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映画『世界征服やめた』北村匠海監督×萩原利久「似ている自分たち」言葉ではない伝え方ができる稀有な俳優【独占インタビュー】

  • 2025.2.4

北村匠海萩原利久の出会い、後に深く結びつく縁のきっかけとなったのは、堤幸彦監督による映画『十二人の死にたい子どもたち』での共演だった。2019年に公開された当時の印象について、二人はインタビューでまるで先日起きた出来事のように嬉々として語り合った。あれから6年。俳優としてさらに研鑽を積んだ両者は、『世界征服やめた』で監督・脚本・企画と俳優というポジションで交わることになる。

本作は、2011年6月に不慮の事故で亡くなったポエトリーラッパー、不可思議/wonderboyの同名曲に強い影響を受けた北村が、自ら脚本を書き下ろし初監督を務めた強い思いの乗った1作。藤堂日向とともに本作に出演した萩原は、北村の世界観を具現化し、その世界の住人となる。生きるとは、死ぬとは、人生に渇望する萩原演じる“彼方”の声にならない叫びが、いつまでも胸に残る。

FILMAGAでは北村&萩原に独占インタビューを実施。俳優仲間という範疇を超え、気持ちを一つにする「似ている」二人の語りをお届けしたい。

北村さんの初監督作にて、萩原さんは彼方という役を演じています。お二人の出会いは『十二人の死にたい子どもたち』(以下、「十二人」表記)での共演ですが、当時、北村さんにインタビューした際も萩原さんの演技を手放しに絶賛されていましたよね?

萩原:え、そうなんですか!?(北村監督に)そうなの?

北村監督:僕は当時からずっと「利久くんがすごかった」と言ってたよ。

演技面で全幅の信頼があったので本作のオファーに至ったのかと思いますが、経緯を教えていただけますか?

北村監督:はい、もちろんです。「十二人」のときは自分が20~21歳で、ちょうど「キミスイ(君の膵臓をたべたい)」の後でした。そんな頃に、同世代の12人、正確には13人だけでお芝居できる環境の作品に出演して、どういう刺激をもらえるんだろうと当時すごく楽しみだったんです。

今観返しても、すごく豪華な競演ですよね。

北村監督:そう思います。その中に利久もいました。彼だけは初めて芝居しているような感覚でいたんです。当時の僕は、下の世代との共演が少なくて。そのとき、「めっちゃいい役者だ……」と思ったのが利久でした。明確に屋上のシーン、あの撮影のときに思ったんですよね。

萩原:そうなんだ……!

北村監督:そう。利久は吃音症のある役で、そこに対するトラウマの表現の仕方、咀嚼の仕方に感心しました。何より良い意味で頑張っていない感じがよかったんです。

頑張っているのだけど、他人から見て「めちゃめちゃやってるな」とわからないところ、というニュアンスですよね?

北村監督:はい、そうです。頑張りが見えないことは、僕にとってはすごく大事で。僕自身、基本的にすごい「やってまっせ」とやらないようにしているところがあるんです。芝居にしちゃいけないというか。カメラ前で芝居をするけど芝居していない、みたいな。そういうニュアンスを、しかも吃音でああいう表現をしていたのがすごかった。とどめに利久の年齢を知って「え、年下!?」と衝撃を受けた!

萩原:ははは(笑)。

北村監督:「マジかあ……」と思っていたのが、当時「十二人」のときでそれが出会いです。

それからずっと注目されていたのか、交流があったのか、という感じでしょうか?

北村監督:そこから友達やらしてもらっています(笑)。波長も合うし、なおかつスタイリストさんも一緒で。「最近、利久やってるよね?」とスタイリストさんに聞いたら「まあ、匠海と同じ感じだから」と言われましたし(笑)。

萩原:(笑)。

本当に仲良しですね、似ていらっしゃるんですねぇ。

北村監督:そうそう、似てるなって勝手にすごい感じています。

そして、本作ではほぼあて書きのような形で、萩原さんに決定したということですね。

北村監督:自分の中では決まっていて、出演者の二人のうちの一人を担ってもらいました。脚本を書いていくと、彼方に自分を重ねていく瞬間がすごく多かったので、途中で「これはもう自分がやるべきなのでは」という感情に至ったほどでした。そんな中でも、利久ならと思えたんです。

