「昔からファッションに夢中でした」とファッションデザイナーのクラウディア・ツイスクは言う。 オーストラリア出身の彼女は、4年間ウィメンズウェアを学んだ後に渡航。ザ・ロウ(THE ROW)、エクハウス ラッタ(ECKHAUS LATTA)、ユニクロ(UNIQLO)といった名だたるブランドを渡り歩き、現在はパリに拠点を置きながらアー・ペー・セー(A.P.C.)のシニアデザイナーを務めている。そんな彼女は昨年、ブライダルという新たな分野のデザインに挑戦。しかも手がけたのは、ほかでもない自分自身のウエディングドレスだった。
当初、ツイスクは自分のドレスをデザインするつもりはなかった。「自分のウエディングドレスは絶対に作らないように。連日、徹夜をすることになるから」と母に強く助言されたと彼女は話す。母のアドバイスを頭の片隅に留めつつも、いざ8年来のパートナーであるディミトリ・リンベロプロスとの結婚が決まると、理想のウエディングドレスのイメージはかなり具体的になっていった。「ドラマ性とパフォーマンス性があるドレスが欲しかったんです。五感を刺激するような、とにかく大がかりなものにしたくて。(ディミトリとは)もう長いこと一緒にいますし、友人たちもみんなクリエイティブな人たちなので、とにかく着る私も見る人も楽しめるものにしたかったんです」
ツイスクの理想の1着は、ディオール(DIOR)の2007-08年秋冬オートクチュールコレクションに登場したジョン・ガリアーノ(JOHN GALLIANO)によるドレスだった。「実際はドレスに見えるスカートとトップだということに気づいたんです。もしかしたら、どちらかのアイテムは手に入るかもしれないと思って」と言う彼女は、まずヴィンテージコレクションやオークションハウスをあたり、例のルックを探し出す期間を設けた。だが、自分が予め決めていた捜索期間が半年を切ったところで諦めるしかなかったと言う。そこでプランBに変更。「自分なりにアレンジすればいいのでは?と思ったんです。自分が本当に欲しいドレスを、自分で作ってしまおうと。好きなブライダルやクチュールのデザイナーたちからちょっとずつインスピレーションを得て、本当にユニークな1枚を作ろうと思ったんです。結果、クリエイティビティの幅が広がりました」
「まず、生地探しから始めました。自分がイメージしている構造や形、そしてシルエットを実現させるには生地が鍵になると思ったので、そこから始めましたね。あとは、トルソーを使って制作するのが好きなので、トルソーを基準に形にしていこうと思いました」とツイスクは説明する。「それと同時に、コルセット部分にも取りかかりました。布地が多いデザインだったので、ボディラインを出すにはウエストをできるだけ細くしなければならなかったんです」
自分の体に合わせてドレスを調整するのは、決して簡単なことではないと察したツイスクは、パタンナーのレア・C・ワレルの協力を仰いだ。ほかにもクレージュ(COURRÈGES)でデザイナーを務めている友人のイェンス・カイヴァースにデザインについて相談。同じくファッションデザインの経験がある友人のアデル・ロレンツォにはボディスの装飾を担当してもらった。「まるで学生時代に戻ったみたいでした。みんなドレスそのものにワクワクしていましたし、とても刺激を受けていました」
最終的にドレスはコルセット、トップ、バブルスカートの3つのパーツに分けられた。中でもツイスクが製作中に最も気にかけたのが、シルエットのプロポーションだ。「プリンセス風にはしたくなかったんです。目指していたのは、あくまでもオートクチュールのドレスですから」。スカートにボリュームを足し、膨らませた生地の重さを支える構造にするために役立ったのは、昔ながらの技法だったとツイスクは語る。「当初は、チュールを何枚も何枚も重ねて使おうと考えていたのですが、このやり方だとどうしても崩れてしまうのです」。そしてさまざまなクリノリンを試した後、フープスカートを作ることにした。「崩れることもなくて、バッチリでした。フープスカートはちょっと敷居が高そうで、私も取り入れるのをためらっていたんですけれど、実際はすごく簡単でした。とても満足のいく仕上がりになりました」
理想のドレスが実現できたものの、式直前には不安も
結婚式当日、ゲストたちはパリから30分の郊外にあるシャトーの敷地に集まった。婚約者のリンベロプロスにはかなりボリュームのあるドレスだとは予め知らせていたものの、式の直前にそのデザインを不安に感じ始めたとツイスクは言う。「ちょっとやりすぎたかもしれない、と思ったのを覚えています。かなり大がかりなものになってしまったので。でも、みんなすごく喜んでくれて、励ましてくれました」と振り返る。「『考え過ぎ。1年間も思い描いていたデザインをちゃんと実現できたのだから、自信を持ちなさい』と自分に言い聞かせましたね」。そしてシャトーの扉が開き、ツイスクがゲストたちの前に現れると、全員が思わず息をのんだ。「あっと言わせるとはあのことですね。大絶賛でした!」
また披露宴では、別の自作ドレスを着用。ギリシャ風のシルエットとドレープが特徴の「セクシーだけれどしとやか」なスタイルの1枚だ。「同時進行で、ディナー用のドレスも作っていたんです。あのウエディングドレスでは食事をするのもままらないと、はじめからわかっていたので」と話すツイスクは、ウエディングドレスをキレイな状態で保管しておきたいという思いもあり、お色直しをすることを決めたそう。「挙式後は動きやすいレセプションドレスに着替える人が増えてきていると思います。バッスルが付いているドレスでもボリュームはありますから、気兼ねなく動き回れる1着が欲しかったんです」
今は自宅のアパートに展示してあるという自作のウエディングドレス。これが最初で最後のブライダルデザインになるかと思いきや、ツイスクにとっては始まりにすぎず、現在はほかの花嫁のためにオーダーメイドのドレスを制作している。「(ウエディングドレスのデザインは)ハードルが高そうでずっと手を出せずにいたんですけれど、今ではとても楽しいです」と話す。「最近は、ブライダルドレスに対する考え方がとてもオープンになりました。自由度が高くて、できることがたくさんあります。とてもうれしいことですね」
Text: Shelby Wax Adaptation: Anzu Kawano
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