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チェンナイ空港周辺で出会った、インドの温もりと奥深さ。

  • 2025.2.6

⁡ーーーインドはやはり手強い。 ⁡

そう感じたのは昨年秋、人生3度目のインドに渡航した直後だった。 ⁡

妻と二人で長い旅に出ようと、タイ、スリランカと周り、次に選んだのがインド。チェンナイから入国して数日後、これまでの疲れがどっと出たのか、体調を崩した。それを皮切りに、旅のペースが狂い始めた。体調が治ってきても、なんだか思うように上手く行動ができないのだ。 ⁡

チェンナイの街は広く、どこに行くにも時間がかかる。観光するのにちょうどいい場所で、ちょうどいい価格帯の宿を探そうとしても、なかなかこれというところが見つからない。 ⁡

ホテルを転々とするも、下水の匂いがしたり、窓がなかったり、立地がイマイチだったりと、どこも難あり……。⁡そうこうしているうちに、どんどん日が過ぎていく。 ⁡

元々ほぼ無計画の旅で、タイもスリランカもその場その場の思いつきだったが、それなりに楽しんで来れた。 ⁡

しかしインドはそうもいかないようだ。3回目にして改めて思う。やはりインドは手強い。

……これがインドの沼だ。 ⁡

その状況を打破するため、僕らはあることを思い付いた。 ⁡

空港の近くなら綺麗なホテルがあるはず。

街までは距離があるかもしれないが、空港から街まで直通の電車もあったりして交通の便もいい。⁡それでも上手くいきそうになければ、勿体ないかもしれないが、すぐに飛行機で次の街へ行こう。そこで僕らは空港付近のホテルに移動することにした。 ⁡ しかし、僕らは結局腰が重いままで、あまり観光にも行けず、かといってすぐに移動することもせず、そこで2週間を過ごしてしまった。 ⁡

では、この旅においてチェンナイでの思い出はネガティブなものばかりだったのか。じつはそんなこともない。ひとつの場所に留まっていたからこそ得られた出会いの数々が、僕らに素敵な思い出を残してくれたのだった。 ⁡

今回はチェンナイ空港周辺でのなんでもないような、だけど心温まるエピソードを紹介しようと思う。

チェンナイの街中。細い路地をバイクと人が行き交う

おじさんのチャイ屋

⁡ホテルの向かいの通りには、お店がたくさん立ち並んでいた。

レストラン、小売店、携帯ショップ、宝石屋……。その中で、いつも人がたくさん集まっているお店があった。 ⁡

それが「おじさんのチャイ屋」だった。

⁡インドと言えば、チャイ。

せっかく来たのなら、美味しいチャイが飲みたい。そう思って僕らは、このインド旅で訪れたあらゆる街でチャイを飲んできたが、ここは特に思い出深いお店だった。

この「おじさんのチャイ屋」とは、僕らが勝手に呼んでいる名前だ。いつの間にか二人の間で「おじさんのチャイ屋」「おじさんのところ」「おじさん」で通じるようになっていた。それぐらい、この期間に足繁く通ったお店なのだ。

通りにはほかにも何軒かチャイ屋はあったのだが、「おじさんのチャイ屋」がいちばん人が集まっていた。訪れてみると、その人気の理由がすぐにわかった。

チャイ屋のおじさん

店先に立っているおじさんはとてもダンディな佇まいで、寡黙に、淡々とチャイを作り続けている。いかにも職人気質な怖そうなイメージ。

しかし、出来上がったチャイを受け取った僕らが「サンキュー」と伝えると、にっこりと笑って「サンキュー」と返してくれたのだ。 ⁡

その後もチャイを作っている様子を動画に撮らせてもらっていると、ちょっと照れたように笑いながら、黙々と仕事をするのだった。クールさの中に不意に見せる、はにかんだ笑顔と優しい眼差し。そこには彼の人柄が滲み出ていて、僕らはあっという間に魅了された。 ⁡

