パリス・ヒルトンが腸内マイクロバイオーム(腸内細菌叢)の検査を受けた結果、ブロッコリーを避けるように言われたと公表したことが、今大きな話題になっている。
健康的な食べ物の象徴でもあるブロッコリーが、 食べてはいけない食品だったなんて。
これは、腸内健康への関心の高まりと、腸内細菌検査という急成長中の企業を浮き彫りにしている。腸内の秘密を解き明かし、個別にアドバイスを提供すると謳うこれらの検査。確かに魅力的ではあるものの、果たしてその評判に見合う価値は本当にあるのだろうか、それとも、ただの高額な科学実験に過ぎないのだろうか?
栄養士であり、キングス・カレッジ・ロンドンの腸内マイクロバイオームの研究者である私が、腸内マイクロバイオームの真実を解説するとしよう。今回はこの内容をイギリス版ウィメンズヘルスからご紹介。
腸内マイクロバイオームとは?
あなたの腸内マイクロバイオーム(腸内細菌叢)とは、肉眼では見えない100兆もの微細な住人が住む繁栄した都市のようなもの。
微生物として知られるこれらの小さな住人は、細菌、真菌、ウイルスなど多種多様で、食べ物の消化を助けるだけでなく、免疫系を強くしたり、気分や活力にまで影響を与えている。
腸内マイクロバイオームは一人ひとりが異なり、あなたの腸内マイクロバイオームはまさに唯一無二。食事や生活習慣、さらには生まれ方によって形成されたものである。
健康な腸内マイクロバイオームは、「多様性が高い」状態、つまり、さまざまな微生物が協力し合って機能している状態と説明されることが多い。一方で、腸内にいる微生物の種類は人によって大きく異なるため、ある人の腸内マイクロバイオームが他の人よりも“優れている”とは簡単に言えるものでもない。
腸内マイクロバイオームを調べる方法は?
自分の腸内に何が住んでいるのか気になる人には、腸内マイクロバイオームがその真実を解き明かしてくれる。この検査はかなりシンプルで、便のサンプル(容器に入れた少量の便)を研究室に送るだけ。あとは、研究者がそのサンプルを分析して腸内にどんな微生物がどれくらい住んでいるかを調べてくれる。
結果には、腸内にいる微生物の種類や、場合によっては「健康スコア」が示されることもあるが、その科学的な根拠は不明確であり、第三者による検証も行われていないのが現状。
多くの企業は、あなたのユニークな腸内微生物叢に合わせた食事やライフスタイルのアドバイスを提供している。最先端でかなり個別化された印象はあるものの、ちょっと冷静になって考えてみてほしい。これらの検査には100ポンドから300ポンド以上(約19000円〜58000円)の費用がかかり、最大の疑問は、それだけの価値が本当にあるのかということだ。
腸内マイクロバイオームの検査結果は信頼できる?
この検査ができることは、あなたの腸にどんな微生物がいるかを教えてくれること。ただそれだけ。
科学はまだ追いついておらず、現時点では、各個人にとって「理想的な」微生物叢がどんな状態であるものかが完全に解明されていない。ある人にとっては健康なものが、別の人にとってはそうでないこともある。また、重要なのはどんな微生物がいるかではなく、それらがどんな働きをするのか、つまり、どんな分子を作り出し、それが体とどう作用しているのか、という点なのだ。
また、微生物が「良い」か「悪い」かは、状況次第で変わることが多い。多くの微生物は、ある場面では役立っても、別の場面では問題を引き起こすことがあるため、それらを一概に「健康的」か「不健康的」か判断するのは難しい。
腸内の微生物について知れるのは興味深いけれど、この情報が、必ずしも「検査なしで得られる無料のアドバイス」以上に役立つとは限らない。
この検査が提供できるのは、ある一瞬のスナップショットに過ぎない
私たちは、特定の食品がどの微生物にどんな影響を与えるのか、まだ十分に理解できていない。同時に、特定の食品が、腸内で特定の細菌を確実に増やすことができ、検査結果に基づいて食事を調整すべきだと示唆する証拠もまだない。
食事の改善は腸内マイクロバイオームに大きな影響を与えるが、そのアドバイスとしては、誰にでも当てはまる一般的なガイドラインがある。例えば、食物繊維が豊富な全粒穀物や野菜、果物、豆類、ナッツ、種子を多く摂ること。こんなことは、検査を受けなくてもわかることである。
そして、これだけははっきりさせておこう。腸内細菌検査が、ブロッコリーのような健康的な食材を避けるべきだと伝えることは、決してあってはならないこと。
腸内マイクロバイオームは常に進化しており、絶えず変化し続ける生きた生態系であることも忘れてはならない。食べたもの、ストレスレベル、睡眠時間さえも、毎日のようにその構成に影響を与えている。つまり、腸内細菌検査が提供できるのは、ある一瞬のスナップショット(瞬間を切り取ったもの)に過ぎず、腸の健康の全体像を把握できるものではない。
腸内マイクロバイオームの検査は役に立つ? 何を学べるの?
腸内マイクロバイオームの検査は、せいぜい腸内で何が起きているかを覗き見する楽しみ程度のものにすぎない。
要するに、映画のエンドクレジットを読むようなもので、興味深いけれど、健康改善にどう活かすかという点ではあまり有益ではない。
多くの検査結果では、「食物繊維が豊富な野菜を摂るべき」とか「発酵食品を試してみよう」などと言うけれど、それも検査なしでわかること。また、「特定の“良い”細菌が少ない」と表示されたとしても、それを特定の食べ物やサプリメントで増やしたからといって、健康に顕著な違いが出る保証もない。
検査を受けずに、それで浮いたお金を食物繊維が豊富な食材に充てるほうが、腸内細菌にも自分の健康にも良い結果をもたらすことができる。野菜、豆類、果物、全粒穀物、ナッツ、種子などは、腸内細菌のエサとなり、繁殖を助けてくれるから。
まとめ
腸内細菌検査は興味深いかもしれないが、実際には「必要」というより、「目新しいもの」にすぎない。確かに、腸内にどんな微生物がいるかはわかるが、その高額な価格に見合うような、実用的で個別なアドバイスは得られない。それを裏付ける科学的根拠が十分にないからだ。それよりも、すでに効果があるとわかっていること、つまり食物繊維が豊富なさまざまな食品を食べること、定期的に運動すること、よく眠ること、ストレスを管理することに集中したほうがいい。そのほうがお財布にもやさしく、健康を改善できることが証明されている。おまけに、便を掬う必要もない。
※この記事はイギリス版ウィメンズヘルスの翻訳をもとに、日本版ウィメンズヘルスが編集して掲載しています。
Text: Dr Emily Leeming Translation: Yukie Kawabata