進学や進路に悩む中高生に向けてのメッセージ。
今回は、APOLLO BEAUTY CLINIC院長の鬼沢正道先生に、医師を目指したきっかけについてご自身の経験を交えてお話しいただきました。
医師を目指したきっかけは?
私は都内でクリニックを開業して5年になる医師です。受験や進路指導の専門家ではありませんし、教師でもありません。
このテーマを頂いた際、進路や進学に悩む中高生とその保護者の方々に対して、私のような専門家でない人間がどのようなアドバイスができるか、最初は不安で仕方がありませんでした。もしかしたら無知な私が、今進路や進学について真剣に悩んでいる方々に偉そうなことを言ってしまうのではないか。
まず最初にこのような懸念を感じました。それと同時に、20年以上前、まだ何も知らなかった若い私の記憶と、現在の私の交友関係が脳裏に浮かびました。
進路決定に際して、「あの時もっとこうしていれば」と後悔していることはいくつもありますし、「的確なアドバイスをくれる周囲の人々がもう少しいてくれれば」と自身の環境を悔やんだこともあります。
そんな私の拙い体験談を踏まえ、どう伝わるか不安ではありますが、少しでも進路や進学に悩む方々の励みになればと思い、僭越ながら筆を走らせています。
私が医学部受験をしたのは20年も前の話になりますので、医学部受験のノウハウを書くつもりは微塵もなく、単なる私の体験談が中心となり、少し偏った内容になってしまうかもしれませんが、何卒ご容赦いただければ幸いでございます。
1.進路を決定するのは、自発的であることがモチベーション維持に深く関わる
私が人生で初めて受験をしたのは、もう25年も前の話、高校受験の時になります。当時はインターネットやS N Sが普及しておらず、片田舎であり図書館や本屋にも疎遠であったため、進路の情報を集めることも一苦労でした。
結果、私の人生初の進路決定はまさに担任教師の言いなりでした。現在の学力で合格しそうな高校をピックアップしてもらい、地元の公立高校1本に絞って受験しました。
この時私には2つの安心感がありました。一つは、学力的に合格はほぼ間違いないということ。もう一つは、地元なので同級生や先輩方も普段から慣れ親しんだ仲の友人ばかりだったという安心感です。自分の将来の進路なんて全く頭にはありませんでしたし、知るよしもありませんでした。「将来のことを考えるのは杞憂で面倒なことだから後回しにしよう」という気持ちが強かったのです。
自発的に進路を選んでいない私にとって、高校生活はあまり刺激のない空虚なものに成り果てました。高校を卒業後、あてもなく上京した私にとっても空虚な日々の連続でした。しかしそんな私の空虚な生活が一変する出来事が訪れます。それは、人生で初めて自発的に自分の進路を決定したということに他なりません。
きっかけは下宿先で足を怪我し、病院を受診し医師の診察を受けたことです。そこで初めて私の中で医師になりたいと思う気持ちが芽生えたのでした。自発的に「何かになりたい、何かを目指したい」と思ったのは、この時が初めてでした。
何かの目標に向かって初めて自発的に行動し始めた私は、以前の空虚な私とは違い、将来のことを考えるのが杞憂で面倒だなんて微塵も感じなくなりました。
もちろん受験勉強は大変で苦労した記憶があります。しかし人生で初めて自ら目標を立てて挑んだ受験は、私にとって大きな挑戦であり、高いモチベーションを保つことができました。
これが能動的に決定した進路ではなく、受動的に誰かから決められているものだとしたら、少なくとも私は相変わらずつまらない日々を送り、モチベーションが維持できなかったと感じます。
受験は幸い運よく合格することができましたが、仮にこの結果が不合格であったとしても、私は納得してその結果を受け入れることができていたと思います。それもおそらく、私が自発的に端を発したからに他なりません。
医師の中には、自発的に医師を志した人ばかりではありません。ご両親が医院を開業しており、それを継ぐために医師を志したという人も中には存在します。その人達の進路に対するモチベーション維持はとても大変だったとよく聞きます。
常に「本当はもっとやりやいことがあるのに、これで良いのだろうか?」と自問自答しているのです。私は何の柵もなく自ら医師を目指すことができ、幸いにも現在まで自分のやりたいことを仕事にできているので、今でもとても幸せに感じています。
何かを志すときに、その動機なんて何でもいいと私はいつも思っています。しかしそれを叶えるためにはモチベーションの維持は非常に重要です。
いつか誰もが、遅かれ早かれ自分の進路を決定しなくてはなりません。その時、「本当に最後までそれを納得してやり遂げることができるか?」とぜひ考えてみてほしいのです。それが自分で決めたことであれば、きっと最後まで諦めずにやり切ることができるでしょうし、結果に対して納得して受け入れることができると思います。
2.進路の選定それに向かって努力することに対して、周囲の環境やサポートは極めて重要である
将来の進路を決定するにあたり、環境因子というのは非常に大きな要素です。
