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【毎熊克哉さんインタビュー】「いろいろな人の記憶を旅するような映画です」

  • 2025.2.12

ふらりと街に現れた全身黒づくめの男、蝶野。アクティングコーチである彼は廃工場を借り受け、「初級演技レッスン」を開講する。そこに子役俳優の野島一晟、一晟の担任教師の平沢千歌子ら、心に哀しみを抱えた人間がやってくる。蝶野の指導のもとで即興演技をすると、奇妙な体験へ導かれて……。串田壮史監督による映画『初級演技レッスン』で、毎熊克哉さんが主演を務めました。大河ドラマ『光る君へ』で注目度がさらに上昇した毎熊さんが、謎めいた男・蝶野を演じています。役作りのこと、今、演技について思うこと。毎熊さんに聞きました。

役として感じることだけに集中した日々

長髪を後ろに束ね、トランクひとつ抱えて街にやってきた蝶野。何を考えてこの街に来て、どんな仕事をしているのか? その外見からは想像がつきません。
 
「ひとつのファンタジーとしての世界観は、台本からもうぷんぷん匂うようでした。蝶野も、一読して‟なるほど”と思えるようなキャラクターではなくて。街でごく普通に生きる人としてのリアル、ではないところでキャラクターを作る必要がありました。串田監督の他の作品もそうなのですが、映像で感じさせる、想像させるような、映画らしい映画になるだろうと思いました。だから、台本を読んですぐには理解できないこと自体、そうですよね、という感じで。この脚本で何を伝えるのか? 撮影期間は考え続けました」
 
まずは蝶野の外見、黒づくめの衣装が、役を演じる上でのとっかかりになりそうに思えます。
 
「衣装合わせでは、黒いコートも何パターンか用意されていました。髪形は、ヘアメイクさんの提案で長髪を後ろで結わえて。その風貌に似合う歩き方、コートさばきも意識しましたね。謎ではあるけれど、怖いわけではない。どこか愛着を持てるキャラクターになったらいいなと。ただ序盤からどんなキャラクターかわかってしまってはいけないので、役としての肝になるものを持ちつつ、如何に隠すかという感じで。この作品は、現実と幾重にも重なる夢とが並列で描かれ、一瞬どこの次元かがわからなくなる。映画『インセプション』のような感覚かもしれません。何がどうなっているかはわからないけど、いろいろな人の記憶を旅するようで、どこに連れていかれるのだろう?というワクワク感がありましたね」

演技には「自分の本当」を使う

廃工場を使った、だだっ広い教室で演技レッスンを行う蝶野。ある日のレッスンは、「足元のモノを拾ってください」というお題で始まります。すると生徒は、そこにあると想定したモノを拾う動きをする。それは何か? 例えば石なら、拾うときにどんな動きをするのか? その人の記憶の集積が表現に直結します。
 
「演技には自分の体と心を使います。例えばアニメのキャラクターを演じるなら、アニメーションを参考にすることはあっても、感覚的なものは借りてくることはできません。それがどんな石で、その動作にどんな感情をのせるかを決めるのは、その人個人。自分が今まで見てきた石、その記憶から、演じる際の石をつくり上げる。それがまさに‟演技レッスン”です。その人の感覚(記憶)を掘っていく。だから演技って面白いんです。ひとつのアクションを“本当”にするには、自分の“本当”を使わないといけないんです」
 
俳優さんは演技をどのようにしているのか、観る側にとっては謎に包まれた部分も多いもの。自分の感覚を使うことによって、演じる役と自分自身と、どちらが本当の自分? そんな風に混乱することはないのでしょうか。
 
「結局は全部が自分なんだと思います。でも、演じているときは動物のように感覚で動くのですが、過激に怒るシーンで本当に人を殴ってしまったらダメで。そうしないのは、‟これは映画の撮影”という視点があるから。そのバランスは人によって違うでしょうが、僕自身はかなり客観性が強いタイプかなと。好きな俳優さんはより動物的だったりするんですけど」
 
毎熊さん自身が、不思議な俳優なのは確か。蝶野のように極端に浮世離れした謎めいた役柄でも、ごく自然に当たり前のように画面のなかに存在してみせます。
 
「自分ひとりでどう、というよりかは人に合わせているのかなと。自分で監督するわけでも、脚本を書くわけでもない。誰かが用意した‟土台”に合わせる。今回なら串田さんが撮った過去の作品や脚本を見て、今回はどう撮ろうとしているのか? では、この役としては……と考えていきます。現場でモニターはチラッと雰囲気を見るくらいですが、監督と撮影部の話はよく盗み聞きするんです(笑)。串田さんの映画はカット割りも緻密で映像ならではの表現なので、そこからズレたことをしても本編には残りませんから」
 
