愛着のある家具や器が映える、風通しのいい部屋作り
アルヴァ・アアルトのすこやかな家具が好き。あるいは19世紀の修道院で使われた簡素な白い皿や、早朝の静かな光。家族が愛するものを集めてまっさらな部屋に解き放ったような、清々しい空間だ。
「5年前に始めた店が忙しく、家に手をかける余裕がなくなってしまって。リセットしなくちゃと思い、昨年夏に引っ越しました」
そう話すのは、川崎市中央卸売市場内にある人気カフェ/ギャラリー〈調理室池田〉の池田講平さんと宏実さん。「20年使い続けている北欧家具やミッドセンチュリーの家具を、気持ちよく生かせる広さを」と約80㎡のマンションを購入し、北欧家具好きな建築士にリノベーションを依頼した。
まずは個室間の壁を取り払ってひとつながりにし、寝室など必要な場所だけに仕切り壁を設置。扉を極力なくし、家具の高さを抑え、見通しも風通しもよい空間とした。漆喰の白壁や濃い色のカーペットが、家具の優美なフォルムを際立たせているのも特徴だ。
そして、「飲食店では客席によって眺めや気分が変わりますよね。家でもテーブル席が2つあったら楽しいだろうと思い、キッチンの横と窓際の2ヵ所に食卓がある“ダブルダイニング”にしたんです」と宏実さん。前者にはアルネ・ヤコブセン、後者にはボーエ・モーエンセンの椅子。どちらで過ごす時も、もう一方の家具を眺められる。
「毎日過ごす場所で見るものや得た感覚が、自分に馴染むものを選ぶ目を育てるのだと思います。だから住まいには、好きなものや美しいと感じることを正直に反映させたい。画家が絵を描くのと同じ、空間作りも自己表現です」と講平さんは言う。
住み始めて半年。「そろそろ壁にアートを掛けようとは思うものの、何もない白壁があまりに清々しくて。しばらくはこの潔さを楽しむつもりです」
profile
池田講平(〈調理室池田〉オーナー)
池田宏実(料理人)
いけだ・こうへい、いけだ・ひろみ/川崎市中央卸売市場北部市場内にある〈調理室池田〉を営む。2018年にオープンした店は、講平さん(左)が全体のディレクションと2階ギャラリーのアンティークの買い付けを、宏実さん(奥)が1階カフェを受け持つ。右は今春から社会人の長男・満智夫さん。時間があれば3人でダイニングに集まり、デザインや仕事の話を延々としているそう。