Text by Ryo
1999年から外国籍ゴールキーパーの選手登録を禁止していたKリーグ(韓国1部)が、外国籍GKの登録を認める動きを見せている。
韓国プロサッカー連盟は先月26日、牙山(アサン)政策研究院大講堂で『Kリーグ外国籍選手制度公聴会』を開催。来季から外国籍守護神の選手登録が認められた場合は1998年以来27年ぶりの外国籍GK枠の復活となる。
Kリーグが外国籍GKの登録を禁止した経緯
Kリーグが外国籍GKを締め出した背景には、90年代に同リーグで活躍した伝説のGKヴァレリー・サリチェフ(タジキスタン出身)の存在があった。ソビエト連邦が崩壊した翌年の1992年に、同選手は城南一和天馬(当時韓国1部)に入団した。来韓前年のソビエト連邦サッカーリーグ1部の最優秀GKは、長い手足を活かしたスーパーセーブを連発し、すぐにKリーグ最高の守護神の評価を受けた。
そして、韓国のサッカーファンは神がかったセービングを連発するサリチェフを「神の手」と崇めた。
Nascido na União Soviética, na região onde hoje é o Tadjiquistão, Valeri Sarychev foi ídolo defendendo os arcos do Torpedo Moscou. Com o fim da URSS, o goleiro partiu para a Coreia do Sul, onde fez história no Ilhwa Chunma, clube de propriedade do controverso Reverendo Moon. pic.twitter.com/ovQBSiSC3c— Fernet Bola (@fernetbola) October 29, 2020
その後、同選手の大活躍を目の当たりにした韓国国内クラブは、東欧諸国から多くの外国籍GKを迎え入れた。1995年には当時の韓国プロ8クラブのうち、外国籍GKの選手数は6人となった。
自国出身GKの出場機会が失われつつある状況を危惧した韓国プロサッカー連盟は、1996年から段階的に外国籍守護神の出場試合に制限を設け、1999年には完全に選手登録を禁止した。
それでもサリチェフは2000年からは韓国籍に帰化し、「シン・ウィソン」として2004年までFCソウル(Kリーグ1)で現役を続けた。
日本にGKを輩出するリーグに成長したKリーグ
外国籍GKの選手登録が禁止されて以降、韓国人GKが育つ環境へと整備されていった。Kリーグクラブは若いGKの育成やスカウトに力を注ぎ、高い身体能力を備えた選手が続々と現れた。
2009年からJ1セレッソ大阪でプレーする韓国人GKキム・ジンヒョンが火付け役となり、2016年以降はGKチョン・ソンリョン(J1川崎フロンターレ)や、柏レイソルとヴィッセル神戸でゴールマウスを守ったGKキム・スンギュ(サウジアラビア1部アル・シャバブ)、GKクォン・スンテ(元J1鹿島アントラーズ)ら、Kリーグの名門で活躍した守護神がJリーグに活躍の場を移した。
昨季J1では上記したチョン、キム・ジンヒョンに、京都サンガGKク・ソンユン、湘南ベルマーレGKソン・ボムグン(2025年シーズンからKリーグ1全北現代)ら、4人の韓国人GKがプレーした。一時期のような「韓国人GKブーム」は過ぎたものの、現在もKリーグからJリーグへ守護神を輩出し続けている。
今回韓国プロサッカー連盟が外国籍GKの登録について議論を始めた背景には、Kリーグが多くの守護神をJリーグへ輩出した実績が影響したためと考えられる。
また外国籍GKの登録を禁止した当時8クラブで行われていたKリーグだったが、現在は1部と2部を合わせて計26クラブ(2025シーズンより、華城(ファソン)FCがKリーグ2に参入)が所属している。
仮にいくつかのクラブが外国籍守護神を獲得しても、過去に起きたクラブの大半を外国籍GKが牛耳る事態にはならないだろうと連盟は予測している。
