教えてくれたのは……
化粧品処方開発者
ぽんかんさん
化粧品メーカーにてスキンケア製品の処方開発を手掛ける、現役の研究者。メーカーとユーザー、どちらにも寄らない中立の立場から情報を発信。客観的で冷静なコメントは信頼できると、Xで大人気！
X：@cosmeresearch
いまさら聞けない！ そもそも浸透って？
ぽんかんさん
化粧品において浸透とは、美容成分が肌の奥深くまで届くこと。実は、化粧品を使った際に肌の表面で感じる浸透感と、成分が実際に肌の内部の角層や表皮などに入ることを指す浸透は別物で、必ずしも一致しません。肌表面がベタベタしているけど肌すみずみまで成分が行き渡っていることもありますし、表面がさらっとしているのに内側まで届いていないなんてこともあります。
化粧品は角層までしか浸透しないように決められているって本当？
ぽんかんさん
難しいところですが、「化粧品が角層までしか浸透しない」というのは、広告上のルールと混ざって広まっているように感じます。広告では消費者が過度な期待を持ちすぎないように「肌への浸透の表現は角層までとする」とルールで決められています。よく「※角層まで」といった注釈を見かけますよね。これはあくまで広告表現であり、科学的事実として「化粧品は角層までしか浸透してはいけない」という決まりは実は存在しません。シミの元になるメラノサイトは基底層に存在しますし、シワ改善コスメの有効成分は角層よりもっと深くの真皮層のコラーゲン産生を促進するなどしてシワを改善するメカニズムです。そのようなメカニズムをもつ成分（たとえば、レチノール、ナイアシンアミドなど）も化粧品に自由に配合できます。
浸透させるための技術は日夜研究されている
ぽんかんさん
化粧品成分の浸透は、その成分や濃度だけではなく、カプセル化、乳化粒子のサイズを小さくする、浸透促進するような成分を配合するなど「処方技術」によっても変わります。化粧品研究の中でも、浸透促進技術は研究が盛んにされています。ベース成分の組み合わせ次第で美容成分の浸透をサポートすることができますし、肌の状態や一緒に使う製品などによっても浸透具合は変わります。
浸透にまつわる疑問を一問一答！
肌に浸透する量は決まっている？
ぽんかんさん
水は塗ったら塗っただけ肌に浸透するわけではありません。もしいつまでも浸透するなら、入浴したら肌がパンパンに膨らんでしまいますよね。角層に入る水の量は限られているんです。しかし、化粧品はただの水ではなく、美容成分が含まれます。肌に浸透しやすいような有効成分を高濃度で肌につけると量や肌質によっては浸透しすぎてしまう可能性があり、刺激などの肌負担に繋がることもあります。
化粧品は本来、肌への作用が緩やかなものでなければならないため、メーカーは処方によって浸透具合を調整し、安全性を担保しています。塗れば塗っただけ肌にいいということではなく、メーカーの推奨する使用量・使用方法で使用することをおすすめします。
塗った順に浸透するから、一番効かせたいアイテムを先に使った方がいい？
ぽんかんさん
塗った順番だけでなく、剤型も浸透に関わります。こっくりしたクリームを先に使ってしまうと、その後のアイテムの浸透がしにくくなってしまうので、一般的には油分の少ないシャバっとしたものからこっくりしたものの順に塗るのをおすすめします。昔から言われている、化粧水、乳液、クリームというライン使いのステップは理にかなっているんです。とはいえ、化粧品は自由に組み合わせることができたり、自分なりの使い方を工夫して見つけられたりする楽しさもあります。肌の様子をみながら、自分の感覚を信じてケアしてみるのもいいでしょう。
油分を先に肌にのせるとその後使うアイテムの浸透が妨げられる？
ぽんかんさん
ワセリンなどの水分の蒸散を防ぐために肌に膜を張るような油分を先に使ってしまうと、その後使うアイテムの成分が浸透しにくくなってしまいます。ですが、一般的な液状のオイルではそこまでのことは起こりません。先行乳液や植物オイル、美容オイル（スクワラン）などの肌なじみが良くその後使うものの通り道をつくってくれるようなアイテムは、化粧水や美容液などを重ねることを想定してつくられているはずですので、先に使っても問題ありません。
1品1品肌に浸透するまで次のアイテムを使うのは待った方がいい？
ぽんかんさん
時間に余裕があるのでしたら、理想としては待った方がいいです。アイテム同士が肌の上で混ざると製剤の状態が崩れてしまいます。特に日焼け止めや下地、ファンデーションは混ざると肌の上できれいな膜が形成されにくくなってしまいます。そうすると、紫外線防御効果やメイクのりなどの機能が落ちてしまいます。なので、完全に乾いている必要はありませんが、肌に塗布して製剤の大部分が肌になじんだ感覚が出てから、次のアイテムを重ねましょう。
シートマスクや導入美容液は浸透させるために肌をゆるめている？
ぽんかんさん
シートマスクや導入美容液は成分が肌に浸透しやすい特徴があるのは事実です。シートマスクなら、角層細胞のレンガ構造がゆらいだり、導入美容液なら浸透を促進する成分によって角層細胞の隙間を成分が通る道をつくるような処方を組んだりと。とはいえ、あくまでも一時的なもの。メーカー推奨の使用時間や使用量で使う分にはその後バリア機能も元に戻るように、安全性も問題ないことを事前に確認したうえで、メーカーは発売しているかと思います。
イラスト／もちづきいずみ 取材・文・構成／剱持百香