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【静岡市葵区】7000年を駆けてきたメキシコ伝統料理「エル・ポジート」

  • 2025.2.26

「あ!ショーン」特派員から、第三弾をお届けします。 灼熱の太陽が大地を焼き尽くす国、メキシコ。ラテン特有の大らかさと、死を敬慕する「死者の祭り」の奇特さを兼ね備える国。この地に当時20歳のセニョール千頭和が降り立ったのが30年前。バックパックを背負い放浪の旅の果てに出会ったのが、悠久の古代マヤ文明からの起源を持つメキシコ料理。千頭和メキシカン・シェフ誕生の起源でもありました。

出典:リビング静岡Web

店舗壁面の木製の看板に、伝統のメキシコ料理とTEX-MEX料理があることが掲げられている

20年前。初めて入ったエル・ポジートは賑やかなラテンの風が吹き抜けていました。 アジアにはない独特の香り。以前都内に居る時、イタリアンとメキシカンの味と香りの違いに疑問を抱いていました。同じような食材(トマト、ガーリック、オニオン、チリー)を使っているのに何故かテイストが全く違う。メキシカンのまろやかさは何の味だろう?何種類ものハーブを試してパスタ、pizzaに使っている内に、「ユーレカ!」発見したぞ、クミンだ!メキシカンの味の基本にはクミンの香りがあることを突き止め、それから、家で作るチリビーンズには、必ずクミンシードを欠かさず入れました。

私の選ぶ一番手。「エル・ポジート」のチリビーンズ、”チリ・コン・カルネ” :Chilli Con Carne 驚きはインゲン豆がコリコリとして崩れない。自分が作るとインゲン豆の一種、金時豆は柔らか過ぎて崩れそうになる。

出典:リビング静岡Web

MEX-TEX料理の王道。あの刑事コロンボの常食「チリコンカルネ」とトルティーヤを揚げたナチョチップス

TEX-MEXは、伝統メキシコ料理を凌駕しているか?

シェフに聞いてみる。私は豆を一晩水に浸けてから、煮る事を伝える。 「和食では、豆は使う前に水に漬けるけれど、チリコンカルネは水の中に直接レッド・キドニー・ビーンズ(インゲン豆)を入れてから煮るんだよ」と。 時間の掛かる所業だ。砂漠で、日没前から焚き火を起こしてテラコッタ(素焼き器)で煮ている情景が見えるよう。ゆったりとした時の流れを感じる一品。 店内客席は、厨房を正面に見るカウンターが中心。色とりどりの原色のデザインのメキシコの絵皿の列だけがカウンターと厨房の境界線を形作っていて、客と提供するものの一体感が溢れている。 それでは、他の料理も見てみましょう。

2番手チョリッソ:Chorizo オーセンティックな伝統メキシコ料理。今まで食べてきたチョリソーと思っていたものとは一線を画す食感。他と何が違うか、歯応え抜群の噛み応え。そして濃いめのソースとスパイスの効いたテイスト。噛むたびに、メキシコの焼き尽くされた大地の脈動が感じられる。

出典:リビング静岡Web

3番手、タコス:Tacos 一般のカリッとした皮のトルティーヤのタコスは伝統メキシカンではなく、”TEX-MEX料理”(アメリカ風メキシコ料理もしくはテキサスのメキシコ風料理)のこと。実は、上記チリコンカルネも同じ、テックスーメックス料理。伝統メキシカンではない。メキシコ料理はタコスの皮が柔らかいものを使用。そしてこの伝統メキシコ料理は、2010年ユネスコ無形文化遺産に認定されている。

出典:リビング静岡Web

4番手:ケサディーヤ Quesadilla

タコスより具材(フィリング)の多いアントヒートス(トウモロコシなどを使って作る生地"マサ”を使った郷土料理) 一皿食べると、もう満腹。濃厚なサルサソースの味とクミン、コリアンダー等ハーブの効いたフィリングが口の中で溶け出してトルティーヤの皮を爆発せしむかのようだ。

出典:リビング静岡Web

なんといっても店の元型(アーキタイプ)は、人が創る

「この料理出していいでしょうか?」と、スタッフのアルバイトの学生が聞く。「どう思う?完成かな?」シェフの声。「出しますよ!」と、バイトの子。見ると綺麗に形作られた、メキシカン・タコスが装飾絵紋様のお皿に盛られている。「持って行っていいよ。でもそれ、君の賄いなんだ!」と、満面の笑顔のシェフ。どっと笑うスタッフ達。この店では、シェフとバイトの間でのやりとりは微笑ましい。発する声の内容はよく聞こえないが、スタッフの顔に現れる、にこやかな顔を見れば店主とスタッフの良好な関係が見て取れる。私が何度も何度も来るようになったのはもちろん料理の美味しさもあるが、この醸し出された和やかな温かさに浸るためも大きい理由。この店にはラテンのスピリッツが満ちている。しかし、真摯なスタッフの無駄のない動きとシェフの洗練された盛り付けの美的センスの良さも持ち合わせている。

「僕は、料理を作るのが好きなんですよ」と、私の投げかけた質問、”仕事中つらい時はどうしてるんですか?” に答えたシェフの顔には全くの憂いも見られませんでした。確かに千頭和シェフはいつでも、料理中とてもニコニコして楽しそうだ。「そして、新しく入った若いバイトの子達に一から教えるのも好きなんです」(第二弾、キッチンきねやさんで聞いたセリフと同じだー)「僕は、バイトの学生さんを雇うとき聞くんです。何か、心に引っかかっている事あるかい?って」それは、心に心配事があると仕事への集中が外れ、時間を楽しめないのがもったいないと思うシェフの気概ある言葉でした。嫌なことがあっても直面していくことの出来る器を育てたい。同時に、生を楽しむ心の余裕をも培いたい。シェフの大らかさ、楽天的な側面がこの店に季節性熱風、”サンタアナ”を呼び込んでいるようです。

出典:リビング静岡Web

アガペ(メスカル中のテキーラの原料の竜舌蘭)畑に立つ、メキシコ放浪時代の現地人のようなシェフ(右)

カール・グスタフ・ユングの打ち出した元型論(アーキタイプ)は人間の気質のイメージ・象徴の分類化が対象だが、この店自体に流れているラテン気質も一つのアーキタイプを形作っている。男性の中の女性性(アニムス)、女性の中の男性性(アニマ)。両方が程よく混在し、陽気な”場”を創り出している。千頭和シェフは、「いま」に全力を尽くしていながら、ゆとりが感じられるのは、まるで高速回転のコマ。料理の提供に全身全霊を賭けている。そんな料理を食べれるのは至福の限り。まだまだ食べていない料理がある、満足のいくまで極めて行こう!時間のかかる旅だ。ラテン・スピリッツと合一するまで。

”彼らは自分でしていることが、地上での最期の戦いであることを十分承知の上で行動する。その為、彼らの行為には力があり、焼き尽くす程の幸福感があるのだ” メキシコ・ヤキ・インディアンの言葉。『イクストランへの旅』(カルロス・カスタネダ)

”Vaya Con Dios,Amigos!"(バヤ・コン・ディオス、アミーゴ!「神のみ恵を、皆に!」)

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