今季からACLでは外国籍選手枠が撤廃された。今後Kリーグ勢が、さらに競争が激化するアジアの戦いを勝ち抜くためには、GKのポジションに外国籍選手枠を充てる選択肢も必要になるだろう。
東欧とのつながりとポーランドの可能性
Kリーグで再び外国籍GKの登録が解禁された場合、どのような国から選手を獲得するのだろうか。いままでの同リーグの選手補強から推測すると、東欧諸国とのコネクションは無視できない。Kリーグではこれまで、多くの東欧出身の選手が活躍してきた。
特に旧ユーゴスラビア圏から、十分な実績を持った選手からポテンシャルを秘める若手選手がやって来た。神戸に在籍したFWステファン・ムゴシャ(モンテネグロ代表、Kリーグ2仁川ユナイテッド)は現役のモンテネグロ代表選手として2018年に仁川へ加入し、昨季1部得点王に輝いた。現在もKリーグでプレーしながら同国代表に選出され続けている。
仁川で活躍し、来季からJ3に参入する栃木シティFCに入団したDFマテイ・ヨニッチ(クロアチア)や、クロアチア代表として2022年のカタールワールドカップに出場したFWミスラフ・オルシッチ(キプロス1部パフォスFC)は、クロアチアの年代別代表の経歴を引っ提げ、全南ドラゴンズ、蔚山現代でプレーした。
東欧のGK大国として知られているポーランドは、プレミアリーグ・アーセナルで長きに渡って活躍したスペイン1部バルセロナGKヴォイツェフ・シュチェスニを筆頭に、プレミアリーグ・ウェストハムで守護神を務めるウカシュ・ファビアンスキ、イスタンブールの奇跡の立役者であるイェジー・ドゥデクと数々の名守護神を輩出してきた。
かつてJリーグで活躍したGKクシシュトフ・カミンスキー(同国1部ポゴニ・シュチェチン)とGKヤクブ・スウォビィク(トルコ1部コンヤスポル)が存在感を見せた。
多くのJクラブがポーランド人守護神の牙城を崩せずに苦しんだ。韓国にも日本で圧巻のパフォーマンスを披露したポーランド人GKたちの情報は入っているはずだ。
過去に4人のポーランド人選手獲得の実績がある済州SK FC(Kリーグ1)はもちろん、他の国内クラブも同国から優秀な守護神の獲得を狙うかもしれない。
旧ソビエト構成国への期待も
サリチェフのような旧ソビエト連邦構成国からのGK獲得も十分に考えられる。近年のKリーグでは、元ジョージア代表MFヴァレリ・カザイシュビリ(中国1部山東泰山)や同代表FWベカ・ミケルタゼ(J2モンテディオ山形)を筆頭にジョージア人選手の活躍が目立つ。
コーカサス山脈の南麓にあるワインの名産地は、能力に長けたGKを産出している。
スペインの名門バレンシアで頭角を現し、今季リヴァプールへステップアップした期限付き移籍中のバレンシアGKギオルギ・ママルダシュヴィリをはじめ、同国代表で78出場と6番目に出場数が多いGKギオルギ・ロリア(キプロス1部オモニア・アラディッポウ)、5大リーグクラブで初めて守護神を務めたジョージア1部FCイベリアGKギオルギ・マカリーゼが名を連ねる。
昨季は蔚山HD FC(Kリーグ1)のジョージア代表MFギオルギ・アラビーゼが攻撃の軸として活躍し、チームのリーグ優勝に貢献した。
ジョージア人選手以外にも、FWスタニスラフ・イルチェンコ(ロシア、Kリーグ2水原三星)や大田ハナシチズンにはアゼルバイジャン代表DFアントン・クリボチュク、ラトビア代表FWブラディスラフス・グトコフスキスが所属するなど、旧ソ連圏出身の選手たちが数多く活躍している。
現在、サリチェフがKリーグ2の天安(チョナン)シティFC(Kリーグ2)でGKコーチを務めており、同氏がロシアやその周辺国出身の守護神との橋渡し役となる役割も期待できる。
2月15日に開幕を迎えるKリーグ1。昨年12月には早ければ来季から外国籍GKの登録が解禁されると報じられたが、開幕まで1カ月を切ったこのタイミングで新たに選手登録制度を変更する可能性は低く、2026シーズン以降の導入が現実的だ。
かつて元日本代表GK川口能活氏が「チャンスがあればKリーグでプレーしてみたい」と話していた。近い将来、日本人GKのKリーグでのプレーが実現するかもしれない。