あらゆるアイデンティティーや関係性において「多様性」が叫ばれる昨今。恋人や好きな人を1人に決められない、もしくは“決めずに”複数のパートナーと同時に関係を結ぶ「ポリアモリー」を自称するアラサー女性がいる。
「ポリアモリー(複数愛)」は“多様性”と呼べるのか
「私には複数のパートナーがいる」
こう話すのは、ミカコさん(仮名/27歳/会社員)だ。彼女は現在、都内の製薬会社の研究職員として働いている。彼女は自身を「ポリアモリー」だという。
「ポリアモリー(複数愛)」とは、複数のパートナーと同時に関係を結ぶ恋愛スタイルのことを指す。近年、多様性の観点として語られることも多い。
「経済的にも自立している」と話すミカコさんに結婚や出産願望はない。彼女は大学院を卒業してから同時に複数のパートナーと恋愛関係を結んできた。
「大学時代に特定の彼氏がいたこともありますが、束縛が強く、その束縛に耐えられなかったのと、束縛に耐えかねて男友達に彼氏のことを相談したときに、その人を好きになったり……と、自分の恋愛指向は“1人だけに向くものではない”と思い始めて」
ミカコさんは、次第に複数のパートナーと関係を結ぶようになったという。
「映画に行くのはこの人、性的関係はこの人、食事はこの人……という感じでそれぞれ役割分担を決めているような感じです。1人に依存するより気持ちが楽」
ミカコさんには現在、2人のパートナーがいるが、最も多い時は4人のパートナーがいたという。ミカコさんのポリアモリーとしての性質を聞くと、「浮気や不倫と何が違うの?」という声も聞こえてきそうだが、ポリアモリーが浮気や不倫と違うのは、全ての関係で透明性が保たれ、全員の同意があるという点だという。
複数のパートナーと関係を持っていることについて、パートナーたちはどう思っているのだろうか。
筆者がミカコさんに問うと、「だいたい(パートナー)は知っている」と答える。トラブルはないのかについても聞いてみたが、「トラブルになりそうな人とは関係を持たない」のだそうだ。パートナーには、事前に自身の価値観について、オープンに話しているという。
「結婚願望もないし、お金も仕事もある」、だから複数恋愛ができる?
ちなみに、ミカコさんは自身に複数パートナーがいることを「話せそうな友人には話す」と明かした。
「『そんなふわふわしてられるのは若いときだけかもよ?』って友達に言われて、『結婚願望もないし、お金も仕事もある。互いにOKな関係であれば不倫や浮気よりマシじゃない?』と答えたら友達は『なるほどねえ』と考え込んでいました」
結婚適齢期のアラサー女性にとって、恋愛の最終着地点は結婚であることが多い。しかし、ミカコさんのように結婚願望がなく、かつ自立している場合、パートナーを1人に決める必要性を感じないケースもあるようだ。
多様性の裏で、行き過ぎた価値観の“押し付け”はないのか
ポリアモリーについて、どのくらいの人が許容できるだろうか。
1月15日、婚活メディアなどを運営するノマドマーケティングが「ポリアモリーに関する意識調査」を発表した(全国の20~59歳以下の男女3000人を対象にインターネットを用いて実施)。調査の中で、「ポリアモリー」について、どのようなイメージを持つかどうか尋ねたところ、男女ともにトップとなった回答は「理解できない」(1038人)、次いで「自分には無理だと思う」(841人)と、ネガティブなイメージが票を集めた。
一方で、「全員が幸せならいいと思う」(580人)など、当事者への理解を示す回答も一定数票を集めている。
ミカコさん自身も「パートナーにはポリアモリーについて理解や同意を得ている」と話している。しかし「クリスマスイブを誰と過ごすかで揉めたことがある。(私と過ごせなくて)我慢してくれたパートナーがいる」「『他の人と別れて』と言われたことがある」という。多くの恋愛には、嫉妬や束縛がつきまとう。ミカコさんに恋愛感情があるがゆえ“複数恋愛を受け入れざるをえなかった”パートナーがいる可能性もある。
ポリアモリーは多様性の観点として語られるようになった言葉だが、ミカコさんのようなケースは、相手の恋愛感情を利用した、行き過ぎた価値観の“押し付け”になる可能性をはらんではいないだろうか。
「自分の考え(ポリアモリー)を押し付けるつもりは一切ない」と話すミカコさん。
皆さんはポリアモリーについて、どう考えるだろうか。
この記事の筆者:毒島 サチコ プロフィール
ライター・インタビュアー。緻密な当事者インタビューや体験談、その背景にひそむ社会問題などを切り口に、複数のWebメディアやファッション誌でコラム、リポート、インタビュー、エッセイ記事などを担当。
文:毒島 サチコ