周りと連帯できずに立ち上がれず、立ち上がった人がいても孤立させられてしまう」と説明する。

「この番組では、怒っている女性がほとんどおらず、反省している女性ばかり出てくる。そこが本当に、性差別社会を反映している」と指摘する。

なぜ「セクハラに対応しなかった」という女性を強調するのか

要は、女性に自責の念を持たせ、その一方で男性を免罪しているということだ。

実際に反省すべきは、職場で重い権限を持っている男性管理職であるはずなのに、彼らへの詳しい取材はなく、女性たちがセクハラ被害を受けて苦しんだり悩んだりする状況が起きていることに対する、彼らの反省の弁もない。

番組では、一番年長の男性キャスターが「報道機関として人権意識を啓発していく立場なのに、まさに逆で、役割を果たしていなかった」と抽象的な言い方をするのにとどまった。もう一人の男性キャスターも番組の最後に一言、「同僚の女性が嫌な思いをしているのに気づいていたのに、真剣に向き合ってこなかった」と語るだけで終わっていた。

その一方で言及されるのが、後輩の女性からセクハラの相談をされたのに、きちんと対応しなかったという女性側の落ち度だ。この番組以外でも、必ずと言っていいほど、部下や後輩の女性の相談に対応しなかった女性たちの責任が強調される。中居・フジテレビ問題を受けて、女性のセクハラ問題について取り上げる番組や記事は他にもあり、そこではもっと被害女性たちに寄り添った内容のものが多いが、それらも例外ではない。

「自分も過去にまずいことをやったのでは」という男性の不安

そうやって職場でマジョリティを占める男性たちを、さりげなく免責するのがパターン化している。

武井氏は「男性を免罪し、彼らの罪悪感を払拭するような報道は、ある種のガス抜きの役割を果たしているのではないか。自分は過去にまずいことをやったのではないか、と一部の男性たちは今、とても不安に思っている。そこで女性が自分たちも悪いところがあったと言うと、少しほっとするのだろう」と指摘する。

しかし現実には、テレビ界の構成員も意思決定層も、男性に大きく偏っている。

ここで、日本民間放送労働組合連合会(民放労連)女性協議会が2023年に発表した在京キー局の女性の割合を見てみよう。社員全体の25.4%が女性で、女性が元々少数派であることがよくわかる。これが管理職になると18.1%、局長では16.8%と、女性の割合はどんどん減っていく。

役員になると、わずか8.3%しかおらず、実は今回初めて、全局で女性役員ゼロを脱したというような状況だ。テレビ局の中核であるコンテンツ制作・編成部門に限って見ると、女性は全体の20.3%のみ、局長はわずか8.0%で、男性が強い決定権を持っていることが見て取れる。

在京キー局の管理職の80%は男性、その責任が抜け落ちている

これだけ権力勾配が明らかに男性側にあるのに、セクハラを受けるのは女性の意識にも責任があると言ったり、相談を受けた女性の対応ばかりクローズアップするのが、いかにバランスを欠いたものであるかわかるだろう。圧倒的に数の多い男性の上司や先輩、同僚の責任は、まるで彼らが透明人間であるかのように抜け落ちている。

「この男社会を、自分たちが率先して本格的に変えていくつもりはない。女性の邪魔はしないけど、自分自身は別に行動に移さなくていい。女性が何とかすればいい、と思っている男性は多い」と菊地氏は指摘する。「欧米のフェミニズム運動では、女性を助けてくれる男性が多いけれど、日本でちゃんと支援してくれる男性は本当に少ない」と話す。

しかし、メディア業界のセクハラは、女性の力だけで何とかすればいいような問題なのか。

セクハラ被害者の80%が女性、加害者は「社内の先輩」が最多

新聞、印刷、放送、出版、映画、広告、音楽、コンピュータ業界の労組が構成する日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)女性連絡会は23年、セクハラのアンケート調査を行った。セクハラを受けたと答えたうちの80.9%が女性だ。

被害者の職種によって多少違いはあるが、加害者の属性で一番多いのは「社内の先輩」で、他に「直属の上司」や「社内、関係会社の上司」、「同僚、部下、後輩」、「同業他社」などが挙がる。外勤であっても「社内の先輩」が一番多いこと、前回18年の調査と比べ、「取引先・スポンサー」が激減していることを考え合わせると、業界内部でのセクハラが深刻であることが伺える。

女性に対するセクハラでとりわけ多いのは、「結婚しないの? 子供生まないの? などの自己決定権に関わる質問をされた」と、「必要もないのに身体的接触(キス、抱きつく、肩もみ、胸をさわる等)をされた」というものだ。

前回の調査時と比べ、前者の不適切な質問については、女性についてはほとんど減っておらず、変化がない。後者の不必要な身体的接触は今回減ったが、「コロナ禍で、宴会や歓送迎会など飲み会の場が減ったことが関係している」とMIC側は見ている。

また「出先、住居等までつけまわされた(ストーカー行為)」という、「一歩間違えれば命の危険もある」深刻なセクハラ被害も減っておらず、「女性の被害者が危険にさらされていることに変わりはない」というのがMICの見方だ。

