コメディからシリアスまで、さまざまな作品で幅広いキャラクターを演じる山本美月さん。年齢やキャリアを重ねたことで変化した現場への向き合い方や、仕事にプライベートにと頑張る同世代の女性たちへのメッセージを伺いました。
「完璧を目指さなければいけない」と思っていた
――俳優としての活動を始めたのが2011年。この14年の間にさまざまな話題作に出演し、キャリアを重ねてこられましたが、撮影現場に臨む姿勢は新人時代と比べて変わりましたか?
山本美月さん(以下、山本): 以前はとにかく「しっかりしないと」と思い、自分のことでいっぱいいっぱいになっていましたが、最近では少し周りが見えてきたような気がします。現場でお会いするスタッフさん一人ひとりとお話しさせていただく時間も増えてきました。
――現場を見渡せるだけの余裕が出てきた、ということでしょうか。
山本: うーん、そうなのかもしれませんね。それに「完璧を目指さなければいけない」と自分を強く律する気持ちが、少し緩んできたような気がします。以前は「もっともっと頑張らなきゃ」と力んでばかりいたのが、今は少し、ありのままの自分でいいのかもと思えるようになり、肩の力を抜くことができる。自分に対して、良い意味で諦めがついて、ここまでできたらオッケー、と自分を許すことができるようになったというか。それは結婚して子どもができたことも影響しているかもしれません。
――どのような変化がありましたか?
山本: 「ひとりじゃない」と安心感が生まれました。自分に何かあったとき、しんどいときに、絶対に味方でいてくれるチームができた。その分、仕事に対しても少し気持ちにゆとりができたのか、良い向き合い方ができている感覚です。
結婚はタイミング。「いつか現れるかもしれない」
――telling,の読者は、仕事とプライベートの間でも悩むことの多い年代です。どちらに力を注ぐべきか悩んでいる同世代の方に、アドバイスをいただけないでしょうか。
山本: 仕事とプライベートはどちらも大切なもの。でも、さまざまなことを決断していくにあたっては、自分がどんなことに対して幸せを感じるのか、自分の気持ちに素直になって良いのではないかなと。仕事に全力を注ぎたいと思うのであればとにかく仕事を頑張るのも良いし、プライベートも充実させたいと思うなら自分の優先順位をちゃんとつけていくのも良い。それぞれの気持ち次第で、自分の人生を決断していけばいいのかなと思います。
ただ、結婚はタイミングもありますよね。自分が家庭を持ちたいと思ったときに、たまたま大切にしたい相手が現れたなら、それはもう運命かなと。でも、現れないからといって、あまり自分を追い詰めても良いことはない。「いつか現れるかもしれない」くらいの気楽さがあってもいいんじゃないでしょうか。
「美月ちゃん」から「山本さん」へ
――自分を追い詰めすぎずに、他の誰でもない自分にとっての優先順位を大切にしていく。一方、30代を節目に、周りから変化を求められているような気持ちになってしまう読者も多いようです。山本さんは、30代に入ったときに周りの目の変化を感じませんでしたか?
山本: 30歳になった瞬間に変わった、とは思いませんでしたが、だんだんと周りの方からの見られ方が変わっているのは感じます。その一つとして、それまで現場では「美月ちゃん」と呼んでいただくことが多かったのですが、最近では、「山本さん」と呼んでいただくことが増えた気がします。
あとは、年齢を重ねたことで、できるようになったこともあります。最近、意見を言葉にして伝えるようにしています。そうすることで、以前よりもさらにチームの一員として撮影に向き合えているような気がします。
――なかなか若手時代にはできないことですよね。
山本: 今までできていなかったことなので、意見を伝えるのは勇気のいることでもありますよね。もっと良い方法がありそうだなと思うことは、現場の方たちと相談していけたらなと思っています。もちろん何でも意見を言えば良いのではないと思うので、まずは身近な人に相談して客観的な意見を聞くなどしながら、伝え方も気をつけるようにしています。
――忙しい毎日を送っていらっしゃいますが、今一番やってみたいことは?
山本: うーん、なんだろう。今は、なかなかひとりの時間をもてないので、ひとりで旅行に行きたいですね。コロナ禍以降、プライベートで海外にも行けていないので。あー、でも、旅行以外にもいろいろとやりたいことがあります。植物の世話をしたり、ダラダラとアニメを観たり、編み物をしたり……。そういう時間が、今は一番欲しいですね。
■塚田智恵美のプロフィール
ライター・編集者。1988年、神奈川県横須賀市生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後ベネッセコーポレーションに入社し、編集者として勤務。2016年フリーランスに。雑誌やWEB、書籍で取材・執筆を手がける他に、子ども向けの教育コンテンツ企画・編集も行う。文京区在住。お酒と料理が好き。
■品田裕美のプロフィール
1983年生まれ。出版社勤務を経て、2008年 フリーランスフォトグラファーに。「温度が伝わる写真」を目指し、主に雑誌・書籍・web媒体での撮影を行う。