そしてもちろん、チャイも美味しい。他のお店にも行って飲み比べてみたのだが、明らかにおじさんの作ったチャイの方が美味しいのだ。

インド人ではないので偉そうにチャイを語るのは憚られるが、甘さの加減やコク、口当たりなど、あらゆる要素でおじさんのチャイは抜きん出ているように感じた。 ⁡

「チャイ屋を始めてウン十年、この道一筋ですねん」と言わんばかりの風格。しかし雰囲気だけではなく、彼には確かな経験と技術があることを感じた。 ⁡

このお店に通っていると、出勤前や休憩中、仕事終わりにおじさんの特製チャイを求めてやって来るサラリーマンをたくさん見かけた。

空港周辺の働く大人たちを支えているチャイ屋のおじさん。その姿とチャイの味に、僕らは癒しと元気をたくさんもらった。

映画館の帰り道に

チェンナイ空港のすぐ横には大型のショッピングモールがある。その中に映画館があるというので、徒歩で行ってみた。 ⁡

インドは映画文化が盛んで、国民の娯楽として大人気。最近では世界的に大ヒットするインド映画も増えてきて、ますますその熱は高まっている。 ⁡

僕らもインド映画が大好きなので、せっかくなので現地の映画館で観てみようということになった。 ⁡

どの映画がいいかわからなかったので、受付のお兄さんにおすすめを聞いてみると、彼は目をキラキラさせてプレゼンを始めてくれた。「大好きな映画をぜひあなたたちにも見てほしい。」そんな気持ちが伝わってきて、とても嬉しかった。

受付のお兄さん。 彼もムービースターのようにイケメン

僕らが観ることにしたのは、『Vettaiyan』というサスペンスアクションもの。主演はラジニ・カーント。通称・スーパースター。 ⁡

ラジニさんは、インド映画界の神様と呼ばれるほど大大大人気の俳優だ。

これまで多数の作品に出演し、どれもがヒット作。彼の発言や行動は多くの人々に影響を与え、政治家よりも影響力がある存在だと言われているとか。 ⁡

そんなスーパースター、ラジニ・カーント主演の最新作。ドキドキしながら開演を待ち、劇場内が暗くなり出すと、あちこちから「フゥーー!」と歓声が上がる。

本編が始まるとさらに盛り上がり、各俳優が登場する度に拍手や歓声が聞こえてくる。

そして、いよいよラジニ・カーントが登場。

場内のボルテージはMAXに。

その空気に乗せられて僕らも「イェーイ!」と思わず叫んだ。 ⁡

日本では映画館といえば静かに観るものなので、こんな体験ができるのは本当に楽しかった。

『Vettaiyan』

映画が終わって帰り道。

外は小雨が降っていたが、ホテルまでは真っ直ぐ歩いて15分程。どうせ帰ってもシャワー浴びて寝るだけだからと、濡れながら歩いて帰ることに。

少し歩いたところで、一台の車が僕らの横に止まった。乗っていたのは若い夫婦で、彼らはなんと僕らに、「送っていってあげるよ」と声をかけてくれたのだ。

短い距離とはいえ、濡れずに済むのはありがたいので、お言葉に甘えて車に乗せてもらうことに。

彼らも映画を観に来ていて、僕らのことを場内で見かけたという。映画がとても面白かったと話すと喜んでくれて、ほんの数分の間だったが、彼らは映画やラジニ・カーントについて楽しそうに語ってくれた。

素敵な二人

降ろしてもらうと、「また困ったことがあったら言ってね」と連絡先を教えてくれて、彼らは去って行った。 ⁡

なんて親切なんだ……!