そうして完成した映画は、「想像より見やすかった」そう。
 
「時間軸が行ったり来たりすることもあって、脚本の段階ではもっと難しく考えていたんです。答えをくれるのではなく、答えを探すきっかけをくれる映画だなと。この作品は配信もあって家でも観られますが、やっぱり劇場という‟箱”の、暗がりのなかで観ることをおすすめします。見終えたあとの時間をかみしめ、誰かと記憶を一緒に探るような感覚がいいんですよね」

プロデュース&配給にも挑戦!

数年前、毎熊さんは「お芝居に漠然とした理想があり、まだそれに向かう途中」という主旨のことを語っていたことがあります。理想とする演技に変化はあったのでしょうか?
 
「あまり変わっていないかもしれないです。いろいろな選択肢があるので難しいですが、演技をしないで済む、そんな状態になることが究極かなと。台詞を棒読みするのは下手で、抑揚をつけてしゃべれば良いお芝居か?と言えばそうでもない。そもそも作りものの世界でもあって、まだまだ理想には先が長いなあという感じです」
 
そんななか、昨年には映画『東京ランドマーク』でプロデュースと配給を手掛けました。
 
「これは自主映画で、プロデュースといっても資金集めをしたわけでもなく、一時期は現場を見られなかったりもしました。『初級演技レッスン』の話と重なる部分があるかもしれませんが、この映画もまた答えを出してくれるものではなくて。そこで生きている人たちが何かを発し、見てくださったお客さんが受け取り、映画館を出たあとに噛みしめるタイプの作品だと思います。友達や近しい人と作ったからこその大変さもありましたが、もともと映画を作りたくてこの世界に入ったので、やっぱり楽しかったですし、貴重な経験でした。公開後に、その日何人のお客さん入ったかまでわかるので、ときには「こんなに頑張ったのに……」と思ったりしますが(笑)。やっぱり映画は作って終わりではなく、見ていただいてなんぼ。より多くの人に観ていただくためにはどうしたら?と考えられたことも大きな経験でした」
 
今年38歳となる毎熊さん。40代が視野に入ってきた今、何を思うのでしょう?
 
「人生は約80年、長生きしても100年ほどで終わる。しかも誰もが一度きりです。そのなかでどう時間を使うのか? 考えますよね。ようやく映画やドラマに出させていただけるようになりましたが、例えば"台湾の映画に出てみたい”とか”次はこんな映画を作りたい”など、‟次はもっと……!”と思い続けていたい。挑戦して失敗するかもしれませんが、できることの幅を広げたいです。世界中には魅力的な人がいっぱいいるだろうし、そういう人と出会いたい。そんなことを考えているんですよね」

PROFILE 毎熊克哉(まいぐま・かつや)
1987年生まれ、広島県出身。2016年に映画『ケンとカズ』に主演し、注目を集める。主な出演作に『恋はつづくよどこまでも」『妖怪シェアハウス』『どうする家康』『光る君へ』などのテレビドラマ、『全員死刑』『止められるか、俺たちを』『猫は逃げた』『ビリーバーズ』『世界の終わりから』などの映画がある。今年の公開待機作に『悪い夏』(3月20日公開)『時には懺悔を』(6月公開)『桐島です』(7月4日公開)が控えている。

毎熊克哉さん出演映画『初級演技レッスン』

謎めいたアクティングコーチ、蝶野の指導のもとで即興演技をした生徒らは奇妙な体験へ導かれる――。初長編監督作『写真の女』が国際映画祭で40冠を達成した串田壮史監督の最新作。

●監督・脚本・編集:串田壮史
●出演: 毎熊克哉、大西礼芳、岩田奏、鯉沼トキ、森啓一朗、柾賢志、永井秀樹、石井そら、中村天音、大滝樹、村田凪、高見澤咲
●配給:インターフィルム
●2025年2月22日(土)より、渋谷ユーロスペース、MOVIX川口ほか全国順次公開

©2024埼玉県/SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ

撮影/鈴木千佳 スタイリスト/カワサキタカフミ ヘアメイク/星野加奈子 取材・文/浅見祥子

この記事を書いた人

大人のおしゃれ手帖編集部

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