これまでの役者人生で、自分は実はあまりセリフをもらってこなかったというか。僕が見ている限り、芝居や作品を僕と同じ角度で見ている人は利久しかいないだろうなと思って。だからしゃべらないでもやれる、「彼方ができるのは利久だけだ」と確信を持ちました。

姿形や目線で語れる、佇まいで表現できる役者ということでしょうか。

北村監督:彼方に一番大事なのは、歩きで伝えなきゃいけないところだったんです。

萩原:うん、うん。

北村監督:歩いている様(さま)、歩みが止まるとは、どういうことなのか。そこからまた歩み出すとは、どういうことなのか。そこがとにかく大事だったので、利久の身体的な部分も含めて絶対にいいなと思っていました。

ここまで北村さんサイドから語っていただきました。萩原さんの視点からも同じように伺いたいです。

萩原:はい。匠海がお話したように、正式な出会いに関しては「十二人」で「初めまして」でコミュニケーションを取るようになりました。けど、僕は一方的にずーーっと知ってはいたんです。10代の頃、同じオーディションにむちゃくちゃ行っていたんです。とにかく匠海が強くて、全部持っていくんですよ!

北村監督:よく……言われていました(苦笑)。

北村さん、オーディション荒らしですね!

萩原:「北村匠海がまたいる!ああ、いんのかあ……」みたいな覚え方でした。だから「十二人」をやるときにも「北村匠海がいる!」となったんですよね。いつもオーディションでは同じ役で競っていたので、それぞれ別の役で共演できて、しかもきちんと絡みのある役だったからすごくうれしかったです。僕はすごく意識していた……と言うと変ですけど、匠海という存在はやっぱり大きかった。自分のモチベーションでもあり、「一体どんな人なんだろう」と興味もあったので、とにかく気になっていました。

お互いに惹かれ合うような出会いだったんですね。

萩原:そう思います。出会ってからは、匠海の言っていた通りです。スタイリストさんの件もあって、日常的に匠海という存在を聞くようになったので、いつ会っても久しぶり感はないんですよ。

北村:わかる!

萩原:近況をずっと聞いているから。それに本当に波長が合う。口で言うのは簡単ですけど、想像以上に合うんです。各々がそのときいる場所や環境、そのときやっていることはあまり関係なくて、いつどこで会っても変わらなくて同じ流れをしてるんです。僕、すごい好きで。

本作に出演するとなり、萩原さんは同業として・友人として、どう受け止めたんですか?

萩原:正直、匠海の作った作品に出る日が来るのは想像していませんでした。匠海が脚本を書き始めた頃にごはんを食べていて、「撮りたい」という話を聞いたんです。まだスタートした段階とかだったのかな?そのときは「いやー、そんなん絶対出るよー!!」みたいな、それくらい軽い始まりでした。「いつか本当にやれたらいいな」というふわっとした思いでした。

そうしたら、想像以上に早く正式なオファーが来て、そこで初めて「めちゃくちゃちゃんと動いてるし、本当に来た!!」みたいな。すごく嬉しかったのと同時に、若干の緊張感が走りました。

初めて脚本を読んだときは、どう感じましたか?

萩原:「うわあ、これは試されてるのか!?」と思いました。

北村監督:(笑)。

萩原:先ほど匠海が言葉で表現させてもらえなかったことを話していましたけど、やっぱり僕にも同じ経験があるんです。かつ彼方に関しては、びっくりするくらい本当に言葉がなくて。改めて、普段お芝居する上でも言葉はなんて便利な表現ツールなんだろうと思いました。ザーっと書いてあると、情報の大半を成立させてしまっているんです。いざなくなったときに、そこが(表現)できないと、本当に何をしているかわからないし、何も見えてこないと思いました。彼方という子にとって、言葉の優先順位がたぶん高くなく、言葉よりももっとほかの表現ツールがこの子の場合はあるのかなと思っていました。

そうした複合的な意味で、めちゃくちゃ試されてるなと、脚本を読んだときの率直な感想です。だから、今日の話とかは後から聞けて良かったなって。

期待がかかりすぎるから、でしょうか?