僕らが感激したことは言うまでもない。 ⁡

後から調べると、ラジニ・カーントのファンは、「ラジニ様の名前を汚してはいけない」という意識があり、慈善活動を行う人もいるとのこと。 ⁡

ファンにそこまで影響を与えるラジニ様もすごいし、ファンも素晴らしい。

雨に濡れる僕らを車に乗せるという善行を積んだ彼らは、紛れもなくラジニファンの鑑だし、それでなくても彼らは元から心根の優しい素晴らしい人たちなのだと思う。 ⁡

彼らの優しさは、僕らの心を温めてくれた。そして、インド人とインド映画が改めて大好きだと思った。

■詳細情報
・名称:PVR Grand Galada Chennai
・住所:PVR LTD,Grand Galada Mall,Kohinoor-2 Officers Line,Grand Southern Trunk Rd,Pallavaram,Chennai,Tamil Nadu 600043

路地の夕景

⁡空港に続く大きな道路脇に「おじさんのチャイ屋」などのお店が立ち並び、ここがメインエリアのようになっている。 ⁡

その賑やかな通りから一本奥に入る道がある。

ふと気になって歩いてみると、いわゆる住宅街のような感じ。特にこれといったお店もなく至って普通の町並みだった。

⁡しかし、そこには穏やかな空気が流れていて、時間の流れすらゆっくりに感じる平和な景色が広がっていた。

道を進み、まず出会ったのは、爆竹で遊ぶ子どもたち。爆音が少し怖かったが(ビビりなもので)、ひたすら爆竹を投げては逃げる彼らの無邪気な笑い声を聞いていると、こちらも笑顔になってくる。

爆竹少年少女

周りの大人たちも笑いながら彼らを見守っている。

子どもが平和に遊ぶ風景が広がる町はいいところだ。

次に見えたのは行進する牛たち。

街の中を牛が闊歩する光景はインドのどこに行っても見られるが、この時見た牛たちは仲良く並んで歩いており、心なしか表情も優しい気がした。

きっと大事に飼われているのだろう。牧歌的な景色に心が和んだ。

牛が優しい町はいいところだ。

牛たち

他にも猫と仲良しのおじさんや、道端で談笑する人々、洗濯物を干してるお母さんなどなど。

なんでもない普通の風景が広がっているのだが、普通だからこそ胸を打つものがあった。

僕はふと日本での生活を思い出し、普通の日々こそ価値があり、大切にしなければいけないな、という思いを抱いた。

夕陽と犬

気がつくと夕方になっていて、すべての風景が夕陽に染まっていた。

そんな美しい町並みに僕はインドの多様性と奥深さを感じ、そしてこの国が好きだと思った。

どれだけ辛い思いをしようと、僕はインドが好きだ、と。

インドの温かさ

思うような観光ができなかったチェンナイ。

しかしその分、素敵な人たちと風景に出会うことができた。

それは入国早々、やられかけていた僕らの心を癒してくれるものだった。 ⁡

インドは手強い。

混沌、無秩序、雑多、危険、詐欺……。

そんなイメージを持っている人も多いだろう。

日本と比べた時に、それは100%否定することはできない。だけど、それだけがインドの姿ではない。

インド人は好奇心旺盛で、楽しく賑やかなことが大好きという一面もある。だから映画もド派手に盛り上がるし、観光客にも気さくに声をかけて仲良くなろうとする。

その気さくさが時には優しさにつながり、人助けをしてくれることもある。声をかけてくる人みんながみんな、騙そうとしているわけでは決してない。

今回、一ヶ所に少し長めに留まったことで、僕らは素敵な人や景色と出会えた。

思うようにいかない旅だったからこそ、多様なインドの内側の一部にふれることができたのだ。

このチェンナイ空港周辺は観光スポットと呼べる場所では決してない。しかし、ここには手強いインドのイメージを覆すような温かい空気が流れていた。

もしチェンナイに旅行に行き、少し時間が余ることがあったなら、ぜひこの空港周辺をぶらりと歩いてみてほしい。

大通りにはバイクがたくさん

All photos by Satofumi

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