前述した通り、私は進路を決定するにあたり圧倒的に情報が不足していました。医師になりたいと考えることは簡単です。しかし具体的にどのくらいの学力があれば医師になれるのか、どうやって勉強すれば良いのかなど、当時の私には知る由もありませんでした。
近所や周囲の友人にも医師になった人はいませんでしたし、私には良き相談相手がいませんでした。今思い返すと、これはとても孤独でストレスフルなことだったと思います。まさに「五里霧中」といったところです。
医師を志すことが難関で、しっかりと勉強しなくてはいけないということを人生のもう少し若いうちから知っていれば、早めに長期的なプランを立てることだってできたはずですし、自分で決めた目標を修正することもできたはずです。
私はこの時初めて「周囲に同じ医学部受験を目指している同級生がいればどれだけ心強いか」と思いました。そのような同級生と人生の早い段階で出会うには、もう少し早いうちから勉強して、そんな同級生がたくさんいる学校に進学していればよかったとも考えました。
具体的な進路や目標が定まっているかどうかはさておき、中高生の段階から進学校を受験し勉学に勤しむというのは、ある意味このような問題を解決するには理にかなった方法です。
というのも、早い段階で学力的に同レベルの同級生、先輩、後輩と共に生活することで自分一人だけ情報弱者に陥ることを未然に防ぐ可能性が高いですし、全員同じ方向を向いているので、少なくとも向こう数年は学業に対するチベーションを高く維持できます。切磋琢磨する優秀なライバルの存在もまた、自身のレベルアップには欠かせない要素です。
もちろん、勉強以外にも同じことがいえます。例えば将来プロスポーツ選手になりたいと思った子どもが一人黙々と練習するよりも、地元のスポーツチームに入ってライバルや仲間と共に精進した方がレベルの高い練習ができますし、仲間やチームプレイの大切さに気づくことができます。
幼少期からの身体づくりのノウハウを知っている大人や、プロスポーツ選手になるためのノウハウを知っている大人と触れ合う機会もあるかもしれません。私が経験した「無知であるが故のストレス」は多少なりとも改善されるはずです。
私は決して「子どもには幼少期からエリート教育をさせるべき」と言っている訳ではありません。あくまで進路決定に関する「五里霧中」を、人生の早い段階から解消してあげられるような環境づくりが重要ということです。
その方法は進学校に通わせる以外にも無数の選択肢があります。さまざまな選択肢の中から、子どもにとって有益な環境整備をしてあげることこそ、大人にとって重要な役割であると考えます。
3.決定した進路の先にある未来のイメージが明確であればあるほどモチベーションは高まる
またまた私の話で恐縮ですが、私が幸運だったのは、志した医師という職業が比較的イメージしやすい職種であり、そうであったが故にモチベーションを維持できたということです。
「医者ってどんなことするの?」と考えたときに、仮に医師でない方でも仕事内容は容易に想像がつくでしょう(たくさんの医者モノのドラマを目にしたことがありますよね、現実はあんなふうにはいきませんが)。私は医師になった時の自分の人生像をある程度想像できたからこそ、それに向かって努力するモチベーションが保てたのだと思います。
もしこれが全く想像もつかないものだったとしたら、「本当にこれを目指すのが幸せなことだろうか?」と、きっと何かしらの言い訳をして諦めていたような気がします。
どんな進路であっても、(例外を除き)その進路を辿った先人達がいます。その先人達がどのような生活をし、どのように社会貢献しているかを知り、それを将来の自分に当てはめて想像してみることはとてもワクワクすることで、大きなモチベーションに繋がるはずです。
余談ではありますが、私が尊敬するサッカー選手が小学校の卒業文集に書いた文章があまりにも衝撃的でした。何が衝撃的かというと、その内容が極めて明確かつ具体的なのです。
将来サッカー選手になるという目標はもちろん、今の実力は世界に遠く及ばないという現状、いずれイタリアのクラブチームと契約するということ、その時の背番号は10番であるということ、契約金が40億円であるということ(凄い!)、スポーツウェアメーカーとスポンサー契約し、自身のモデルを世界中で売るということ、将来ワールドカップでブラジルを破って優勝するということ、その時のスコアは2-1であるということ。
たった12歳のサッカー少年がここまで具体的に数値化して将来の夢(というか目標)を定めており、そこには感情論が無く、そのどれもが実現可能な数値であるということに強い衝撃を受けました。
たった数百字の文章でこれらを綴っていることにも合理性を感じざるを得ません。さらに驚きなのは、彼はここに書いた目標をほとんど達成しているという点です(契約したメーカーが異なるのと、まだブラジルとのワールドカップ決勝戦はお預けとなっていますが)。いったいご両親やサッカー指導者の方はどのような教育をしていたのでしょうか!?