出典=日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)女性連絡会「セクシャル・ハラスメントに関する アンケート調査(2023年)」
セクハラを受けても、半数の人が相談窓口に報告できない

「私が退職した本当の理由」というハッシュタグをつけたXでの告発では、セクハラ行為だけでなく、その後会社がきちんと対処しなかったことが、女性たちの間で怒りを呼んでいた。MICの調査結果では、どうなっているだろうか。

それによると、被害者の75.3%が「受けたセクハラについて今でも苦しんだり悩んだりしている」という深刻な状況が浮かび上がっている。

相談窓口がきちんと機能しているかどうかも大きな疑問だ。「相談窓口などどこかに連絡・相談したか」という問いに対し、半数に当たる50.6%もの人が「連絡・相談しなかった」または「連絡・相談できなかった」と答えている。「連絡・相談した」と答えたのは38.8%しかいない。

出典=日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)女性連絡会「セクシャル・ハラスメントに関する アンケート調査(2023年)」

相談しなかった、またはできなかった一番大きな理由は「相談しても解決しないと思うから」が65.6%。以下、「相談内容が他の人にもれるかもしれないから」「会社に居づらくなるかもしれないから」「仕事に支障が出るかもしれないから」が30%台で続く。

相談窓口には解決能力がないと見なされているだけでなく、窓口などでの秘密保持や告発者の保護についても、信頼できないと思われているのが現状だ。MICは「相談した先が安心安全であるように、被害者の立場に立った対応」を求めており、「窓口があることの周知徹底、窓口の使いやすさ、被害者のプライバシーの保護、相談員の継続的な技術や情報のブラッシュアップなどが必要だ」と指摘している。

出典=日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)女性連絡会「セクシャル・ハラスメントに関する アンケート調査(2023年)」
「セクハラ加害者への処分が軽い」という被害者の実感

フリーアンサーの項目ではさらに、「加害者への処分が軽い」「加害者の適切な処罰や異動を求める」「被害者の保護をきちんとしてほしい」という回答が多くあったことから、「加害者ではなく被害者が異動させられる、という事例が多くありそうだ。被害者が異動を希望したのであればまだしも、加害した側がそれまで通りでいられる、ということでは、被害者の救済にもならず、会社はハラスメントを容認していることになる」とMICは結論づけている。

この結果を見る限り、メディア業界の女性に対する社内でのセクハラは依然として深刻で、しかも先輩や上司といった身近な相手によるものが多いことがわかる。加害者にならないよう、男性に対する啓発活動がもっと必要であり、加害者の処罰と被害者の保護も不十分だ。それなのに「女性たちの意識にも問題がある」と言って済ますような報道をするのは、不誠実ではないのだろうか。

そもそも厚労省が23年度に行った「職場のハラスメントに関する実態調査」と比較しても、メディア業界はセクハラが多い。厚労省の調査だと、過去3年間に勤務先等でセクハラを受けたと答えた人は6.3%。それに対し、MICの同年の調査では、18年以降の5年間で17.3%がセクハラを受けたと答えている。調査対象年数は2倍弱なのに、セクハラを受けたという人の割合は3倍近い。

TBSは「番組の編集方針はお答えしていない」という回答

男女雇用機会均等法にはセクハラ防止の配慮義務があり、労働契約法にも、安全配慮義務や職場環境配慮義務がある。被害をなくすには、こうした企業側の法的義務や、働く人たちの権利を周知していくこともマスコミの役割だが、今回の報道特集では取り上げていない。

1、なぜ加害男性や加害行為を看過してきた男性についてもっと詳しく報じないのか
2、なぜこうした法的側面を取り上げないのか

これらをTBSに問い合わせてみたところ、「番組の個別の編集方針については従来よりお答えしていないが、人権問題については引き続き取材していく」との回答だった。

菊地氏は「職場での女性の扱われ方について、もうそういう時代ではない、という言い方がよくされる。今回の報道特集でもそうした発言があった。これは日本のジェンダーの論じられ方でよくあるパターン。でも時代が変わったから、私たちも変わらなきゃいけない、というのは違う。人権の問題なのだから、常に普遍的に問われるべきことだ」と指摘している。

「メディア業界における女性の扱いを考える」とは、女性の問題を他人事のように切り離して考えるのではなく、男性が圧倒的優位を占めるこの業界で、これまで何が触れられないできたか、何をかばい合ってきたかを明らかにしていくことであり、セクハラ問題はその一つに過ぎない。

柴田 優呼(しばた・ゆうこ)
アカデミック・ジャーナリスト
コーネル大学Ph. D.。90年代前半まで全国紙記者。以後海外に住み、米国、NZ、豪州で大学教員を務め、コロナ前に帰国。日本記者クラブ会員。香港、台湾、シンガポール、フィリピン、英国などにも居住経験あり。『プロデュースされた〈被爆者〉たち』(岩波書店)、『Producing Hiroshima and Nagasaki』(University of Hawaii Press)、『“ヒロシマ・ナガサキ” 被爆神話を解体する』(作品社)など、学術及びジャーナリスティックな分野で、英語と日本語の著作物を出版。

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