萩原:そうです……先に聞いていたら、勝手に潰れていたかもしれないので。

北村監督:うんうん。

萩原:「やばいやばい!これ絶対なんかしないとやばいかもしれない」って。

北村監督:何も与えられないと不安になるんですよね。「何かしないと」になっちゃうとね。

萩原:そう! 何を待っているんだろうとか、何を見たいんだろう、この人は、と。今振り返れば、うまく隠してくれていたのが助かったかもしれないです。

今のお話で言うと、北村さんは萩原さんに対してあえて言わない、多くを渡さないようにしていたと。意識されてしていたことですか?

北村監督:そうですね。何も与えられない役というのは、自分本位で物事が進んでいかないんです。それで言うと、日向のほうには芝居の提案をしました。僕は利久のことを受けのプロフェッショナルだと思っているから、日向の芝居に対して、勝手に受け取って返すだろうなって。それは日向をキャスティングした理由にもつながってくるんですよね。彼は芝居(をすること)に渇望しているので、芝居をさせてあげるというアプローチを取りました。あえて芝居臭く見えることもさせてあげて、その球を利久が受け取って綺麗に投げ返してくれるだろうと。それで、この二人の会話が成立するところもあったので。だから利久にはほぼ何も言わず。ね!!

萩原:そわそわしますよ~、何も言われないっていうのは(笑)。すっと匠海が視界を避けて、日向くんのほうへ行って何か喋っているんですよ。それを遠目で見て、「なんかやってる……!」って。

北村監督:逆に利久のこの部分を引き出したいと思ったときは、日向に行くという。

監督業ならではの面白さですよね。様々なことを緻密に組み立てながら、そうして対役者にはベストな芝居をしてもらうためにアプローチを変えていくという。

北村監督:そうでした。利久も同じだと思うんだけど、自分が今まで本当にいろいろなディレクションを受けてきた中で、何が気持ちいいか、みたいなのをすごい探すようにしました。これまで頭を抱えるような演出も受けてきましたし(苦笑)、でもそれが蓋を開けてみると正解だったこともあったんです。僕はとにかく遠回りしていくアプローチというか、直接的に「ここは悲しい」とかを絶対に伝えないようにはしてやっていました。

萩原:その演出法は怖いけれど、やっぱり楽しいんです。匠海が演者をやっているからか、本番にアジャストするのがすごく上手でした。初見をちゃんと本番に当ててくれるんです。僕は日頃から鮮度と戦っているんですけど、その鮮度に対するストレスがこの現場では本当になくて、日向くんがぶっ飛ばしてくるものを本番中にありのまま受けることができました。目の前で起こっているものだけにフォーカスできるのは、すごくありがたかったし面白かったです。本番だからの緊張感もありつつ、カットがかかる瞬間まで「どうなるんだろう」というのが絶えずあり続けるのは、経験しようと思ってもなかなかできるものではなかったので。匠海をはじめとしたスタッフさんたちのご準備のおかげだと思っていますし、めちゃくちゃレアな現場でした。読者の皆さんに、早く匠海の作品を観ていただきたいです。

(取材、文:赤山恭子、写真:映美、北村匠海・スタイリスト:Shinya Tokita、ヘアメイク:佐鳥麻子、萩原利久・スタイリスト:Shinya Tokita、ヘアメイク:カスヤ ユウスケ)

(北村匠海衣装:ニット ¥110,000 ベルト ¥41,800 ともにユーゲン(イデアス) パンツ ¥33,000 サバイ(イボルブ) シューズ ¥88,000 ティド、萩原利久衣装:シャツ ¥57,200 フルス パンツ ¥49,500 メイカム その他スタイリスト私物、問い合わせ先:イデアス(03-6869-4279))

映画『世界征服やめた』は2025年2月7日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開予定。

出演:萩原利久、藤堂日向、井浦新(友情出演)
企画・脚本・監督:北村匠海
公式サイト:https://sekaiseifuku-movie.com/
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
(C)『世界征服やめた』製作委員会

※2025年1月20日時点の情報です。

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