10代前半の若者にここまで明確な未来をイメージさせることはなかなか難しい側面もあります。また、荒唐無稽な将来をイメージする若者も中にはいます。これを手助けし、修正してあげるのが大人の力だと私は考えます。学校や家庭において、これからの進路を考えている若者達に将来をイメージさせてあげる教育は重要です。
一夕一朝でこの教育ができることなど不可能です。ここには大人と子どもの長い時間をかけた対話が必要になりますが、私は中高生の頃、親や担任教師等の大人達と対話することがほとんどなかったと振り返っています(実際には話す機会なんてきっと山ほどあったのに、それを突っぱねていた若く愚かな自分であったことも否定できません)。これは私にとって大きなマイナスであったと今になって後悔しています。
これから進路を考える中高生の親御さんや教師の方がもしこの文章を読んでいただけているのであれば(本当に偉そうなことを言って申し訳ありませんが)長い時間をかけて対話をしてあげてほしいと願っています。
そしてどうかこれから進路を決める中高生が、明確な未来のイメージを持って進路を決定できることを心から願っています。
4.進路や目標を決定した後は、それに対して素直な心が重要である
今思い返すと、進路を決定してからの私にとって幸いだったことがいくつかあります。
1つは、当時私が無知であったが故に、進路決定のノウハウを持った大人の意見に対して素直に従うことができたということです。私の場合、市販の小難しい参考書を買い漁るより先に、高校の基礎的な教科書を引っ張り出し、予備校のプログラムを言われるがまま勉強し尽くし、その結果、無事に受験を成功させました。あの時の私は本当に素直に予備校の勉強を貫き通した結果、1年半かかりましたが難関受験を通過することとなりました。
もし私が素直に大人のアドバイスを受け入れず、自己流の勉強法を行なっていたら、きっと受験でもっと遠回りをする羽目になっていたことでしょう(あるいは医者にすらなっていなかったかも!?)。
私に学習ノウハウをくれた予備校の先生方は受験のプロです。彼らのようなプロフェッショナルに出会い、それを素直に受け入れられた私は、本当に幸運でした。
もう一つは周囲と自分をあまり比較しなかったこと。そして、そうであるが故に自身と向き合って素直に目標達成のため一直線に素直な気持ちで向かっていけたことです。
上京して本当に驚いたのは、医師を志す人々は、幼い頃から英才教育を受けているケースが多いということです。前述した通り、幼少期から進学校を受験し、その厳しい環境に身を置いている人は、受験に対する厳しさや勉強のノウハウを私より知っています。
受験は相対評価、つまりそんな彼らとの競争であるため、最初は本当にプレッシャーが大きく、「彼らのように幼少期から勉強しておけばよかった」と何度も後悔しました。
しかし現実として、それをしてこなかった自分の過去は変えようもなく、受け入れるしかありません。自身と比較しても周囲の方に圧倒的アドバンテージがあるが故、私は比較しないことを徹底しました(焦ったり悲しくなったりするだけで、現実は何も変わりませんからね)。周囲と比較しなくなった私の心はとても軽くなり、素直に学問に対して向き合うことができました。
何事にも素直になる感性は、自身を伸ばしてくれる一番の近道です。医師になってからも周囲からさまざまなご意見を頂きますが、一度それを素直に受け入れることは本当に大切です。
そして私以外にもさまざまなクリニックがありますが、私は周囲と自分を比較することはありません。あくまで私にできる最大限を、私のできる範囲でコツコツと行うことに大きな意義を感じています。大人になった今でも、この素直な感覚は患者さんの診療やクリニック経営に生きていると実感しています。
中高生ともなると多感な時期であり、大人のアドバイスやノウハウを素直に受け入れられない方もいるかも知れません。普段から素直な気持ちを心がけるようにする姿勢を心がけることが大切であると考えます。
5.目標を修正する際の大人の言葉選びや、子どもの可能性を信じ許容してあげられる大人の柔軟な頭も重要である
私は「決定した進路の先にある未来のイメージが明確であればあるほどモチベーションは高まる」と前述しましたが、では仮にこれから進路を決定する中高生が思い描く未来のイメージが荒唐無稽なモノだったとしたら、大人はどう感じるでしょうか?
