本物であれフェイクであれ、最近ファーを纏う人をよく見かけるようになった気がする。超高級スキーリゾートのアスペンでは、ヘイリー・ビーバーやケンダル・ジェンナーをはじめとするセレブたちが思い思いのファーコートに身を包み真冬のゲレンデを謳歌し、ランウェイもフェイクファーのオンパレード。しかし、倫理的な懸念から毛皮(リアルファー)離れが本格化していたファッション業界にとって、そのある種の再燃はどのような意味を持つのだろうか。そしてヴィンテージであれば、毛皮を着るのはよしとされるのか。
間違いなく、議論の余地があるテーマだ。すでに世に出回っているという時点で、ヴィンテージの毛皮は、石油由来の合成繊維からできている大半のフェイクファーよりはサステナブルだと言えなくもない。ラグジュアリーのヴィンテージディーラー「The RealList」の共同設立者であるアレックス・コーエンとグラント・エリスも、(フェイク)ファーアイテムを新たに生産することには強く反対する。カイリー・ジェンナーがアスペンで着ていたトム・フォード期のグッチ(GUCCI)の黒い毛皮のコートと、ビーバーのフェイクファーアウターを調達した2人は、ヴィンテージの毛皮アイテムを着る方がサステナブルな選択だと主張。「既存の毛皮を再着用することで、生産によるさらなる負荷を環境にかけることなく、過去に作られたものを再利用することができます。ヴィンテージの毛皮のコートをクローゼットの奥に眠らせたままにしたり、処分するのは、とてももったいないことなのです」と言う。
フェイクファーは、ファッションの倫理面について考えるきっかけの1つ
ファッション史の観点からも、すでに出回っているリアルファーのランウェイピースをなかったことにするのはどこか心苦しい。リアーナが2度にわたって着用したことで有名なサンローラン(SAINT LAURENT)によるハート型のキツネのファーコートなど、多くの過去ルックは、毛皮に対する反対姿勢がまだ高まっていなかった頃に制作された。「アイコニックなヴィンテージのファーアイテムは、その時代のクラフツマンシップと文化的価値を反映しています」と、リアーナのファーアイテムを数多く調達してきた「One-Of-A-Kind Vintage」の創設者、ジェファーソン・イエナチョは言う。「それらをなかったことにすることは、ファッション史における重要な転換点などを見て見ぬふりをすることを意味します」
それでも、ヴィンテージであろうとなかろうと、毛皮には断固反対という人が多数派だ。鯨の皮のバッグや犬の毛皮のコートなど、過去に商品化されたが今は到底世間から受け入れられない素材を身につけることに倫理的に抵抗があるのであれば、いかなるファーでも身につけるべきではない、と「Collective Fashion Justice」の創設者兼ディレクターのエマ・ハカンソンは言う。また、ヴィンテージのファーを着ることは、間接的に毛皮をファッションとして身につけることを再び後押しし、正当化することになりかねないという懸念があるとも主張する。
写真だけでは、着用されているものが新品なのかヴィンテージなのか、リアルなのかフェイクなのか見分けがつかないというのも問題点の1つだ。だが、その不明瞭さがファーについて考える呼びかけになることがある。毛皮の生産や着用は世界的に広く非難されており、ハカンソン曰く、フェイクファーといった代替素材について考えることは、ファッションの倫理面、そして毛皮に対する自分の立ち位置を確かめるきっかけになる。
フェイクファーはサステナビリティの面では必ずしも優れているとは言えないが、よりエシカルで環境に優しい代替素材は増えてきている。その一例がBioFluffだ。プラスチックフリーかつ植物由来の同素材は亜麻、イラクサ、麻を原材料としており、すでにステラ マッカートニー(STELLA McCARTNEY)やガニー(GANNI)などが一部のデザインに採用している。「現代の消費者は毛皮の社会的・環境的な課題を強く意識しています」と指摘するのは、BioFluffの共同設立者兼チーフ・コマーシャル・オフィサーのロニ・ガムゾン。「毛皮のようなふわふわとした質感の需要がある限り、自然に配慮した革新的な技術や代替品を採用する動きは、今後も加速するでしょう」。とは言え、エコファーといった選択肢が大々的に展開されるのはまだ先だろう。そして広く普及してからも、ヴィンテージファーを巡る論争は、おそらく続く。
Text: Emily Chan Adaptation: Anzu Kawano
From VOGUE.CO.UK
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