私を含めたほとんどの大人はおそらく「そんなうまい話は無い、もう少し現実を見て冷静に考え直してみたら?」といったアドバイスを送ることでしょう。
しかしこのアドバイスは子どものモチベーションを著しく低下させ、下手をしたら生涯消えることのないトラウマになってしまう可能性だってあります。信頼している大人に自身の将来を半ば否定されているようなものですから(医学部受験を決めた際、両親からあまり肯定的に受け入れられなかったことを、私は今でも少しだけ根に持っています)。
特に中高生は多感な時期でもあるので、より大人は言葉選びに頭を悩まされることでしょう。目標を修正してあげる際の言葉選びは慎重になるべきであり、これは両者の関係性に深く起因します。これらの関係性も、普段から対話をどれだけ重ねられているかによって左右されるものだと思います。
さらに難しいことに、頭ごなしに将来の夢、進路を修正するばかりでもうまくいきません。なぜならば子どもには大人の想像をはるかに凌駕する可能性が眠っているからです。
例えば、仮に10年前、高校球児の子どもから「将来野球選手になりたい、メジャーで160km/hの球を投げるピッチャーになって、打率3割、シーズン50本のホームランを打って50盗塁もしたい!」と言われたとしたら私はおそらく「もう少し現実的な話をしよう」と返答すると思います。しかしこれを達成した人がいる現在では話が変わってきます。
ゲームや漫画の中の話ではなく、実在する人間がそれを達成した以上は、それが「夢」ではなく「目標」となります。もはや荒唐無稽な話で無いのです。(こんなに具体的な目標ではなかったかもしれませんが)本場メジャーリーグで投打二刀流を目標に精進した高校球児と、それを10年以上も前に前例がほとんど無い中、子どもと一丸となって目標に邁進したご両親や指導者の方々には本当に感銘を受けるばかりです。
私は「荒唐無稽な未来のイメージ」と前述しましたが、もしかしたらそれを「荒唐無稽」と決めつけるのは、私のように頭の凝り固まった大人の偏見がつくり出すバイアスなのかもしれません。子どもの話を聞く大人の頭も、ある程度柔軟であるべきだと実感したエピソードでした。
6.私の交友関係について
私には数多くの友人がいます。これは私にとって唯一の自慢です。
私の友人で、世界的に成功を収めているロックバンドのヴォーカルに、(とても失礼な話ではありますが)私が常々思っていたある疑問をぶつけてみました。
「もし自分の音楽が売れなかったら、周囲から受け入れられなかったら、自分の人生がどうなっていたか考えたことないの?」と。
この質問に対し彼は私の目を真っ直ぐ見ながら即答しました。
「考えたことなんて全くない。僕らがつくるもの、僕らがやることが世界で一番良いものだっていつでも思っているから。」と。
この質問を私の友人である他のどのアーティストに問うても、ほとんど同じ答えが返ってきます。不思議なことに音楽アーティストだけでなく、私と交友関係のあるアイドルや俳優、映画監督からも、同じ答えが返ってくるのです。
彼らは誰一人として、周りから強制されて受動的に今の進路についている人などいません。ただ自発的に進路や目標を定め取り組み、自分とは何者かを知り、将来の明確なビジョンをイメージし、素直に自分の可能性を信じ続けた結果なのです。
そしてそこにはいつも、若い自分よりも深い知見を持った大人達がいて、その大人達と長い時間をかけて対話してきたに違いありません。
私がこれまで長々と書いてきた文章は、つまりこういうことです。
きっと彼らにも苦しい時代があったでしょう。そしてこれからも苦しい局面がいくつも待ち受けているでしょう。私は芸術家ではありません。
医学という対極にある仕事をしているので、彼ら芸術家の気心は知れません。しかし彼らのつくる作品は、今までもこれからも、いつだって私たちの心に響くものであるはずです。
目標を叶えた数多くの友人に囲まれて、私は少し不思議な気持ちです。性格も性別も職業も全く違う者同士が、いったいどうやって接点をもち、ここまで仲良くなれたのかと。
それはおそらく、若い頃、自分を信じて自発的に人生を決定してきた者同士だからこそ理解し合えるのかも知れません。そういった意味では、苦労はしましたが、私は本当に幸せ者です。
これから進路を決める中高生の方々には、(押し付けがましいかも知れませんが)将来こんな素敵な友人に囲まれて過ごしてほしいと思います。
世界的に成功を収めるなんて大それたことなど考えなくても良いのです。ただ最高の自分を目指すことと、それを達成するためにはどんな進路にすれば良いのかをしっかり考え、それを少しでも知る大人達とじっくり時間をかけて話し合ってみてほしいのです。
そして将来友人に「僕らがやることが世界で一番良いものだっていつでも思っている」と真っ直ぐな目で答えられるような進路を歩んでほしいと心から願っています。
執筆者
鬼沢正道
「美容医療で世界を少しだけ明るくする」をモットーに、原宿で現在開業5年目を迎えた美容クリニック「医療法人社団賢叡会 APOLLO BEAUTY CLINIC」を経営しています。
美容外科、美容皮膚科の知識はもちろんのこと、内科的な知識を駆使して身体を内部から綺麗にしていく美容点滴や内服治療も行なっています。
元々は整形外科医でしたが、美容外科医としてもこれまで様々な経験をさせていただいております。